第93話 幹部昇格への道
「駄目です」
リリスはもう一度言った。
「まだ何も言ってない」
「言わなくても分かります」
アルベルトは配合画面を見ている。
鋼影狼。
黒霧狼王。
成功率八十二%。
上位種。
魅力的だった。
非常に。
だが。
今回は少し事情が違った。
アダプトロードが静かに口を開く。
「反対」
珍しい。
配合反対だった。
アルベルトも視線を向ける。
「理由は?」
「鋼影狼」
アダプトロードは訓練場の映像を表示する。
そこには鋼影狼がいた。
鉄牙兵を率いている。
指示を出している。
前線を駆けている。
そして。
部隊がきちんと動いている。
「幹部候補」
「ああ」
「今失う」
確かにその通りだった。
成功率八十二%。
高い。
だが。
十八%は失敗する。
幹部候補を賭けるには重い数字だった。
「珍しいですね」
リリスが呟く。
「何がだ」
「アダプトさんが配合反対するの」
確かにそうだった。
普段なら効率を優先する。
しかし今回は違う。
軍師として見ている。
現在の戦力。
未来の戦力。
その両方を。
「まず育成」
アダプトロードが言う。
「昇格確認」
「なるほど」
アルベルトも納得する。
鋼影狼はまだ伸びる。
その可能性がある。
ならば。
一度確認した方が良い。
「本人は?」
リリスが聞いた。
その瞬間。
鋼影狼が呼ばれる。
数分後。
管理室へ入ってきた。
堂々としていた。
以前より明らかに風格がある。
「鋼影狼」
アルベルトが呼ぶ。
鋼影狼が座る。
そして。
配合画面を見る。
成功率八十二%。
上位種。
理解したらしい。
「グル」
落ち着いていた。
意外だった。
もっと反応すると思っていた。
「どう思う?」
鋼影狼は少し考える。
そして。
森護兵将を見る。
次に岩牙守護将を見る。
さらに。
アダプトロードを見る。
最後に。
自分を見る。
「グル」
短く鳴いた。
リリスが首を傾げる。
「何て?」
アルベルトが答えた。
「まだだそうだ」
沈黙。
鋼影狼が頷く。
どうやら正解らしい。
「分かるんですか」
「何となくな」
「便利ですね」
鋼影狼は立ち上がる。
そのまま訓練場へ戻ろうとする。
未練はなさそうだった。
上位種。
魅力はある。
だが。
今ではない。
そんな意思を感じた。
その後ろ姿を見ながら。
アダプトロードが小さく頷く。
「良い」
評価しているらしい。
珍しかった。
その時。
別の通知が表示された。
リリスが目を丸くする。
「ん?」
新機能。
そう書かれていた。
実ダンジョン戦勝利報酬。
どうやら順位上昇に伴う追加解放らしい。
アルベルトが開く。
そこには。
⸻
幹部昇格試練
解放
⸻
沈黙。
全員が固まる。
「何ですかこれ」
リリスが聞く。
説明文が表示される。
⸻
幹部適性保有個体対象
試練突破で能力上昇
指揮能力強化
統率能力強化
特殊称号獲得可能
⸻
管理室が静まり返る。
そして。
全員の視線が一斉に鋼影狼へ向いた。
まだ帰っていなかった。
扉の前で固まっている。
「グル?」
何故見られているのか分からないらしい。
リリスが苦笑する。
「候補ですね」
「ああ」
間違いなく。
鋼影狼のためにあるような制度だった。
その時。
また通知が現れる。
⸻
対象個体
鋼影狼
森護兵将
岩牙守護将
⸻
「え?」
リリスが固まる。
森護兵将までいる。
英雄種なのに。
岩牙守護将までいる。
異常成功個体なのに。
「全員対象か」
アルベルトが呟く。
つまり。
幹部適性を持つ者はさらに成長できる。
そんな制度だった。
その瞬間。
森護兵将が立ち上がる。
やる気だった。
岩牙守護将も拳を鳴らす。
やる気だった。
鋼影狼も尻尾が動く。
やる気だった。
完全に競争が始まっていた。
「面倒なことになりましたね」
リリスが呟く。
「面白いな」
アルベルトが答える。
いつもの反応だった。
しかし。
今回は本当に面白い。
配合だけではない。
育成。
訓練。
昇格。
軍団そのものが進化し始めていた。
忘れられた洞窟はまた新しい段階へ進もうとしていた。




