第85話 忠臣という生き物
夜宝守が誕生して一日。
忘れられた洞窟で、誰も予想していなかった異常事態が発生していた。
「変です」
朝一番、リリスが広間を見渡して言った。
「何がだ」
「夜宝守です」
アルベルトも視線を向ける。
そして即座に理解した。
問題は一つではない。
全部だった。
◇
中央広間。
ナイトレイブンウルフが寝ている。
その隣。
夜宝守も寝ている。
ここまでは普通。
問題はその周囲だった。
魔石。
牙。
鉱石。
薬草。
骨。
羽根。
何故か鍋。
何故かスプーン。
何故か片方だけの靴。
広間の一角が、夜宝守の集めた戦利品で埋め尽くされていた。
「……靴?」
リリスが拾い上げる。
夜宝守が慌てて取り返した。
そして。
宝の山へ戻す。
「お気に入りらしい」
「いりませんよね?」
「たぶん」
全員そう思った。
◇
夜宝守の収集癖は想像以上だった。
珍しい物を見る。
↓
拾う。
↓
ナイトレイブンウルフへ献上。
↓
満足。
非常に分かりやすい。
問題は基準だった。
夜属性魔石。
希少鉱石。
魔物素材。
ここまでは良い。
だが。
鍋。
靴。
壊れたスコップ。
意味が分からない。
◇
「グルル」
夜宝守が得意げにスコップを置く。
ナイトレイブンウルフは無反応。
当然だった。
「評価されてませんね」
リリスが言う。
夜宝守が少し落ち込んだ。
分かるらしい。
◇
昼。
アダプトロードが訓練を行っていた。
鉄牙兵。
重岩熊兵。
岩牙兵。
新戦力も増えている。
軍団再編の最中だった。
その時。
夜宝守が現れる。
全員を見る。
そして。
ナイトレイブンウルフを見る。
次の瞬間。
ナイトレイブンウルフの前へ立った。
完全な護衛姿勢。
「過保護ですね」
リリスが呟く。
◇
さらに。
森護兵将が近付く。
夜宝守が立ち塞がる。
アダプトロードが近付く。
立ち塞がる。
岩牙守護将が近付く。
立ち塞がる。
「敵じゃないですよ」
リリスが言う。
夜宝守は納得していない。
完全に護衛モードだった。
◇
しかし。
不思議なこともあった。
ナイトレイブンウルフが移動する。
夜宝守も付いて行く。
これは分かる。
だが。
ナイトレイブンウルフが転ぶ。
夜宝守が先に駆け寄る。
ナイトレイブンウルフが眠そうにする。
夜宝守が静かな場所を探す。
ナイトレイブンウルフが空腹になる。
夜宝守が食べ物を探しに行く。
「保護者ですね」
リリスが言った。
アルベルトも否定できなかった。
忠臣というより保護者だった。
◇
夕方。
ダンジョンコア前。
進化率確認。
⸻
ナイトレイブンウルフ
進化条件達成率
40%
↓
44%
⸻
沈黙。
「増えてますね」
「ああ」
二日で四%。
かなり大きい。
夜宝守が持ち込む素材。
その一部が確実に影響していた。
◇
情報解析。
アルベルトは改めて夜宝守を見る。
⸻
夜宝守
戦闘適性:中
探索適性:高
収集適性:極高
忠誠適性:極高
成長適性:高
特殊特性
王候補補佐
⸻
「補佐か」
アルベルトが呟く。
戦闘特化ではない。
統率特化でもない。
だが。
王候補を支えることに特化している。
そんな個体だった。
◇
その時。
夜宝守が戻ってきた。
今回の収穫。
黒い魔石。
影狼の牙。
希少鉱石。
そして。
木の枝。
「最後何ですか」
リリスが聞く。
夜宝守は自信満々だった。
ナイトレイブンウルフへ差し出す。
ナイトレイブンウルフは枝を咥える。
少し遊ぶ。
満足そうだった。
夜宝守も満足そうだった。
「喜んでますね」
「喜んでるな」
理由は分からない。
だが。
本人達は幸せそうだった。
◇
その夜。
アダプトロードが報告へ来る。
「主」
「どうした」
「準備完了」
軍団再編。
戦力確認。
訓練。
全て終了した。
忘れられた洞窟は過去最高戦力に到達している。
◇
そして。
ダンジョンコアが光る。
全員の視線が集まる。
表示が現れる。
⸻
定期ランキング戦
開催まで
一時間
⸻
沈黙。
リリスが息を吐く。
アダプトロードが頷く。
森護兵将も立ち上がる。
岩牙守護将が拳を握る。
シャドウリーパーは静かに影へ沈んだ。
夜宝守は。
ナイトレイブンウルフの前に立った。
守るように。
当然のように。
◇
942位。
忘れられた洞窟。
定期ランキング戦を迎える。
相手は同期ではない。
上位ランクのダンジョン。
自然発生ダンジョン。
本物の強者達。
アルベルトは静かに立ち上がった。
「行くか」
こうして。
忘れられた洞窟の新たな戦いが始まろうとしていた。




