第63話 防衛戦
朝。
忘れられた洞窟管理室。
アルベルトは珍しく真面目な顔をしていた。
「どうしました?」
リリスが尋ねる。
「挑戦戦の準備だ」
951位《黒霧砦》。
その挑戦が近い。
戦力確認。
部隊再編。
補給確認。
珍しくちゃんと準備している。
「成長しましたね」
「失礼だな」
「いつもなら先に配合です」
否定できなかった。
その時だった。
通知が鳴る。
【ランキング戦申請】
【防衛戦発生】
【挑戦者:972位《赤牙の巣》】
管理室が静まり返る。
「……ん?」
アルベルトが画面を見る。
もう一度見る。
防衛戦。
防衛戦。
確かにそう書いてある。
「主殿」
アダプトナイトゴブリンが口を開く。
「どうやら」
「ああ」
「挑まれました」
忘れられた洞窟が。
挑戦される側になった。
――――――
数秒後。
リリスが説明を始める。
「順位差が近くなると発生します」
「なるほど」
「急成長しているダンジョンは狙われやすいです」
確かに。
最近の忘れられた洞窟は有名だ。
急上昇中。
新人リーグ卒業。
軍団育成型。
特殊配合型。
目立つ。
非常に目立つ。
「踏み台にしたいんですね」
「そういうことです」
アルベルトは少し笑った。
面白い。
今までは挑む側。
今回は守る側。
立場が変わる。
――――――
訓練場。
アダプトナイトゴブリンが部隊を集める。
鋼影狼。
ジェルウルフ。
フォレストウルフ。
シャドウウルフ。
そして。
アイアンシャドウウルフ。
二人の幹部が並ぶ。
少し前なら考えられない光景だった。
「防衛戦」
アダプトナイトゴブリンが言う。
「敵来る」
部隊が唸る。
「迎撃準備」
実に頼もしい。
その時。
ぷに。
ぷに。
ぷに。
最後尾からプニシャドウがついてくる。
「ぷに!」
元気だった。
非常に。
「……」
アダプトナイトゴブリンが見る。
「ぷに」
見返す。
沈黙。
「戦力外」
「ぷにぃ!?」
ショックを受けていた。
――――――
数時間後。
ランキング戦専用戦場。
転送完了。
今回の相手。
972位《赤牙の巣》。
赤牙ウルフを主力とする群れ型ダンジョンだった。
「狼ですね」
「狼だな」
数は多い。
かなり多い。
だが。
今の忘れられた洞窟も狼だらけだった。
むしろ得意分野。
戦闘開始。
敵軍突撃。
赤い狼達が一斉に走る。
しかし。
アダプトナイトゴブリンが手を上げる。
「第一隊」
フォレストウルフ隊前進。
「第二隊」
ジェルウルフ隊展開。
以前とは違う。
明らかに違う。
軍隊だった。
隊列。
連携。
統率。
敵が突っ込む。
ジェルウルフが止める。
フォレストウルフが削る。
シャドウウルフが背後を突く。
綺麗だった。
リリスも感心する。
「完成してきましたね」
「ああ」
忘れられた洞窟の形が見え始めていた。
その時。
敵ボス。
レッドファングロードが現れる。
巨大な赤狼。
鋭い牙。
強敵だった。
だが。
アイアンシャドウウルフが前へ出る。
初めての幹部戦。
鋼鉄の装甲。
影の力。
真正面から激突。
轟音。
地面が揺れる。
数分後。
勝者は明白だった。
レッドファングロード撃破。
敵軍崩壊。
勝負あり。
【防衛戦勝利】
【順位維持】
【登録完了】
通知が流れる。
あっさりだった。
以前なら苦戦した相手。
しかし今は違う。
忘れられた洞窟は確実に強くなっている。
――――――
戦闘終了後。
管理室。
アルベルトは早速登録一覧を開いていた。
「主殿」
アダプトナイトゴブリンが言う。
「なんだ」
「顔」
「顔?」
「配合考えている」
リリスも頷く。
「考えてますね」
完全に読まれていた。
しかし。
その時だった。
足元。
ぷに。
プニシャドウが何かを咥えている。
「ん?」
アルベルトが見る。
赤い牙。
レッドファングロードの素材だった。
戦場で拾ってきたらしい。
「ぷに!」
褒めてほしそうだ。
リリスが笑う。
「戦利品ですか?」
「ぷに!」
胸を張る。
しかし次の瞬間。
がりっ。
食べた。
沈黙。
「……」
「……」
「……」
全員固まる。
プニシャドウも固まる。
そして。
通知が現れる。
【特殊素材吸収】
【変異適性上昇】
【進化条件の一部を達成】
沈黙。
「主殿」
アダプトナイトゴブリンが言う。
「なんだ」
「戦力外撤回」
「そうだな」
「ぷにー!」
何も分かっていなかった。
だが嬉しそうだった。
そして。
アルベルトの目が輝く。
特殊素材吸収。
変異適性。
進化条件。
非常に興味深い。
「駄目です」
リリスが即座に言う。
「まだ何も言ってない」
「顔です」
今日も忘れられた洞窟は平和だった。
たぶん。




