第56話 新人リーグ卒業条件
アイアンフォートタートル。
954位《鉄壁の坑道》最強戦力。
巨大な鋼鉄要塞のような魔物だった。
魔力砲撃と超耐久を兼ね備えた、まさに難攻不落の存在。
普通の970位なら勝負にならない。
だが。
「シャドウリーパー」
アルベルトが命じる。
黒い死神は正面からではなく、側面から背後へと高速で駆け抜けた。
アイアンフォートタートルは硬い。
ならば硬い部分を狙わなければいい。
「首ですか」
「ああ」
リリスもすぐに理解する。
亀の弱点は首だ。
シャドウリーパーの姿が消えた次の瞬間、一閃。
首元に鋭い傷が刻まれる。
怒り狂ったアイアンフォートタートルが砲撃を放つが、影すら捉えられない。
その隙に鋼影狼三体が襲いかかり、アダプトナイトゴブリンが全軍を指揮する。
ジェルウルフが足を止め、フォレストウルフが攪乱し、シャドウウルフが死角から奇襲する。
全てが噛み合っていた。
今までの忘れられた洞窟にはなかった動き。
軍隊そのものだった。
「幹部一体でここまで変わるのか」
アルベルトも感心する。
そして勝負は一瞬。
連携で生まれた隙を逃さず、シャドウリーパーが首筋へ深く鋭い一撃を叩き込む。
アイアンフォートタートルが崩れ落ちた。
【アイアンフォートタートル登録完了】
「よし」
アルベルトが拳を握る。
確かな手応えがあった。
最初は何もなかったダンジョンだ。
弱い魔物しかおらず、周囲から期待もされなかった。
それでも一つずつ積み上げてきた成果が、今この勝利として形になっている。
その瞬間、敵軍は総崩れになった。
ボスを失った軍勢は脆い。
ストーンゴーレム、アイアンリザード、アイアンタートルが次々と倒れ、最後に敵ダンジョンコアが破壊される。
戦闘終了。
静寂。
数秒後。
大量の通知が流れ始めた。
【昇格挑戦戦勝利】
【順位更新】
970位→954位
【勝利報酬獲得】
【幹部枠解放】
【新人リーグ卒業条件達成】
沈黙。
リリスが固まる。
アルベルトも止まる。
「ん?」
「え?」
二人同時だった。
画面を見直す。
間違いない。
【新人リーグ卒業条件達成】
「あ」
リリスが声を漏らす。
そうだった。
忘れていた。
新人リーグの卒業条件。
900位以内のダンジョンへ挑戦できる資格を得ること。
そのために必要なのが、規定順位への到達と一定以上の戦績だった。
今回の昇格挑戦戦に勝利したことで、その条件を満たしたのである。
「もうすぐ卒業ですね」
リリスの声は少し震えていた。
長かった。
アルベルトと出会った頃は、こんな未来など想像もしていなかった。
最下位付近をさまよっていた弱小ダンジョン。
敗北を恐れ、順位表を見るたびにため息をついていた日々。
それが今、本当に新人リーグを抜ける権利を得た。
嬉しさと達成感が胸いっぱいに広がり、同時に実感が追いつかない。
「可能性が広がる」
アルベルトは少しだけ笑った。
だがその胸中にも、静かな感慨があった。
入学時。
誰も期待していなかった。
最下位付近。
外れ継承。
弱小ダンジョン。
それが、新人リーグを卒業できるかもしれない。
大きな一歩だった。
ただ順位が上がっただけではない。
ここまで生き残り、勝ち続け、自分たちの力で次の舞台への扉を開いたのだ。
忘れられた洞窟にとって、間違いなく転換点だった。
しかし。
通知はまだ終わらない。
【ランキングシステム更新】
【公開順位拡張】
【950位~901位閲覧可能】
新人リーグでは、自分たちの周辺順位しか確認できない。
だが卒業条件を達成したことで、次の階層のランキング情報が解放された。
大量の名前が表示される。
新しい世界。
新しいライバル。
その中で。
アルベルトの視線が止まる。
【912位 灼熱火山】
【905位 亡霊回廊】
【901位 白骨要塞】
「強そうですね」
先ほどまでの喜びが、今度は緊張へと変わる。
名前を見るだけで分かる。
ここから先はさらに別世界だ。
「強そうだな」
アルベルトも頷く。
だが同時に理解していた。
新人リーグ卒業はゴールではない。
ようやくスタートラインに立っただけだと。
胸の奥で高揚と警戒が入り混じる。
未知の強敵たちへの期待。
そして、自分たちがどこまで通用するのかという緊張感。
そして。
さらに。
勝利報酬一覧が開く。
アイアンフォートタートル。
アイアンタートル。
ストーンゴーレム。
アイアンリザード。
大量登録。
そして。
アルベルトが笑う。
リリスが嫌な予感を覚える。
「何ですか」
「見ろ」
配合候補一覧。
そこには。
今まで見たこともない数の候補が並んでいた。
百二十七件。
過去最高。
さらに。
一つの表示が目に入る。
【特殊配合候補】
アイアンフォートタートル
鋼影狼
成功率87%
予測結果
【上位種】
「高っ!」
リリスが叫ぶ。
失敗したばかりだから余計に分かる。
87%は異常だ。
さらに。
もう一つ。
【特殊配合候補】
アイアンフォートタートル
シャドウリーパー
成功率41%
予測結果
???
「駄目です」
「まだ何も言ってない」
「顔です」
完全に顔だった。
アルベルトの研究者魂が爆発している。
だが今回は違う。
戦力も増えた。
幹部も増えた。
順位も上がった。
そして。
「どうします?」
リリスが聞く。
アルベルトは即答した。
「強化だな」
「でしょうね」
「一気に行く」
忘れられた洞窟はもう新人レベルではない。
次の目標は、900位以内への進出だ。
今回の勝利で順位は970位から954位へ上昇した。
だが900位台前半には、さらに強力なダンジョンが並んでいる。
900位。
そして800位。
下級リーグ上位。
さらにその先。
中級リーグ。
上級リーグ。
まだ遥か遠い。
だが。
アルベルトには確信があった。
配合。
進化。
幹部。
軍団。
全ての歯車が噛み合い始めている。
達成感を胸に抱きながらも、視線はすでに次の戦場へ向いていた。
忘れられた洞窟の快進撃は、ここからさらに加速するのだった。




