第78話 適応する軍団
岩牙隊長の大剣が振り下ろされる。
轟音。
アダプトロードが受け流す。
完全には流せない。
腕が痺れる。
身体が吹き飛ばされる。
だが。
倒れない。
すぐに立ち上がる。
岩牙隊長が目を細めた。
普通なら終わっている。
少なくとも同格以下なら。
それなのに。
目の前の相手は立ち上がる。
しかも。
戦うたびに動きが良くなっていた。
岩牙隊長の胸中に、わずかな苛立ちが生まれる。
一撃ごとに削っているはずなのに、相手は弱るどころか強くなっている。
理解できない現象だった。
だが戦場で理解できないものほど危険だということを、歴戦の隊長は知っていた。
アダプトロードは呼吸を整える。
視界の端では仲間達の動きが見えていた。
森護兵将。
シャドウリーパー。
ナイトレイブンウルフ。
その全てが流れ込んでくる。
適応共有。
進化で得た力。
戦闘中でさえ成長を続ける能力。
岩牙隊長の剣筋。
重心移動。
癖。
攻撃の予兆。
少しずつ理解できる。
そして。
少しずつ対応できるようになる。
だがアダプトロードにも余裕はなかった。
次の一撃をまともに受ければ終わる。
身体の各所は悲鳴を上げている。
それでも目を逸らさない。
ここで退けば仲間達が危険に晒される。
だから適応する。
生き残るために。
勝つために。
「なるほど」
アダプトロードが呟く。
岩牙隊長が再び突撃する。
速い。
だが。
今度は見えた。
半歩だけずれる。
大剣が空を切る。
初めてだった。
岩牙隊長の攻撃が完全に外れた。
その瞬間。
岩牙隊長の表情が変わる。
初めて警戒した。
目の前の相手を。
いや。
警戒だけではない。
焦りだった。
確実に仕留められるはずの敵が、自分の攻撃へ適応し始めている。
このまま長引けばどうなる。
そんな考えが脳裏をよぎる。
その頃。
別の通路。
シャドウリーパーは補給路へ到達していた。
岩陰。
物資置き場。
休憩地点。
そして。
待機中の岩牙兵達。
通常なら見逃される場所だった。
だが。
アダプトロードの指示は違った。
群れを崩せ。
それが命令だった。
シャドウリーパーは影へ沈む。
気配が消える。
次の瞬間。
岩牙兵の背後に現れた。
一撃。
二撃。
三撃。
静かだった。
悲鳴すら上がらない。
補給路が崩れる。
伝令役も消える。
そして。
岩牙隊長の軍団から少しずつ連携が失われ始めた。
森護兵将も異変に気付く。
目の前の岩牙重兵。
先程まで完璧だった動きが僅かに遅れている。
援護が来ない。
連携が噛み合わない。
「そういうことか」
森護兵将が笑った。
拳を握る。
踏み込む。
轟音。
岩牙重兵が大きく後退した。
今度は押している。
確実に。
一方。
ナイトレイブンウルフは戦場を走っていた。
幼体。
まだ小さい。
だが。
その動きは以前とは違った。
敵の位置が分かる。
危険な場所が分かる。
群れの流れが分かる。
まるで戦場全体を感じ取っているようだった。
リリスが驚く。
「また成長してる……」
伝説級候補。
その意味を少し理解し始めていた。
この子は戦う度に変わる。
そして。
その瞬間だった。
ナイトレイブンウルフが突然立ち止まる。
耳が立つ。
瞳が細くなる。
遠く。
誰も見ていない場所を見つめる。
「どうした?」
アルベルトが聞く。
ナイトレイブンウルフは低く唸った。
その視線の先。
岩壁の奥。
そこには。
今まで誰も気付かなかった隠し通路が存在していた。
アルベルトの目が細くなる。
リリスも気付く。
「まさか……」
947位ダンジョン。
その奥。
まだ何かある。
そんな予感がした。
その頃。
アダプトロードと岩牙隊長の戦いは佳境を迎えていた。
岩牙隊長が剣を振るう。
アダプトロードが避ける。
反撃。
命中。
初めてだった。
岩牙隊長へ傷が入る。
小さい。
だが確かな一撃。
岩牙隊長の頬を伝う血。
その感触が現実を突き付ける。
傷を負わされた。
格下と見ていた相手に。
しかも戦うほど強くなる異質な存在に。
岩牙隊長の胸中に危機感が膨れ上がる。
軍団の連携も乱れ始めている。
長期戦はまずい。
早く終わらせなければならない。
そして。
アダプトロードは理解する。
勝てる。
今なら届く。
だが同時に油断もしていなかった。
目の前の敵は依然として格上。
一瞬の判断ミスで全てが終わる。
それでも確かな手応えがあった。
適応は進んでいる。
仲間達も戦況を動かしている。
あと少し。
あと少しで届く。
岩牙隊長も同じだった。
目の前の相手が。
戦闘開始時とは別物になっている。
適応している。
成長している。
戦いながら強くなっている。
それが分かった。
だからこそ脅威だった。
今ここで倒さなければ、手が付けられなくなる。
そんな本能的な警鐘が鳴り響く。
岩牙隊長が咆哮する。
焦燥を振り払うように。
アダプトロードも武器を構える。
勝機を逃すまいと。
互いに相手を最大の脅威と認識していた。
決着の時が近付いていた。




