第7話 ゴブリン×スライム
「始めるぞ」
アルベルトが静かに言った。
洞窟の中央。
ダンジョンコアの前にはゴブリンとスライムが並んでいる。
ゴブリンはどこか落ち着かない様子だった。
スライムはいつも通りぷるぷるしている。
「本当にやるんですね……」
リリスが不安そうに呟いた。
「やる」
アルベルトは即答した。
「最後のゴブリンですよ?」
「最後だな」
「失敗したら?」
「戦力が減る」
「分かってるならもっと悩んでください!」
リリスのツッコミが洞窟に響く。
しかしアルベルトは真顔だった。
彼にとっては必要な判断だったからだ。
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相手は採掘型ダンジョン。
恐らくこちらより数が多い。
数で勝てないなら質を上げるしかない。
そのための配合。
それがアルベルトの結論だった。
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ゴブリンを見る。
配合眼が反応する。
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ゴブリン
筋力E
知能E
適応力C
成長性E
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スライム
再生能力D
柔軟性C
魔力E
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さらに。
他人には見えない数字が浮かぶ。
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成功率 82%
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アルベルトは頷いた。
十分高い。
少なくとも学園で見てきた失敗例より遥かに高い。
「よし」
「よしじゃないんですよ」
リリスが言う。
「八割ってことは二割失敗するんですよね?」
「そうだな」
「怖いんですけど」
「大丈夫だ」
「根拠は?」
「高いから」
「雑!」
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アルベルトはダンジョンコアへ手を伸ばした。
魔力を流し込む。
するとコアが輝き始める。
ゴブリンとスライムの身体が光に包まれた。
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洞窟の空気が震える。
光が渦を巻く。
魔力が集まる。
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リリスは思わず目を細めた。
何度見ても不思議だ。
二つの存在が混ざり合っていく。
魔法とも違う。
召喚とも違う。
配合。
配合士だけが扱う技術。
だからこそ難しい。
だからこそ不人気。
そして。
だからこそアルベルトが夢中になる分野だった。
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光がさらに強くなる。
やがて。
一際大きく輝いた。
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そして。
静寂。
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光が消える。
そこに立っていたのは――
ゴブリンだった。
ように見えた。
だが違う。
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一回り大きい。
腕が太い。
筋肉量が増えている。
皮膚の一部は半透明で、スライムのような粘性を帯びていた。
普通のゴブリンよりも明らかに強そうだ。
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「ほう……」
アルベルトの目が輝く。
リリスは思わず後ずさった。
その顔は危険だ。
新しい研究対象を見つけた時の顔だ。
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配合眼が情報を表示する。
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個体名 未設定
筋力D
再生能力D
適応力C
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「新種か」
アルベルトが呟く。
学園で見たことがない。
資料にも載っていない。
少なくとも彼の知識には存在しない魔物だった。
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「強いんですか?」
リリスが尋ねる。
「試そう」
アルベルトは近くの岩を指差した。
「殴れ」
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新種の魔物は素直だった。
岩の前へ移動する。
拳を握る。
振り抜く。
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ドゴン!!
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岩が砕けた。
粉々になった。
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「強っ!?」
リリスが思わず叫ぶ。
「予想以上だな」
アルベルトも驚いていた。
普通のゴブリンには無理な威力だ。
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さらに。
拳の皮膚が少し裂ける。
血が滲む。
だが。
数秒後。
傷が塞がった。
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「再生した!?」
「したな」
「便利ですね!」
「便利だな」
「研究者以外の感想も言えるんですね」
アルベルトは聞いていなかった。
既にノートを書いている。
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筋力向上。
再生能力獲得。
知能も微増の可能性。
観察継続。
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どんどん文字が増えていく。
リリスは呆れた。
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「それで名前は?」
「名前?」
「新種なんですよね?」
「そうだな」
「じゃあ名前が必要です」
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アルベルトはしばらく考えた。
この個体の特徴。
適応力。
再生能力。
環境への対応力。
それらを整理する。
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そして結論を出した。
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「アダプトゴブリン」
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沈黙。
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「長いですね」
リリスが言った。
「正式名称だ」
「もっと可愛い名前は?」
「無い」
「研究者って命名センス終わってますね」
「そうか?」
「そうです」
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しかしアルベルトは満足そうだった。
特徴を正確に表している。
研究者としては完璧な命名だった。
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その時だった。
アルベルトの視界に違和感が走る。
アダプトゴブリンの横。
見慣れない文字が浮かんでいる。
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アダプトゴブリン
進化可能
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「……?」
アルベルトの動きが止まった。
初めて見る表示。
学園の資料にも無い。
研究書にも載っていない。
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進化可能。
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「どうしました?」
リリスが聞く。
「分からん」
「分からないんですか?」
「初めて見る」
「嫌な予感しかしませんね」
リリスは即答した。
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アルベルトは文字を見つめる。
進化。
もし本当にそんなものが存在するなら。
配合は終着点ではない。
さらに先がある。
新しい可能性がある。
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「面白いな」
アルベルトが呟いた。
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「その顔やめてください」
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「何だ」
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「ろくでもないこと考えてる顔です」
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「失礼だな」
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「違うんですか?」
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「違わない」
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「認めるんですか!?」
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洞窟にリリスの声が響く。
しかしアルベルトは既に考え始めていた。
進化とは何か。
条件は何か。
どうすれば起きるのか。
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ランキング戦まで残り二日。
忘れられた洞窟は新たな戦力を手に入れた。
そして同時に。
誰も知らない新たな謎も手に入れたのだった。




