第8話 進化可能
翌朝。
アルベルトはいつもより早く目を覚ました。
正確には、ほとんど眠れていなかった。
理由は一つ。
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アダプトゴブリン
進化可能
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あの表示である。
学園の教科書にも無かった。
研究論文にも載っていない。
少なくともアルベルトの知識の中には存在しない。
つまり。
未知だ。
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「寝てください」
朝一番でリリスが言った。
「寝た」
「嘘ですね」
「二時間は寝た」
「それは寝てません」
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アルベルトは気にせずノートを広げる。
既に数ページが埋まっていた。
進化についての仮説である。
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仮説①
一定以上の成長
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仮説②
戦闘経験
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仮説③
魔力蓄積
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仮説④
追加配合
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リリスが覗き込む。
「全部予想じゃないですか」
「そうだ」
「研究ってそんなもんなんです?」
「最初はな」
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未知の現象。
まず仮説を立てる。
次に検証する。
研究者の基本である。
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「で、どうするんです?」
「試す」
「嫌な予感しかしません」
「失礼だな」
「昨日からずっとしてます」
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アルベルトは立ち上がる。
アダプトゴブリンを呼ぶ。
生まれたばかりだが従順だった。
ゴブリンより賢そうですらある。
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「まずは戦闘だな」
「それは普通ですね」
「普通か」
「今のところは」
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ダンジョンの外。
周辺には弱い魔物が生息している。
最下位付近のダンジョンだからこそ、危険な魔物は少ない。
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最初に見つけたのはホーンラビットだった。
角の生えた兎。
ランクF。
初心者冒険者の訓練相手として有名である。
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「いけ」
アルベルトが指示する。
アダプトゴブリンが飛び出した。
ホーンラビットも迎撃する。
角を突き出す。
しかし。
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バキッ
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角が折れた。
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「うわぁ」
リリスが声を漏らす。
アダプトゴブリンが素手で折った。
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次の瞬間。
拳が入る。
ホーンラビットは吹き飛び、そのまま動かなくなった。
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「強いですね」
「強いな」
「思ったより強いですね」
「思ったより強い」
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アルベルトはノートへ書く。
観察。
観察。
観察。
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「倒したんだから喜びましょうよ」
「記録が先だ」
「研究者ですねぇ……」
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その後も数体の魔物を倒した。
ケイブマウス。
ストーンリザード。
ブラウンモール。
どれも低ランクだ。
しかし。
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進化可能
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表示は消えない。
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「変化無しか」
アルベルトが呟く。
「残念そうですね」
「少しな」
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洞窟へ戻る。
時刻は昼過ぎ。
ランキング戦まで残り二日。
正確には一日半ほど。
無駄な時間は使えない。
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アルベルトはアダプトゴブリンを眺める。
腕を組む。
考える。
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「経験値じゃない?」
リリスが言った。
「経験値?」
「ほら、強くなったら進化とか」
「ゲームみたいだな」
「ゲームって何です?」
「知らん」
「知らんのですか!?」
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自分で言っておいて知らない。
リリスは頭が痛くなった。
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その時だった。
アダプトゴブリンが近くのスライムを見た。
スライムもぷるぷるしている。
何気ない光景。
しかし。
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配合眼が反応した。
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アダプトゴブリン
↓
スライム
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成功率 61%
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アルベルトが固まる。
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「……」
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「どうしました?」
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「見えた」
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「何がです?」
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「配合候補」
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リリスも固まった。
嫌な予感しかしない。
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「やめましょう」
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「まだ何も言ってない」
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「どうせ配合する気ですよね?」
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「少し興味がある」
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「その言い方は大体やる時なんですよ!」
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アルベルトは視線を外した。
図星だった。
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しかし。
彼は考える。
今の戦力は。
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アダプトゴブリン
スライム二体
リリス
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のみ。
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ここで配合に失敗すれば戦力が減る。
ランキング戦も近い。
普通に考えれば危険だった。
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「危険ですよね?」
リリスが聞く。
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「危険だな」
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「じゃあやめましょう」
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「だが」
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「だが?」
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「成功率は六割を超えている」
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「聞いてません!」
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リリスが叫ぶ。
完全に危険な研究者を見る目だった。
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その時。
洞窟全体が震えた。
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ゴォン……
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重い音。
ダンジョンコアが淡く光る。
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アルベルトとリリスが振り向く。
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コアの表面に文字が浮かんでいた。
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ランキング戦まで
残り一日
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「え」
リリスが固まる。
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「早くないですか?」
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「一日経ったからな」
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「そういう問題じゃありません!」
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進化の謎。
新たな配合候補。
そしてランキング戦。
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忘れられた洞窟に残された時間は、思った以上に少なかった。




