第57話 強化ラッシュ
昇格挑戦戦から帰還した翌日。
忘れられた洞窟は異様な空気に包まれていた。
理由は簡単。
アルベルトが朝からずっと笑っていたからだ。
「嫌な予感しかしません」
リリスが呟く。
「そうか?」
「勝利報酬を見てから一時間ずっと配合候補を眺めています」
「楽しいぞ」
「知っています」
954位到達。
大量の新規登録。
今のアルベルトは子供がおもちゃ売り場に放り込まれたような状態だった。
しかし今回は違う。
ただ配合するだけではない。
戦力構成を考える。
組織を作る。
軍団を育てる。
そのための強化だ。
「まず整理する」
珍しくアルベルトが真面目な顔になる。
リリスも頷く。
現在の戦力。
最強戦力。
シャドウリーパー。
主力エース。
鋼影狼三体。
成長枠。
ナイトレイヴンウルフ。
幹部。
アダプトナイトゴブリン。
中堅。
ウルフ部隊各種。
問題は明白だった。
「前衛ですね」
「ああ」
壁役が足りない。
ずっと課題だった。
だから今回。
アイアンフォートタートルが手に入った意味は大きい。
アルベルトは候補を開く。
【アイアンフォートタートル】
【鋼影狼】
成功率87%
予測結果
【アイアンシャドウウルフ】
沈黙。
リリスも見る。
「強そうですね」
「強そうだな」
87%。
十分高い。
しかも役割が明確。
防御と機動力。
今の忘れられた洞窟に欲しい性能だった。
「やるか」
「今回は賛成です」
珍しく意見が一致した。
配合開始。
光が溢れる。
二体の魔物が融合する。
数秒。
十数秒。
そして。
【特殊配合成功】
成功。
巨大な影が現れる。
狼。
しかし鋼鉄の装甲を纏っている。
全身を覆う黒銀の外殻。
鋭い牙。
重厚な体躯。
【アイアンシャドウウルフ】
【希少種】
【特性】
・重装甲
・影移動
・物理耐性
・突撃強化
「当たりですね」
「ああ」
大当たりだった。
しかも。
その直後。
通知が現れる。
【幹部適性あり】
二人が固まる。
「え?」
「幹部?」
新システムを開く。
表示されたのは。
【第二幹部候補】
アイアンシャドウウルフ
適性 高
アダプトナイトゴブリンとは違う。
こちらは戦闘指揮型。
前線司令官タイプだった。
「なるほど」
アルベルトが頷く。
「軍団ですね」
リリスも理解する。
今までは魔物の集団だった。
これからは違う。
組織になる。
その瞬間。
新通知。
【第二幹部任命可能】
「早いですね」
「早いな」
アルベルトは迷わなかった。
任命。
光が降り注ぐ。
アイアンシャドウウルフが咆哮する。
【第二幹部誕生】
忘れられた洞窟に二人目の幹部が生まれた。
そして。
ここからが本番だった。
「次」
「まだやるんですか」
「当然だ」
登録魔物が増えた。
つまり。
進化候補も増えた。
アルベルトはナイトレイヴンウルフを見る。
まだ幼体。
だが。
成長率。
43%。
以前よりかなり上昇している。
しかも。
新しい表示が出ていた。
【成長加速条件達成】
【高品質魔力供給で急成長可能】
「危険ですね」
「危険だな」
二人とも笑った。
絶対に何かやる。
それは確実だった。
だが今は保留。
先に軍団整備だ。
アダプトナイトゴブリンが部隊を再編する。
フォレストウルフ隊。
シャドウウルフ隊。
ジェルウルフ隊。
統率が上がる。
経験共有も発動する。
全体の成長速度が目に見えて上がっていく。
「強くなってますね」
「ああ」
しかも。
幹部システムのおかげで。
部隊単位の訓練が可能になった。
一日。
二日。
三日。
戦力が急成長していく。
そして。
ランキング更新日。
新しい通知が現れた。
【ダンジョン評価更新】
【忘れられた洞窟】
特殊配合型
軍団育成型
評価上昇
順位変動対象
リリスが目を見開く。
「軍団育成型?」
「新評価だな」
今までなかった称号。
システムから認識された。
つまり。
忘れられた洞窟はもう特殊配合だけのダンジョンではない。
配合。
進化。
軍団。
三つを併せ持つ存在になりつつあった。
その時。
ランキング一覧が更新される。
954位。
忘れられた洞窟。
そして。
そのすぐ上。
951位。
【黒霧砦】
順位差わずか三つ。
アルベルトの目が細くなる。
リリスは嫌な予感しかしない。
「駄目です」
「何がだ」
「挑戦しようとしてます」
「まだ言ってない」
「顔です」
完全に顔だった。
普通なら様子を見る。
だが。
アルベルトは普通ではない。
「950位台は狭いな」
「嫌な予感しかしません」
忘れられた洞窟の加速は止まらない。
次なる標的は。
950位の壁だった。




