第75話 岩牙隊長
昇格挑戦戦。
947位。
《岩牙の巣》。
忘れられた洞窟の部隊は慎重に進んでいた。
先頭。
森護兵将。
その後方。
アダプトロード。
さらにリリスとアルベルト。
シャドウリーパーは既に姿を消している。
――――――
そして。
少し後ろ。
小さな影が歩いていた。
ナイトレイブンウルフ。
まだ幼体。
身体も小さい。
戦力としては未完成。
だが。
アルベルトは連れてきていた。
経験を積ませるためだ。
「無理はするな」
アルベルトが言う。
ナイトレイブンウルフが頷く。
まだ幼い。
だが。
瞳だけは鋭かった。
伝説級候補。
配合眼がそう評価した存在。
今はまだ幼体。
それでも。
普通の魔物とは違う何かを感じる。
その時だった。
ナイトレイブンウルフが足を止めた。
耳が動く。
鼻が動く。
そして。
低く唸った。
「どうした?」
リリスが聞く。
返事はない。
だが。
視線が一点へ向いている。
通路の奥。
岩陰。
アダプトロードも反応した。
「いる」
短い言葉。
森護兵将が前へ出る。
戦闘態勢。
次の瞬間。
岩陰から魔物が飛び出した。
岩牙兵。
灰色の皮膚。
筋肉質な身体。
岩の槍。
三体。
同時襲撃。
「来たな」
森護兵将が踏み込む。
激突。
轟音。
一撃で岩牙兵が吹き飛ぶ。
だが。
相手も弱くない。
947位。
新人リーグ上位。
その戦力だった。
二体目。
三体目。
左右から挟む。
だが。
その瞬間。
アダプトロードが動く。
「右」
森護兵将が即反応。
槍を弾く。
反撃。
撃破。
リリスが目を見開く。
速い。
あまりにも速い。
アダプトロードが見ている。
森護兵将の動き。
敵の癖。
地形。
全て。
そして。
適応共有が働く。
森護兵将も理解する。
敵の動きが見える。
戦いやすい。
明らかに違った。
「面白い」
森護兵将が笑う。
珍しい。
本当に珍しい。
数分後。
戦闘終了。
岩牙兵三体撃破。
忘れられた洞窟側の損害はなし。
だが。
アルベルトは戦闘結果を見ていなかった。
視線は別。
ナイトレイブンウルフへ向いていた。
「気付いたのか」
頷く。
小さく。
リリスも驚く。
森護兵将より先。
アダプトロードより先。
シャドウリーパー不在の状態で。
最初に敵へ気付いた。
「感知能力が伸びていますね」
リリスが言う。
アルベルトも頷く。
成長している。
確実に。
その時。
影が揺れた。
シャドウリーパー帰還。
地面へ図を描く。
岩牙兵。
巡回路。
分岐。
そして。
奥。
大きな印。
岩牙隊長
発見
空気が変わる。
ついに見つかった。
さらに続く。
シャドウリーパーが描く。
護衛。
二体。
大型。
「護衛持ちか」
リリスが呟く。
厄介だった。
指揮官だけではない。
守りも固い。
その時。
アダプトロードが地図を見る。
考える。
数秒。
そして。
答えを出した。
「正面は駄目だ」
全員が見る。
アダプトロードは続けた。
「岩牙隊長を倒しても護衛が残る」
確かに。
その通りだった。
「なら?」
リリスが聞く。
アダプトロードが地図を指差す。
巡回路。
分岐。
補給地点。
そして。
一か所。
「ここを潰す」
沈黙。
アルベルトが目を細める。
――――――
そこは。
岩牙兵達が集まる中継地点だった。
――――――
「隊長じゃないのか」
森護兵将が聞く。
アダプトロードは頷く。
「隊長は後」
そして。
静かに言った。
「まず群れを崩す」
ホブゴブリンロード戦。
白骨の墓所。
断鎌の森。
今まで学んだ全て。
それを踏まえた結論だった。
リリスが笑う。
「指揮官らしくなりましたね」
アダプトロードは少し照れた。
その時。
ナイトレイブンウルフが再び唸る。
今度は別方向。
全員が振り向く。
そして。
通路の奥から聞こえた。
重い足音。
――――――
ドン。
ドン。
ドン。
――――――
巨大な影。
岩のような身体。
三メートル近い体躯。
岩牙兵とは比較にならない威圧感。
リリスが息を呑む。
アルベルトも目を細めた。
――――――
岩牙重兵
脅威度:高
――――――
護衛ではない。
巡回でもない。
予想外の戦力だった。
――――――
昇格挑戦戦。
格上ダンジョン。
その本当の難しさが。
少しずつ姿を現し始めていた。




