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五反田の涼子の自宅にて祈織と落ち合う。アキラは母親からお小遣いをもらい、さらに沖縄の親戚のおじさんとおばさんから幾ばくかの資金援助をして頂いて、旅の資金に加算した。ライトが祈織の実家を知っている以上、今、家に帰すのは危険だ。祈織の衣服も買ってあげなければならない。もっとも、経済的に自立していて田園調布の実家住まいの祈織のことだから、むしろ買って貰うことの方が多いのかもしれないが。
涼子のマンションは防音対策が万全で3LDKという間取りだ。製作部屋と書斎があり寝室がある。二人でもくつろげるくらい広い部屋に住んでいることで、祈織も随分リラックスしている。涼子はここ数日、製作部屋に引きこもりっぱなしだったらしい。毎年バースデーライブには新曲を書きおろしている。
「アキラそろそろじゃない?」
昨日の妖艶な姿とは打って変わって髪の毛がボサボサの浪人生のような恰好した涼子が言う。
「じゃあ祈織ちゃん、行こうか」
「はい」
手荷物もカバン一つだけの沖縄旅はこれがはじめてではない。だが、金持ちの詩音が一緒でないのは少しだけ心もとない。詩音には冷たくしすぎたかもしれないが、それもまた運命だ。
9月の風が吹き抜けていく。どこか懐かしくて、少しせつなくて。涼子と会えない日々が続くが、セックスから始まった恋愛の行きつく先が幸福であるよう祈った。
五反田駅前でタクシーを拾う。
時刻は13時半過ぎ。フライト予定時刻は15時30分のスカイマークなので、一時間前には羽田に着く予定だ。
祈織はずっとユニクロとGUのコーデで我慢してもらっている。しかし、何も悪いことをしていないというのに、わざわざ沖縄へと逃避行しなければならないとは。
羽田のロビーに到着すると、ライトに張られている可能性を考慮し、展望デッキへと向かった。ここならば、不意に後ろから刺されることはないだろう。
太陽の日差しが雲に隠れた。天気予報では雨は降らないらしい。ジェットエンジンを吹かしながら飛行機が次々と飛んでいく。
「アキラさん。ライトは沖縄まで追ってきますかね?」
「まぁ90パーセントない。残りの可能性は消費者金融に金を借りるくらいだけど、よっぽど大物のスポンサーがつかない限りないよ」
「そうですよね。ライトの財布みたら、2千円しか入ってなくてびっくりしました」
「まぁ、肉体労働者だから、あまり大金は入れられないんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。作業してるとお尻にも汗かいてバックポケットにしまってあるお札が濡れちゃうこともあるからね。それに、盗まれる可能性だってあるから」
「それにしても、蒲田で飲んでた割には所持金が少ないような………」
「まぁ、あんまりお金持ってないのは想像つくよ。一日汗まみれで働いたって一万二千円しか貰えない。しかも、天候不良や現場がなかったら休まされて稼げない」
「ライトの事は嫌いではないけれど、好きでもない。なぜ結婚をほのめかすようなことを言ったのか。謎です」
「夢追い人というのは、夢を食べて生きている。現実がよく見えていないんだよ。でも、それは僕にも同じことが言える」
「アキラさんは夢つかめる人ですよ」
「だといいんだけど」
「さぁ、そろそろ行きましょ」
祈織に手を引かれて展望デッキを後にした。手と手から伝わってくるその波動は、まだ汚れを知らない少女のように柔らかく温かい。
初めて詩音とキスした時を思いだした。いい人の一人や二人いてもおかしくないような活発な性格のくせして、まだ男性経験もなかったなんて信じられなかった。「セックスって気持ちいいの?」って涙目で聞いてくる彼女のこと、この子だけは大切にしなきゃいけないって誓ったのに。些細な口喧嘩でまた離れて、もう寄りを戻すことはないだろう。今はただ守りたいだけなのだ。僕の隣にいる純白の天使を。




