第87話 黒霧狼王
実ダンジョン戦開始。
忘れられた洞窟の軍勢は黒霧の森へ降り立った。
濃い霧。
湿った空気。
視界の悪い森。
完全な敵の本拠地だった。
「嫌な地形ですね」
リリスが呟く。
「守るには良い」
アルベルトは周囲を観察する。
木々は高い。
足場は悪い。
霧が濃い。
待ち伏せ向き。
自然発生型らしい環境だった。
ダンジョンコアが表示を出す。
⸻
実ダンジョン戦
勝利条件
敵ダンジョンコア破壊
制限時間
24時間
⸻
長期戦も可能。
だが。
アルベルトは長引かせるつもりはなかった。
「偵察」
アダプトロードが指示を出す。
シャドウリーパー。
シャドウウルフ。
数体の斥候が森へ消えた。
待機。
十分。
二十分。
やがて。
シャドウリーパーが戻る。
報告。
敵接近。
数は十以上。
「来ます」
リリスが言った瞬間。
霧が揺れた。
飛び出してきた。
ダークウルフ。
六体。
ブラッドウルフ。
四体。
敵は速い。
一気に距離を詰めてくる。
しかし。
忘れられた洞窟も以前とは違った。
「前へ」
森護兵将が吠える。
重低音。
配下強化発動。
鉄牙兵達が前進する。
激突。
ダークウルフが飛び掛かる。
森護兵将が正面から受け止める。
圧倒。
力負けしていない。
むしろ押していた。
巨大な爪。
横薙ぎ。
ダークウルフ二体が吹き飛ぶ。
さらに追撃。
一体撃破。
「強いですね」
リリスが感心する。
英雄種。
伊達ではなかった。
側面。
ブラッドウルフが回り込む。
そこへ。
岩牙守護将。
巨大な拳が振り下ろされる。
轟音。
地面が砕ける。
ブラッドウルフが転がる。
そのまま重岩熊兵が追撃。
撃破。
アダプトロードが冷静に指示を飛ばす。
「左包囲」
「右抑制」
「中央前進」
軍勢が動く。
狼達は連携が強い。
だが。
こちらも軍団だった。
戦闘開始から十分。
敵先遣隊壊滅。
忘れられた洞窟の勝利だった。
しかし。
アルベルトは首を振る。
「様子見だな」
「ですね」
本隊ではない。
偵察隊。
戦力確認。
その程度だった。
その時。
夜宝守が反応する。
耳が動く。
鼻が動く。
そして。
突然走り出した。
「またですか!」
リリスが叫ぶ。
夜宝守は止まらない。
一直線。
黒影樹の方向だった。
森護兵将が追う。
しかし。
速い。
夜宝守は戦闘能力こそ高くない。
だが。
探索能力は異常だった。
数分後。
戻ってくる。
何かを咥えていた。
黒い果実。
情報解析。
⸻
黒影果
夜属性素材
希少度:高
⸻
リリスが固まる。
夜宝守が誇らしげだった。
当然。
ナイトレイブンウルフへ献上する。
「またですか」
リリスが呟く。
ナイトレイブンウルフは果実を食べる。
その瞬間。
ダンジョンコアが反応した。
⸻
ナイトレイブンウルフ
進化条件達成率
44%
↓
47%
⸻
沈黙。
「増えましたね」
「ああ」
一気に三%。
大きい。
かなり大きい。
夜宝守は満足そうだった。
完全に目的達成である。
◇
その時。
シャドウリーパーが再び戻る。
今度は緊急報告だった。
映像共有。
リリスの表情が変わる。
アルベルトも目を細める。
そこにいた。
黒霧狼王。
そして。
群れ。
二十体以上。
いや。
三十体近い。
さらに。
狼だけではなかった。
黒い影。
大型個体。
見たことがない。
表示。
⸻
シャドウファング
危険度:高
⸻
「幹部ですね」
リリスが言う。
「ああ」
黒霧狼王の横。
護衛。
側近。
そんな立ち位置だった。
さらに。
もう一体。
表示。
⸻
ブラッドファング
危険度:高
⸻
沈黙。
アダプトロードが地図を見る。
森護兵将が牙を鳴らす。
岩牙守護将が拳を握る。
敵もこちらを認識していた。
本隊が動く。
群れ全体が動き始める。
そして。
黒霧狼王が咆哮した。
森全体が震える。
無数の狼が呼応する。
圧力。
統率。
王の力だった。
リリスが息を飲む。
今まで戦った相手とは違う。
四十一年生き残った自然発生型。
その頂点。
アルベルトは静かに笑った。
「面白いな」
「言うと思いました」
リリスは即答した。
黒霧狼王。
シャドウファング。
ブラッドファング。
三十を超える狼の群れ。
対するは。
アダプトロード。
森護兵将。
岩牙守護将。
シャドウリーパー。
そして。
夜宝守とナイトレイブンウルフ。
両軍が向かい合う。
霧の森。
その中心で。
ついに本当の戦いが始まろうとしていた。




