第95話 第三因子の正体
翌朝。
アルベルトは珍しく早起きだった。
正確には。
ほとんど寝ていなかった。
理由は簡単。
昨夜表示された通知である。
⸻
特殊条件検出
第三因子候補確認
⸻
夜宝守が誕生した時と同じ表示。
つまり。
異常成功の可能性。
普通の配合ではない。
予測不能。
配合眼でも完全には読めない結果。
配合士なら気にならない方がおかしい。
「寝てませんね」
管理室へ入ってきたリリスが即座に言った。
「少しは寝た」
「その顔で言われても説得力ありません」
完全に研究者の顔だった。
リリスは知っている。
こういう時のアルベルトは止まらない。
机の上には大量の資料。
配合候補一覧。
戦闘記録。
黒霧の森で得た素材情報。
全部広げられていた。
「分かったことは?」
リリスが聞く。
アルベルトは画面を見せる。
そこには異常な一覧が表示されていた。
⸻
黒霧狼王
鋼影狼
成功率82%
上位種
⸻
これは普通。
問題は次だった。
⸻
黒霧狼王
鋼影狼
第三因子発生率
8%
⸻
「出てるんですか?」
「ああ」
リリスが目を見開く。
第三因子。
つまり。
異常成功の種。
夜宝守誕生の原因。
それが最初から表示されている。
初めてだった。
「記録妖精の影響かもしれませんね」
「かもしれない」
リリス進化。
配合眼。
黒霧狼王。
何かが噛み合った結果なのかもしれない。
そして。
さらに驚くべき表示。
⸻
第三因子候補
未確定
複数存在
⸻
「複数?」
「ああ」
普通ではない。
夜宝守の時は一つだった。
今回は複数。
つまり。
結果も複数。
何が生まれるのか分からない。
アルベルトの目が輝く。
リリスは頭を抱えた。
「その顔やめてください」
「面白いだろう」
「絶対言うと思いました」
その時だった。
訓練場側から歓声が上がる。
正確には。
魔物達のどよめきだった。
「何でしょう?」
リリスが映像を開く。
そこには。
鋼影狼がいた。
昇格試練中だった。
幹部候補。
S適性。
その評価に応えるように訓練している。
そして。
今。
鉄牙兵十体を相手にしていた。
一対十。
普通なら無茶。
だが。
鋼影狼は押していた。
速い。
強い。
冷静。
無駄がない。
以前とは別物だった。
「成長しましたね」
「ああ」
アルベルトも頷く。
配合。
進化。
特殊個体。
派手な連中ばかり見ていた。
だが。
鋼影狼は違う。
地道に積み上げてきた。
その強さだった。
その時。
森護兵将が現れる。
試合を申し込んだらしい。
鋼影狼が向き直る。
周囲がざわつく。
幹部候補筆頭。
英雄種。
模擬戦だった。
開始。
次の瞬間。
全員が驚いた。
鋼影狼が先に動いた。
速い。
森護兵将の懐へ飛び込む。
爪。
回避。
反撃。
さらに回避。
互角。
完全に互角だった。
「本当に強くなりましたね」
リリスが呟く。
以前なら勝負にならない。
今は違う。
幹部候補と呼ばれる理由がそこにあった。
戦いは数分続く。
最終的に。
森護兵将が押し切った。
だが。
差は僅かだった。
周囲の魔物達が興奮する。
鋼影狼は負けた。
しかし。
評価は上がった。
間違いなく。
その頃。
黒影樹の下。
ぷには寝ていた。
平和だった。
非常に。
ナイトレイブンウルフも寝ている。
夜宝守だけが働いていた。
黒影果を運ぶ。
積む。
運ぶ。
積む。
完全に倉庫管理人だった。
その時。
ぷにが寝返りを打つ。
ころん。
黒影果にぶつかる。
一個落ちる。
二個落ちる。
三個落ちる。
そのうちの一個が。
ナイトレイブンウルフの鼻先へ転がった。
沈黙。
ナイトレイブンウルフが起きる。
黒影果を見る。
食べる。
通知。
⸻
ナイトレイブンウルフ
進化条件達成率
63%
↓
66%
⸻
夜宝守が歓喜した。
ぷには寝ている。
本人は知らない。
リリスは頭を抱えた。
「またです」
「ああ」
幸運。
もう否定できなかった。
そして。
その日の夕方。
管理室。
アルベルトは一つの決断を下す。
「やるか」
リリスが固まる。
聞かなくても分かった。
鋼影狼。
黒霧狼王。
成功率八十二%。
第三因子候補あり。
異常成功の可能性あり。
その配合だった。
「本気ですか」
「ああ」
アダプトロードも黙る。
森護兵将も見る。
岩牙守護将も見る。
そして。
当の鋼影狼。
静かに前へ出た。
迷いはなかった。
幹部候補。
その先へ進むために。
忘れられた洞窟は再び大きな賭けへ挑もうとしていた。




