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アキラと詩音はホテル暮らしをして2週間が経過した。
今日は9月15日、新月の日だ。
この2週間で、詩音との心の距離が近づいた気がしている。祈織を涼子の家に預けて、アキラチームはライトとの対話のチャンスを伺っていた。お金の面は星崎財閥の一人娘である詩音がいるので、なんの心配もなかった。有事にはすぐに蒲田に帰れるように、ローズホテルからJR東日本ホテルメッツ川崎へと拠点を移動した。
10時を過ぎて、詩音が本を買いたいというので、川崎駅直通のラゾーナ川崎へと向かう。
詩音はヒステリックグラマーのロングTシャツに星のモチーフが入ったジーパン、足元はヒールの高い黒のサンダルを履いている。アキラもジーパンと黒いTシャツにエメラルドグリーンのサマーカーディガンを羽織って腕の裾をまくっているラフなスタイルで出かけた。特別、街へ出るという意識はなく地元蒲田にいるような感覚で歩けるのが魅力的だ。
ラゾーナ川崎は2006年に開業した大型ショッピングモールで、主に20代から30代の女性やカップルをターゲットにしている。家族連れで来る人も多い。
大型書店に辿りつくと、アキラは真っ先に占いコーナーへと向かった。つられて詩音もくっついてくる。
アキラが手に取ったのは四柱推命の本。隣では詩音が2024年の運勢を立ち読みしていた。四柱推命とは、6世紀から7才世紀ごろの髄・唐の時代あたりから始まったとされる占いのことで、東洋占星術の中では一番的中率が高いとされている。アキラは運気が上がる色や数字が解る琉球占術と月の暦から占う宿曜占星術を使用しているが、独学で四柱推命の勉強もはじめているのだ。しかし、本を買うほどではない。すでにユーチューブなどの動画サイトで四柱推命の解説動画がたくさんあがっているからだ。それ以上の知識を求めるのであれば、40万弱のお金を払って弟子入りするしかないだろう。
過去にアキラは涼子との相性を調べてみたことがある。天地徳合という夫婦としては最高の相性だった。詩音とは干合という淫乱の合がでている。どちらも運命の人なのだ。そして、祈織とは支合という肉体的な結びつきが強い間柄と出る。この広い世の中で運命の人が三人もいる。神様は三人の中からたった一人を選べというのか。占術を学べば学ぶほど、生活自体は良くなっていくが、解らないことがたくさんありすぎる。
「わたし、来年の運気めちゃいいみたい!」
詩音が興奮気味に言う。過去に想いを馳せていたアキラは現実に引き戻される。
「そうだね。詩音ちゃんは来年からまた運気がよくなるよ」
「スピーディに物事が進み、活発だって」
詩音は喜びを噛みしめた。
「まぁ、その占い師さんは良いことしか言わないから」
「そうなんだ?」
「僕も基本的には良いことしか言わないけど、リアルな仲間にはきついことも言う」
「祈織ちゃんって運気悪いの?」
「まぁ、怖いこというようだけど、試練の年だよね。それを過ぎればだいぶ楽になる」
「それで、ライトって人、いつ頃復讐に来るの?」
「具体的な日にちまでは解らないけれど、新月の今日から9月29日の満月までの間かな。それをしのげば問題ない」
「祈織ちゃんは無事かしら」
「涼子さんが全面的に守ってくれているから大丈夫。そもそも、祈織ちゃんと涼子さんの関係は姉妹に近いものがあるから」
「でも、安心してはいけないね。蒲田の火災でも死者がでたみたいだし、なんだか不気味じゃん」
「そうだね。あるとあらゆるケースを想定しておかなければならない」
「さて、私は空手の本を探しにいくから、何かあったらLINEして」
「空手?相変わらず渋い趣味してるね」
「護身術だよ。自分の身は自分で守らないと。なんせアキラが頼りないからね」
「俺だって昔は………」
「いじめられっ子だったくせに」
「仕方ないだろ?女を殴れと言うのか?」
「アキラは甘いよ。まずは、身体と心を鍛えて相手から舐められないようにしておくのが男子でしょ?」
「馬鹿は相手にするだけ無駄だよ!」
「なに怒ってんのよ!」
「サヨナラ」
アキラはそう言って逃げる様にショッピングモールの人込みの中へ入っていった。
アキラは久しぶりに頭にきていた。理由が何であれ、他人の自己評価を下げる人間は嫌いだ。それが例え、過去に愛した女であってもだ。そんなにひ弱な男がいやならば、空手家か柔道家とでも付き合えばいい。俺はあくまでも頭脳労働者なんだ。必要とあれば、頭脳で戦うのが流儀だ。今、バカにされたこと、冗談だったとしても許しはしない。もうこんなお遊びはおしまいにしよう。詩音とのペアは解消だ。
アキラは身一つでホテルを出ることにした。
詩音から買って貰った服などは、全てゴミにしてしまえばいい。財布とスマホ、替えの下着さえあれば大丈夫だ。肉弾戦は好きではないが、女に守ってもらうほど落ちぶれちゃいない。もし仮にライトと殴り合いの喧嘩になったとして、殴られてから交番に行けば、暴行罪か傷害罪で15年以下の懲役科すことができる。前科がついてしまえば、まともな職業に就くことはできない。竹田だって前科者を現場にいれるほど優しくはない。金がなきゃまた犯罪に手を染める恐れもあるが、祈織のことは諦めるだろう。アイツが復讐したいのは俺だけだ。だったら、隠れているよりもこちらから呼び出して、ハメてやればいい。
アキラは冷静さを失っていた。着の身着のままで京浜東北線に乗り、JR蒲田へと向かう。ここが男たちの戦場か。叩かれて叩かれて、そして磨かれて本物の男になっていく。京浜東北線の車窓から多摩川が見える。東京と神奈川の県境だ。本来、地元で起こった喧嘩ならば地元でケリをつけるのが筋なのだろう。昔、よく見たヤンキー漫画の世界。それは子供じみたファンタジーだと思って馬鹿にしていた。けれども、憧れでもあった。
冷静と情熱の間で揺れ動くこの心。宮沢賢治が春の修羅ならば、俺は秋の修羅だ。
JR蒲田駅へ着くとすぐに涼子へLINE通話をした。
「アキラ?どうしたの?」
「涼子、いますぐお前が欲しい」
怒りに身を任せ修羅となったアキラはついには、餓鬼道まで堕ちた。




