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 ローズホテル横浜のダイナスィートルームに、詩音と涼子を呼び出した。

祈織と詩音ははじめての顔合わせだったが、軽く自己紹介をして打ち解けたようだ。詩音との関係はうやむやになったが、全ては祈織の身を護るための作戦会議だ。

 アキラを中心にして、右に祈織、左に詩音、その隣に涼子が座った。傍からみればまだ起きてない未来のために何を話すのか?と馬鹿にされてもおかしくはないだろう。しかし、アキラには見えている。きっとライトは復讐に来る。その時に祈織が傍にいられると、はっきり言って邪魔なのだ。冷静に対話で解決するにしても、蹴りをいれた分だけは返ってくるだろう。しかし、占術にははっきりと出た。このままでは死人が出る、と。その不確かな未来のために、こうして女性陣に集まってもらっている。情けないことではあるが、占術師として、最悪の未来だけは避けたいのだ。

「アキラそれで、ライトって人本当に復讐に来るの?」

 涼子が言う。

「あぁ。それだけは間違いない」

 アキラは腕を組み唇を結んだ。

「皆さん、私の事ですみません」

 祈織が言うと「別に祈織ちゃんのせいじゃないよ」と詩音はかばう。

「それで、ターゲットは祈織ちゃんなの?アキラなの?」

 涼子は尋ねる。

「ライト君のターゲットは俺だが、奴は祈織ちゃんに好意を寄せている。それが問題なんだよ」

「でも、それって何が問題なの?」

 詩音が口を挟む。

「長くなるけど聞いてくれ。そもそも、すべてはライト君の勘違いなんだ。僕と祈織ちゃんがラブホテルにいたのは間違いない。事実だけど、やましいことは何一つしていない。僕にセラピストとしての一面があることは涼子さん以外、みんな知っているはずだ。僕はあの夜、祈織ちゃんからの依頼でマッサージをしていた」

 祈織は頬を赤くし、詩音は少しいら立っている。涼子はさほど驚かなかった。

「僕は蒲田という街を甘くみていた。まさか明け方に、同級生の部下から襲われるとは思ってもみなかった」

 アキラは事件が起きることを薄々は解っていた。だが、こんな早くに起きるとは予想外だった。今でも衝撃を隠せない。アキラは話を続けた。

「まず、僕は占術師として、祈織ちゃんの周囲に問題児が集まる傾向にあると予測していた。しかし、その問題児が祈織ちゃんの幼馴染だということまでは、見抜けなかった」

「そんなのもう起こったことを何度も話しても仕方ないじゃない」

 詩音は正論を言う。

「そう。だけど、占術が科学であるという僕のスタンスを明確にしたかったのと、予言が的中してしまったことを、改めて確認したかったんだ」

「アキラの占術の精度が高いことは私も良く知ってるわ。詩音だってそうでしょ?」

 涼子の言い分には、詩音は黙って頷くだけしかできなかった。

「私のことだったら心配ありません。ライトだっていちおう幼馴染だし、私の方こそアキラさんから離れれば復讐なんてしないのではないでしょうか」

 祈織の言葉には満場一致で反対だった。

「そんなことしたら余計ダメだよ。祈織ちゃんをみすみす不幸にするわけにはいかない」

 詩音が言うと涼子も頷く。

「そうそう。アキラが反対してるってのは祈織ちゃんとライト君の相性が悪いからでしょ?」

 涼子が尋ねる。皆がアキラの顔を伺う。

「安壊という最悪の相性なんだよ」

「あんかい?」

 詩音と涼子の息が揃う。

「そう、安壊。宿曜占星術という月の暦をベースとして占う占術において、安壊とは壊し壊される最悪の相性なんだ。この安壊の怖いところは、一目ぼれみたいに運命を感じて結ばれるのだけれど、最後は必ず、憎しみあって別れるということなんだ」

 アキラ以外の一同が静まり返った。

アキラとしては脅すつもりはなかった。約40年に及ぶ人生経験の中での気づきと、古代から蓄積されたデータベースの信頼性の高さ。それらを基に判断していくのが占術である。もっとも、アキラは運気の流れみたいな非科学的なモノを読み解くことは得意ではないが、それは目には見えなくても事実存在する。本当の占いとはけっこう怖いものなのだ。それをあくまでもエンターテイメントとして提供しているだけに過ぎない。

「あんかい。祈織ちゃんとライト君の相性が悪いってことはもしかして………」

 詩音が言う。

「そう。僕と祈織ちゃんがソウルメイトである以上、ライト君とは安壊ということになる。しかも、相手の方が壊す側に回っているので、敵わない面もある。そこで、詩音ちゃんと涼子さんに協力をお願いしたい」

「ゲームみたいで面白そうね。協力するわ」

 涼子が言うと詩音も「当然私も協力する」と言って張り合った。

「山場は今日の満月から9月15日の新月。そして新月から9月29日の満月。この日の満月は中秋の名月と重なる。それまで逃げ切れば僕らの勝ちだ。ライト君の祈織ちゃんへの歪んだ愛情が断ち切れるのに、たった一か月で十分だ。ただし、涼子さんも詩音ちゃんもライブがある以上はそれを最優先して欲しい」

「わかったわ。9月29日にはバースデイライブがあるからそれだけは外せない」

 涼子が言う。

「私は大丈夫。ちょうどオフの期間だからいつでも協力するわ」

「じゃあ、詩音ちゃんと僕が行動を共にする。祈織ちゃんは涼子さんと一緒に行動して欲しい。ほとぼりが冷めるまで、しばらくは会えないけど、ライト君の気のすむ様に話し合ってもう二度と近寄らないように約束させるから」

 祈織は寂しげな瞳で頷く。涼子は納得がいかないようだったが、詩音だけは元気だった。アキラの作戦は占術を基に決めたことだ。詩音とアキラは最高の相性である栄親であるから、恋心は抜きにしても、事件を解決するパートナーに最も適している。

 初秋の横浜中華街の夜は更けていく。今日はみんなダイナスィートルームで一夜を過ごしてもらうことにした。順番にシャワーを浴びて、涼子と詩音はすぐに寝てしまった。祈織も寝たとばかりに思っていたが、深夜過ぎて、お腹が空いたといって起きてきた。アキラはコンビニへ行きチーズとハムと食パンを買ってきて、キッチンでホットサンドを作ってあげた。祈織はそれを食べ終えてココアを飲んで幸せそうだった。

「なんだか修学旅行みたいですね」

 化粧をおとし髪をヘアピンでとめている祈織が言うと、本当に高校生みたいだった。

「うん。でも僕は高校を中退しているから、修学旅行の経験は中学までかな。こんな修学旅行だったら最高だっただろうにな」

「アキラさんって頭いいのに意外ですね」

「まぁ、高卒認定は取ってあるから、後は通信制の大学へ行けばいいだけだ。でも、今は仕事と小説の執筆で忙しくてね」

「私は看護大を出てますけど、絶対アキラさんの方が勉強できます。知識も広くて深いし。学歴だけじゃ頭の良さは測れないと思います」

「そんなことないよ。僕は自分が興味ある分野しか勉強しない」

「まぁ、今日は修学旅行なんですから、それっぽい話題にしましょうよ」

「どんな話題だったら修学旅行っぽいの?」

 アキラが無邪気に言うと祈織はいたずらっ子のような視線でアキラを見つめる。

「涼子さんと詩音さん。どっちが本命なんですか?」

「はぁ?ちょっと意味が解らないな」

「隠しても無駄です。私に対する態度と詩音さんや涼子さんと接する態度では、かなり温度差があります。それってやっぱり、男女の友情とか成立しないと思うんです」

「祈織ちゃんはなんか誤解してるよ。僕はこう見えてけっこう浮気性だよ。風俗遊びだってするし。祈織ちゃんとだってライト君のことがなければやることやってたかもしれない」

「意外にスケベなんですね。でも、嫌いじゃないです。アキラさんの場合、なんか解らないけど許せちゃう。逆に、一人の女性に縛られるイメージがないです」

「本当は僕だって一人の女性だけを愛し、愛されたい。でも、占い師をやっていることが余計に話をややこしくしている。詩音だって涼子さんだって占術を通せば僕の運命の人だ。占術なんか使わなければこんなに悩むこともなかったかもしれない。策士が策に溺れるとはこのことだよ」

「私は運命の人じゃないんですか?」

 祈織はすこしつまらなそうに言う。

「運命の人だよ。だから悩んでいる………」

「そんなに運命の人って多いんですか?」

「いや、普通の人達は近くにいるご縁ある人を伴侶に選ぶ。けれども、結婚してみてはじめて相性の良し悪しをしることになる。ある人は不倫に走り、ある人は風俗遊びまでは不倫ではないと主張する。ごく一部の人達だけが運命の人と巡り会って一生を添い遂げることになるんだ」

「なんか結婚してまで不倫に走るとか嫌ですね」

「そうだね。さすがに僕も結婚したら不倫はしないかな」

「ねぇアキラさん。誰かと結婚する前に………」

 そう言って祈織はアキラの近くに来て身を寄せる。

「もう一度キスして」

 アキラは祈織の頬に手を添えて唇を奪った。

「ありがとうございます。これでもう充分です」

「よく眠れるといいね」

 今度は祈織の方からアキラの首を掴みねっとりとしたキスをした。

「祈織ちゃん、これ以上は………」

 そ言ってアキラは祈織をなだめる。

「おやすみなさい」

 そう言って祈織はベッドへ向かって歩いていった。


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