第70話 未知の魔物
ランキング戦まで四日。
忘れられた洞窟。
管理室。
アルベルトは戦力表を見ていた。
現在順位954位。
目標は947位《岩牙の巣》。
そしてその先。
941位《断鎌の森》。
差はわずか。
だが。
埋めるにはもう一歩必要だった。
「昇格挑戦戦ですか?」
リリスが聞く。
「その前に配合だ」
即答だった。
「やっぱり」
予想通りだった。
――――――
岩牙の巣との想定戦闘。
勝率五分。
悪くない。
だが。
アルベルトは満足していなかった。
「低い」
「十分高いです」
「七割は欲しい」
「欲張りですね」
リリスは呆れる。
しかし。
否定もできない。
勝率が高いほど良い。
当たり前だった。
――――――
問題は素材。
最近は配合候補が増えていない。
周辺魔物もほぼ調査済み。
新しい発見が減っていた。
その時だった。
管理画面が光る。
【冒険者来訪】
「あ」
リリスが画面を見る。
「また来ましたね」
「増えたな」
実際増えている。
忘れられた洞窟は順位上昇を続けている。
新人冒険者達の間でも少しずつ知られ始めていた。
――――――
映像が映る。
四人組。
若い冒険者達だった。
そして。
召喚石を取り出す。
アルベルトの視線が変わる。
「見てますね」
「見ている」
「召喚石を」
「召喚石を」
リリスはため息を吐く。
最近は隠そうともしない。
――――――
石が砕ける。
光。
現れたのは。
【ストーンエイプ】
岩のような腕を持つ猿型魔物。
続いて。
【シックルマンティス】
両腕が鎌になった昆虫型魔物。
さらに。
【ミストバット】
霧を纏う蝙蝠。
最後。
【サンダーマウス】
小型の電撃系魔物。
「ほう」
アルベルトの目が少し光る。
今まで見たことがない。
少なくとも。
忘れられた洞窟周辺には存在しない魔物だった。
――――――
戦闘が始まる。
ストーンエイプが前衛。
シックルマンティスが側面攻撃。
ミストバットが撹乱。
サンダーマウスが支援。
悪くない。
新人としてはかなり優秀だった。
「連携してますね」
リリスが感心する。
「勉強している」
アルベルトも認めた。
だが。
現在の忘れられた洞窟はそれ以上だった。
――――――
最初に動いたのはシャドウリーパー。
影へ潜る。
ミストバット撃破。
森護兵将が前へ出る。
ストーンエイプを押し返す。
アダプトナイトゴブリンが側面を制圧。
戦闘は十分ほどで終了した。
冒険者達は撤退する。
忘れられた洞窟の勝利だった。
――――――
その後。
アルベルトは映像を見返していた。
冒険者ではない。
魔物を。
「また見てますね」
「面白い」
「どこがです?」
アルベルトはシックルマンティスを指差した。
「鎌だ」
「鎌ですね」
「速い」
「速かったですね」
「シャドウリーパーと相性が良い」
リリスが少し考える。
なるほど。
確かに。
奇襲。
高速移動。
斬撃。
共通点が多い。
――――――
その時。
配合眼が反応した。
視界に文字が浮かぶ。
――――――
新規魔物確認
データ取得
配合候補更新
――――――
アルベルトが固まる。
初めて見る表示だった。
「どうしました?」
「候補が増えた」
「またですか」
リリスが嫌そうな顔をする。
そして。
次の表示を見て固まった。
――――――
アダプトナイトゴブリン
進化候補更新
――――――
沈黙。
管理室が静まり返る。
――――――
アダプトナイトゴブリンが顔を上げる。
「俺?」
「お前だ」
「進化?」
「そのようだ」
アダプトナイトゴブリンは腕を組む。
少し嬉しそうだった。
少しだけ。
本当に少しだけ。
――――――
さらに文字が続く。
――――――
新規進化候補
適合率72%
閲覧可能
――――――
アルベルトの目が輝く。
リリスは頭を抱える。
「嫌な予感しかしません」
「良い予感だ」
「アルベルトさんだけです」
即答だった。
――――――
プニシャドウが跳ねる。
「ぷに!」
森護兵将も興味深そうに近付く。
シャドウリーパーは天井の影から見下ろしている。
全員が集まる。
次の進化。
次の強化。
忘れられた洞窟の未来に繋がる選択肢。
ランキング戦まで四日。
昇格挑戦戦を前に。
忘れられた洞窟は再び大きな進化の入り口へ辿り着いていた。




