第61話 初めてのお仕事
プニシャドウの評価が、
「戦力外」
から
「保留」
へ昇格して一日。
本人は何も分かっていなかった。
「ぷに!」
元気だった。
非常に元気だった。
そして。
非常に邪魔だった。
「ぷに!」
アルベルトの机の上に乗る。
「ぷに!」
資料の上に乗る。
「ぷに!」
配合候補一覧の上に乗る。
「見えない」
アルベルトが摘み上げる。
ぷらーん。
プニシャドウが宙に浮く。
嬉しそうだった。
「主殿」
アダプトナイトゴブリンが真顔で言う。
「なんだ」
「遊んでいる場合ではない」
「そうだな」
「ぷに!」
全然反省していない。
リリスが額を押さえた。
「子供ですね」
「子供だな」
「ぷに!」
本人は褒められたと思っていた。
その時だった。
通知が現れる。
【冒険者侵入】
【人数:5】
【第一層】
管理室の空気が変わる。
アルベルトが立ち上がる。
アダプトナイトゴブリンも表情を引き締める。
「偵察か」
「恐らく」
最近増えていた。
忘れられた洞窟の噂を聞きつけた冒険者達。
本格攻略ではない。
様子見。
調査。
その類だ。
だが。
放置する理由はない。
アダプトナイトゴブリンが地図を確認する。
「第一戦闘隊配置」
「第二戦闘隊待機」
「遊撃隊迂回」
次々と指示が飛ぶ。
以前なら考えられなかった。
今では当たり前になりつつある。
軍団型ダンジョン。
それが忘れられた洞窟の強みだった。
しかし。
その時。
アルベルトが何かを見た。
「ん?」
「どうしました?」
「プニシャドウがいない」
沈黙。
全員が周囲を見る。
いない。
本当にいない。
嫌な予感がした。
――――――
第一層。
冒険者パーティー。
五人組。
「静かだな」
「逆に怖い」
最近話題のダンジョン。
だから慎重だった。
その時。
先頭の剣士が足を止める。
「なんだ?」
足元。
黒いぷにぷにした何か。
「スライムか?」
プニシャドウだった。
「ぷに!」
元気よく挨拶する。
沈黙。
冒険者達も困惑した。
「弱そうだな」
「弱そうですね」
「可愛い」
最後の一言は女性魔術師だった。
プニシャドウは嬉しそうに跳ねる。
「ぷに!」
完全に懐いている。
しかし。
その瞬間。
剣士の足元の影が揺れた。
黒い影が伸びる。
「え?」
一瞬だった。
プニシャドウの影変形。
剣士の足を絡め取る。
転倒。
どさっ。
「なっ!?」
さらに。
プニシャドウ自身も驚いていた。
偶然だった。
しかし。
それで十分だった。
遠くから遠吠えが響く。
アダプトナイトゴブリンの部隊だ。
「まずい!」
冒険者達が慌てる。
左右からフォレストウルフ。
後方からシャドウウルフ。
そして正面からジェルウルフ。
包囲完成。
「撤退!」
即決だった。
戦闘開始からわずか数分。
冒険者達は逃げ出した。
その後ろ姿を。
プニシャドウは見送る。
「ぷに?」
何が起きたのか分かっていない。
――――――
管理室。
報告を聞いたアルベルト達は固まっていた。
「つまり」
「はい」
リリスが説明する。
「プニシャドウが偶然敵を転ばせました」
「その結果」
「部隊が包囲を完成させました」
「なるほど」
アダプトナイトゴブリンが腕を組む。
「功績」
「偶然だがな」
「結果重要」
軍人らしい考えだった。
その時。
プニシャドウが帰ってくる。
「ぷにー!」
得意げだった。
何も分かっていない。
だが。
通知が現れる。
【プニシャドウ】
【戦闘参加回数:1】
【経験値獲得】
【新特性発現】
全員が画面を見る。
そこには。
【幸運】
と表示されていた。
沈黙。
「……」
「……」
「……」
リリスが最初に口を開く。
「そんな特性あります?」
「知らん」
アルベルトも初めて見た。
アダプトナイトゴブリンも首を傾げる。
「珍しい」
その直後。
プニシャドウが机の上へ飛び乗る。
着地失敗。
転ぶ。
しかし。
偶然そこにあった魔力結晶を食べる。
さらに成長する。
沈黙。
「主殿」
「なんだ」
「幸運かもしれない」
「そうだな」
リリスは頭を抱えた。
失敗作。
弱い。
役立たず。
そう思われていた魔物。
しかし。
気付けば少しずつ存在感を増している。
そして。
その夜。
忘れられた洞窟のランキング掲示板に、新しい噂が流れ始めた。
「忘れられた洞窟には変な黒いスライムがいるらしい」
誰も知らない。
その噂が、思わぬ方向へ広がっていくことを。




