第74話 昇格挑戦戦
ランキング戦まで二日。
その予定だった。
だが。
忘れられた洞窟にとっては違う。
昇格挑戦戦。
参加条件達成済み。
挑戦可能。
対象ダンジョン
947位
《岩牙の巣》
管理室。
全員が画面を見ていた。
静かだった。
ここまで来るのに時間がかかった。
最初は998位。
スライム二匹。
魔物三匹。
誰も知らない最弱ダンジョン。
それが今。
947位へ挑もうとしている。
「行くか」
アルベルトが言う。
リリスが頷く。
森護兵将が立ち上がる。
シャドウリーパーは影へ沈む。
プニシャドウは跳ねる。
「ぷに!」
そして。
アダプトロード。
新たな主力も静かに前へ出た。
ダンジョンコアが光る。
挑戦申請。
承認。
そして。
画面が切り替わる。
昇格挑戦戦開始
対象
947位
《岩牙の巣》
転送門が開いた。
青白い光。
向こう側に別ダンジョンが見える。
岩で出来た巨大な洞窟。
天井は高い。
通路も広い。
そして。
どこか圧迫感があった。
「広いな」
アルベルトが呟く。
「忘れられた洞窟の三倍くらいありますね」
リリスも分析する。
広さだけなら格上。
だが。
アルベルトは気にしていなかった。
問題は中身だ。
転送。
視界が切り替わる。
忘れられた洞窟の戦力が岩牙の巣へ侵入した。
最初に動いたのはシャドウリーパーだった。
影へ沈む。
消える。
完全潜伏。
偵察開始。
アダプトロードは周囲を確認する。
以前なら。
アダプトナイトゴブリンだった頃なら。
ただ周囲を見るだけだった。
だが今は違う。
視線が鋭い。
敵。
地形。
味方。
全てを同時に見ている。
「左通路」
アダプトロードが言う。
「魔物二」
森護兵将が動く。
迷いがない。
指示が早い。
正確だった。
リリスが目を見開く。
「もうですか」
早過ぎる。
進化したばかりだ。
なのに。
適応指揮が機能している。
その時。
アダプトロードが少し眉をひそめた。
「どうした」
アルベルトが聞く。
「分かる」
短い返事。
そして。
前を見た。
「何がだ」
「皆の動き」
沈黙。
リリスが理解する。
適応共有。
進化で得た能力。
あれが既に働いている。
森護兵将の戦い方。
シャドウリーパーの癖。
プニシャドウの動き。
情報が流れてくる。
理解できる。
共有されている。
「反則ですね」
リリスが呟く。
少数精鋭と相性が良過ぎた。
人数が少ないからこそ。
共有効果が大きい。
その時。
シャドウリーパーが戻る。
影から現れる。
そして。
地面へ図を描いた。
敵確認
岩牙兵
五体
岩牙隊長
一体
「隊長?」
リリスが眉をひそめる。
初情報だった。
アルベルトは地図を見る。
岩牙兵。
恐らく下級魔物。
問題は隊長だ。
指揮官の可能性が高い。
アダプトロードが図を見る。
少し考える。
そして。
答えた。
「先に倒す」
即答だった。
リリスが驚く。
ホブゴブリンロード戦。
白骨の墓所。
断鎌の森。
今まで学んだこと。
それが結論になっていた。
指揮官を潰す。
群れを崩す。
それが格上攻略。
アルベルトは頷く。
「任せる」
短い言葉。
だが。
アダプトロードは少し驚いた。
進化したばかり。
なのに。
指揮を任された。
「いいのか」
珍しく聞き返す。
「そのための進化だろう」
即答だった。
沈黙。
そして。
アダプトロードは小さく笑った。
「分かった」
その瞬間。
指示が飛ぶ。
「森護兵将」
「任せろ」
「正面」
森護兵将が前へ出る。
「シャドウリーパー」
影が揺れる。
「隊長を探せ」
頷く。
消える。
「プニ」
「ぷに!」
元気だった。
「……何を任せればいい」
アダプトロードが困る。
リリスが吹き出した。
森護兵将も少し笑う。
珍しい光景だった。
結局。
プニシャドウは自由行動になった。
「ぷに!」
嬉しそうだった。
そして。
忘れられた洞窟部隊は進む。
岩牙の巣深部へ。
947位ダンジョン。
初の昇格挑戦戦。
格上との戦い。
だが。
恐怖はなかった。
戦力は揃った。
作戦もある。
そして。
新たな指揮官もいる。
岩陰の奥。
誰も気付かない場所で。
一体の魔物が彼らを見ていた。
大きな身体。
灰色の皮膚。
鋭い牙。
そして。
異様な威圧感。
岩牙隊長
脅威度:高
その視線は。
忘れられた洞窟の侵入者達を捉えていた。
昇格挑戦戦。
その幕が静かに上がる。




