第81話 先輩卒業生
忘れられた洞窟へ帰還した翌日。
アルベルトは研究資料を読み返していた。
岩牙の巣で発見した記録。
三十二年前の石板。
統率型魔物の観察記録。
どれも興味深い。
だが。
決定的な情報は少なかった。
「やっぱり名前が気になりますか」
リリスが聞く。
「ああ」
石板の署名。
最後の文字だけ残っていた。
◯◯ルト。
偶然かもしれない。
だが気になる。
非常に。
「同じ名前なんて珍しくありませんよ」
「そうだな」
そう言いながらもアルベルトは資料を閉じなかった。
◇
その時。
ダンジョンコアが光る。
新しい通知。
⸻
順位更新反映完了
閲覧可能範囲更新
⸻
アルベルトが画面を開く。
942位。
忘れられた洞窟。
そこから上。
941位。
940位。
939位。
以前より多くの情報が表示される。
リリスも横から覗き込む。
「増えましたね」
「ああ」
そして。
アルベルトはある項目で手を止めた。
⸻
937位
《蒼槍の砦》
分類:卒業生ダンジョン
運営年数:四年
⸻
「卒業生か」
「先輩卒業生ですね」
リリスが頷く。
忘れられた洞窟も卒業生ダンジョン。
だが。
こちらは四年先輩。
学園卒業後も生き残り続けている。
それだけで十分強い。
さらに下を見る。
⸻
934位
《紅蓮工房》
分類:卒業生ダンジョン
運営年数:六年
⸻
さらに。
⸻
931位
《樹海回廊》
分類:自然発生ダンジョン
⸻
「増えてきましたね」
リリスが呟く。
942位。
この辺りから顔ぶれが変わる。
同期卒業生だけではない。
先輩卒業生。
自然発生。
様々なダンジョンが混じり始める。
「面白いな」
アルベルトの目が少し輝いた。
リリスが嫌な予感を覚える。
◇
その日の午後。
アルベルトは資料を整理していた。
岩牙の巣。
統率型。
補給路。
群れの運用。
記録を書き込んでいく。
その様子を見ながらリリスが言う。
「先輩卒業生って気になりませんか?」
「気になるな」
即答だった。
「ですよね」
四年。
六年。
生き残っている。
忘れられた洞窟とは比べものにならない経験を持っている。
育成方法。
戦術。
配合。
参考になるものがあるかもしれない。
その時。
アルベルトの視線が止まる。
937位《蒼槍の砦》。
卒業生ダンジョン。
運営年数四年。
「ここだな」
「やっぱり」
リリスは予想していた。
◇
偵察映像が展開される。
砦型ダンジョン。
石壁。
監視塔。
規律正しく並ぶ魔物達。
最初に見えたのは槍兵だった。
青い鎧。
長槍。
綺麗な隊列。
その動きにリリスが息を呑む。
「凄い……」
無駄がない。
統率されている。
だが。
ホブゴブリンロードや岩牙隊長とは少し違う。
もっと洗練されていた。
軍隊。
そんな印象だった。
さらに映像が進む。
槍兵。
盾兵。
弓兵。
役割分担まで行われている。
「なるほど」
アルベルトが呟く。
「群れじゃない」
「軍ですね」
リリスも同意する。
岩牙の巣が部族なら。
こちらは軍隊。
完成度が違った。
◇
映像の最後。
砦中央。
一体の魔物が現れる。
蒼い鎧。
長槍。
堂々とした姿。
兵達が自然と道を開ける。
明らかに指揮官だった。
⸻
蒼槍騎士
脅威度:高
統率適性:極高
⸻
リリスが黙る。
アルベルトも画面を見る。
強い。
それだけで分かる。
岩牙隊長とは別方向。
統率特化。
軍団特化。
そんな存在だった。
「先輩ですね」
リリスが苦笑する。
「ああ」
アルベルトも頷く。
今までの相手とは違う。
経験。
知識。
積み重ね。
それらが見える。
だが。
同時に興味も湧いた。
非常に。
「戦ってみたいな」
リリスが即座に言う。
「まだです」
「そうだな」
珍しく素直だった。
942位。
忘れられた洞窟はまだ格下。
挑むには早い。
しかし。
目標としては十分だった。
◇
その夜。
ナイトレイブンウルフは研究室で発見した石板の前に座っていた。
じっと見つめている。
何かを考えるように。
その様子を見ながらアルベルトも石板へ目を向けた。
三十二年前の研究者。
統率型の研究。
そして。
読めなくなった名前。
偶然か。
それとも。
忘れられた洞窟に繋がる何かか。
まだ分からない。
だが。
一つだけ確かなことがあった。
942位になったことで。
忘れられた洞窟は新しい世界へ足を踏み入れた。
先輩卒業生。
自然発生ダンジョン。
そして三十年以上前の謎。
その全てが。
少しずつ繋がり始めていた。




