第84話 第三の因子
忘れられた洞窟中央広間。
アルベルトは昨日の記録を何度も見返していた。
岩牙守護将。
予測結果は岩壁守護兵。
だが実際は全く別の個体が生まれた。
配合眼が外れた。
初めての出来事だった。
「まだ考えてるんですか」
リリスが呆れたように言う。
「ああ」
アルベルトは資料を指差した。
三十二年前の研究記録。
その一節だった。
⸻
予測外変異を確認
第三因子流入の可能性あり
再現不能
⸻
「第三因子?」
リリスが首を傾げる。
アルベルトも頷く。
普通の配合は二体。
三体配合でも三体。
それ以上は存在しない。
少なくとも現在の常識では。
◇
「三体配合とは違うんですか?」
リリスが聞く。
「違うな」
アルベルトは即答した。
「三体配合なら配合眼に表示される」
「確かに」
過去にもあった。
三体配合候補。
成功率も表示された。
予測結果も表示された。
つまり。
三体配合はシステムの範囲内。
予測可能。
だが。
昨日の岩牙守護将は違う。
配合眼は反応しなかった。
予測結果も変わらなかった。
それなのに。
別の結果が生まれた。
「だから予測外なんだ」
アルベルトが呟く。
◇
しばらく考え込む。
そして。
立ち上がった。
「試す」
「ですよね」
リリスは知っていた。
そうなると思っていた。
◇
今回の素材。
⸻
シャドウウルフ
×
アイアンリザード
予測結果
シャドウリザード
成功率 57%
⸻
普通だ。
少なくとも配合眼はそう言っている。
「これで検証する」
アルベルトが言う。
「何をです?」
「第三因子だ」
◇
数分後。
配合陣の前。
素材が並ぶ。
そして。
アルベルトはさらに指示を出した。
「ナイトレイブンウルフを連れて来てくれ」
リリスが嫌な顔をした。
「またですか」
「ああ」
「絶対何か企んでますよね」
「研究だ」
いつも通りだった。
◇
ナイトレイブンウルフが運ばれてくる。
本人はまだ幼体。
状況を理解していない。
そのまま配合陣の近くで丸くなる。
ぷにも転がってきた。
リリスの頭痛が増した。
◇
配合開始。
光が広がる。
シャドウウルフ。
アイアンリザード。
融合が始まる。
順調だった。
予測通り。
そのはずだった。
その時。
ナイトレイブンウルフが小さく鳴いた。
黒い魔力が漏れる。
一瞬。
本当に一瞬だった。
しかし。
配合陣が反応した。
光が揺れる。
アルベルトの目が見開かれる。
「来た」
◇
次の瞬間。
光が爆発する。
轟音。
魔力の奔流。
昨日と同じ現象。
異常反応だった。
◇
やがて。
煙が晴れる。
そこにいたのは。
予測結果のシャドウリザードではなかった。
狼型。
黒い毛並み。
金色の瞳。
影のような身体。
そして。
通知が現れる。
⸻
配合成立
予測外変異を確認
第三因子流入を検出
⸻
沈黙。
さらに表示。
⸻
個体名
夜宝守
新種認定
⸻
リリスが固まる。
アルベルトも無言だった。
研究資料。
第三因子。
予測外変異。
全てが繋がった。
◇
情報解析。
⸻
夜宝守
戦闘適性:中
探索適性:高
収集適性:極高
忠誠適性:極高
成長適性:高
特殊特性
王候補補佐
⸻
また見たことのない特性だった。
◇
その時。
夜宝守が周囲を見回した。
数秒。
そして。
ナイトレイブンウルフを見つける。
次の瞬間。
全力疾走。
一直線。
ナイトレイブンウルフの前で停止。
深く頭を下げた。
まるで騎士。
まるで臣下。
まるで王へ忠誠を誓う存在。
「原因ですね」
リリスが言う。
「ああ」
ナイトレイブンウルフの魔力。
第三因子。
だから。
夜宝守はナイトレイブンウルフへ絶対忠誠を持って生まれた。
◇
昼。
夜宝守は洞窟中を駆け回っていた。
魔石。
牙。
骨。
希少鉱石。
珍しい素材。
片っ端から集める。
そして。
全部。
ナイトレイブンウルフの前へ置く。
完全な貢物だった。
「何してるんですかね」
リリスが呆れる。
「捧げているな」
アルベルトは真面目に観察していた。
◇
さらに。
集める物には共通点があった。
夜属性。
影属性。
希少素材。
進化に関係しそうな物ばかり。
偶然ではない。
◇
その時。
ダンジョンコアが反応した。
⸻
ナイトレイブンウルフ
進化条件達成率
34%
↓
35%
⸻
全員が固まる。
「増えました」
「ああ」
「今の貢物ですよね」
「ああ」
夜宝守の行動が。
ナイトレイブンウルフの成長へ影響している。
◇
夕方。
ナイトレイブンウルフの周囲には小さな宝の山ができていた。
夜宝守はその隣に座る。
当然のように。
護衛するように。
絶対に離れない。
「変な奴ですね」
リリスが言う。
「ああ」
アルベルトは笑った。
異常成功。
第三因子。
予測外変異。
三十二年前の研究者が追っていた現象。
そして。
そこから生まれた存在。
夜宝守は単なる新戦力ではない。
未来の王候補を支える忠臣だった。
忘れられた洞窟はまた一歩。
配合士ですら知らない領域へ踏み込んでいた。




