第67話 森護兵将
【大成功】
その文字が表示された瞬間。
管理室の空気が止まった。
誰も動かない。
誰も喋らない。
数秒後。
最初に口を開いたのはリリスだった。
「え?」
見間違いかと思った。
もう一度見る。
しかし表示は変わらない。
【大成功】
本物だった。
「え?」
二回目だった。
アダプトナイトゴブリンも固まっている。
アルベルトも珍しく驚いていた。
配合を繰り返してきた。
失敗もあった。
成功もあった。
しかし。
大成功は初めてだった。
光がさらに強くなる。
管理室全体を包み込む。
やがて。
一体の魔物が姿を現した。
巨大な狼。
だが普通の狼ではない。
赤銅色の毛並み。
樹木のような装甲。
鋭い牙。
圧倒的な体格。
そして。
立っているだけで周囲を従わせるような存在感。
【森護兵将】
【大成功個体】
【英雄種】
沈黙。
「英雄種……」
リリスが呟く。
初めて見る表記だった。
通知が続く。
【部隊統率】
【前衛指揮】
【配下強化】
【森林領域強化】
【威圧】
次々と能力が並ぶ。
そして。
アダプトナイトゴブリンが固まった。
能力欄を見ている。
ずっと見ている。
「主殿」
「なんだ」
「役割」
「ん?」
「被った」
沈黙。
確かに被っていた。
部隊統率。
前衛指揮。
配下強化。
どれもアダプトナイトゴブリンが得意とする能力だった。
「主殿」
「なんだ」
「私」
「うん」
「失業?」
リリスが吹き出した。
「しませんよ!」
「本当か」
「本当です」
アダプトナイトゴブリンは森護兵将を見る。
森護兵将も見る。
数秒。
静かな睨み合い。
緊張感が漂う。
そして。
リリスが咳払いした。
「落ち着いてください」
「む」
「まず役割が違います」
アダプトナイトゴブリンが見る。
「違う?」
「違います」
リリスは説明を始めた。
「アダプトさんは軍師です」
「軍師」
「部隊運用、分析、育成、指揮」
なるほど。
確かにそうだ。
今までの部隊編成も訓練も。
全部アダプトナイトゴブリンが担当していた。
「森護兵将は現場指揮官ですね」
巨大な狼を見る。
前線で戦う。
部隊を鼓舞する。
先頭に立つ。
確かに役割は違う。
「なるほど」
アルベルトも頷く。
アダプトナイトゴブリンも少し考えた。
そして。
「解雇回避」
「だから解雇しません」
リリスは即座に突っ込んだ。
――――――
だが。
問題はそこではなかった。
リリスは通知を思い出していた。
【幸運発動】
【特殊補正付与】
そして。
直後の大成功。
偶然だろうか。
いや。
偶然にしては出来すぎている。
「主殿」
「なんだ」
「もしかして」
「ん?」
リリスが足元を見る。
そこでは。
張本人が尻尾を振るようにぷるぷる震えていた。
「ぷに!」
何も分かっていない。
「この子が原因では?」
沈黙。
全員がプニシャドウを見る。
プニシャドウも見返す。
「ぷに?」
意味が分からないらしい。
アダプトナイトゴブリンが考える。
「幸運」
「そうだな」
「大成功」
「そうだな」
「犯人」
「やめろ」
アルベルトが止めた。
だが。
否定もしきれなかった。
タイミングが完璧すぎる。
もし本当に幸運が配合へ影響するなら。
とんでもない能力だ。
その時。
アルベルトが何かを考え始める。
リリスが即座に察した。
「駄目です」
「まだ何も言ってない」
「プニシャドウを配合陣の上で転がす実験は禁止です」
「……」
図星だった。
アダプトナイトゴブリンも頷く。
「禁止」
「そんなに危険か?」
「危険です」
満場一致だった。
――――――
その時だった。
「ぷに!」
プニシャドウが飛び出した。
新しい幹部に興味津々だった。
森護兵将を見上げる。
森護兵将も見下ろす。
しばらく見つめ合う。
そして。
プニシャドウは跳んだ。
ぽよん。
森護兵将の頭の上へ着地。
沈黙。
森護兵将は動かない。
嫌がらない。
怒らない。
受け入れている。
「ぷにー!」
勝利。
プニシャドウの中ではそういう判定らしい。
「何に勝ったんですか」
リリスが呆れる。
アダプトナイトゴブリンも見ている。
そして。
「幹部」
「ん?」
「一番偉い」
「違うと思います」
どうやらプニシャドウは幹部全員の頭に乗ることで序列を決めているらしい。
意味が分からなかった。
――――――
落ち着いた頃。
リリスが改めて森護兵将の能力を確認する。
そして。
一つの表示で目を止めた。
【配下統率時、全能力微上昇】
「これ」
「ん?」
「軍団戦向きですね」
かなり。
いや。
異常なくらい。
忘れられた洞窟は元々軍団型。
そこへ軍団長が加わった。
アダプトナイトゴブリンが軍略を担当する。
森護兵将が前線を率いる。
役割分担は完璧だった。
「強くなったな」
アルベルトが呟く。
リリスも頷く。
アダプトナイトゴブリンも認める。
忘れられた洞窟はまた一段階進んだ。
そして。
その日の夜。
新たな通知が現れる。
【注目ダンジョン認定】
【条件達成】
管理室が静まり返る。
ついに来た。
急成長。
防衛戦連勝。
特殊配合。
そして大成功。
忘れられた洞窟は正式に。
新人リーグで最も注目されるダンジョンの一つとなったのである。




