第53話 群れの王
グレイファングロード。
その姿を見た瞬間、アルベルトは理解した。
強い。
間違いなく今まで戦った狼系の中でも上位だ。
体長は鋼影狼を超える。
灰色の毛並みには無数の傷跡。
鋭い眼光。
そして何より。
周囲のグレイファングウルフ達の動きが変わった。
「統率されていますね」
リリスが呟く。
「ああ」
群れ全体が一つの生き物のように動いている。
ただの野生種ではない。
ロード級。
つまり王だ。
グレイファングロードが一声吠える。
その瞬間。
十六体の群れが一斉に洞窟へ突入した。
「来ます!」
戦闘開始だった。
まず迎え撃つのはジェルウルフ隊。
狭い通路で足止めを行う。
しかし。
グレイファング達は強かった。
連携が異常に上手い。
前列が押し込み。
後列が側面を狙う。
まるで訓練された兵士だ。
「野生ですよね?」
「野生だな」
「納得いきません」
ジェルウルフ隊が次々と後退する。
フォレストウルフ隊を投入。
それでも押し返せない。
強い。
970位周辺の魔物とは明らかに格が違った。
「ロードがいるからだな」
アルベルトが言う。
群れの後方。
グレイファングロードはまだ動いていない。
ただ見ている。
それだけで群れ全体の動きが洗練されている。
指揮官。
まさにそんな存在だった。
「厄介ですね」
「ああ」
「欲しいですね」
「欲しいな」
リリスは額を押さえた。
危険度A-のボス個体。
普通なら警戒する。
この男は登録後のことを考えている。
その時だった。
グレイファングロードが前に出る。
地面を蹴る。
速い。
鋼影狼に匹敵する速度。
いや。
純粋な突進力なら上かもしれない。
ドゴン!!
前線のフォレストウルフが吹き飛ばされる。
続けて二体。
三体。
あっという間だった。
「まずいですね」
「まずいな」
アルベルトも認める。
このままでは押し切られる。
そこで。
「鋼影狼隊」
三体が動く。
忘れられた洞窟の主力。
影のように駆ける。
対するグレイファングロード。
真正面から迎撃。
激突。
轟音。
洞窟が揺れた。
鋼影狼が押される。
「強いですね」
「強いな」
しかし。
一対三。
徐々に押し返していく。
そこへさらに。
黒い影。
シャドウリーパー。
忘れられた洞窟最強戦力が投入された。
グレイファングロードが初めて警戒を見せる。
本能で理解したのだろう。
目の前の存在が危険だと。
次の瞬間。
二体が消えた。
いや。
速すぎて見えない。
鋼と鋼がぶつかるような音。
影が交差する。
そして。
グレイファングロードの肩に傷が走った。
「入った!」
リリスが声を上げる。
しかし。
ロードもただでは終わらない。
反撃。
鋭い爪がシャドウリーパーを掠める。
初めてだった。
シャドウリーパーがまともに攻撃を受けたのは。
「おお」
アルベルトの目が輝く。
「楽しそうですね」
「強敵だからな」
「戦ってるのは配下です」
数分に及ぶ激戦。
やがて。
勝負は決した。
鋼影狼三体。
シャドウリーパー。
総攻撃。
グレイファングロードが膝をつく。
最後の咆哮。
そして。
静かに倒れた。
【グレイファングロード登録完了】
アルベルトが拳を握る。
「よし」
「やりましたね」
続いて群れも崩壊した。
王を失ったことで統率が消える。
残るグレイファング達も次々と討伐。
登録が進む。
戦闘終了。
久しぶりの大勝利だった。
だが。
本当に驚くべきはその後だった。
【新規登録完了】
【グレイファングウルフ】
【グレイファングロード】
【配合候補更新】
通知が次々と流れる。
そして。
一つの表示でアルベルトが止まった。
鋼影狼
グレイファングロード
成功率 82%
予測結果
【上位種進化候補】
沈黙。
リリスも固まる。
「高くないですか?」
「高いな」
「八割超えてますよ」
複合配合ではない。
通常配合。
だから高い。
しかも上位種進化。
さらに。
もう一つ表示が現れる。
グレイファングロード
シャドウウルフ
ダーククロウ
成功率 71%
予測結果
???
「やめてください」
リリスが先に言った。
「まだ何も言ってない」
「顔を見れば分かります」
アルベルトは配合一覧を見つめる。
昇格挑戦戦まで残り一日。
本来なら温存すべきだ。
普通なら。
しかし。
普通ではない男が目の前にいた。
「どうします?」
リリスが聞く。
アルベルトは少しだけ考えた。
そして。
「八十二%か」
「その言い方は危険です」
「かなり高いな」
「私もそう思います」
リリスは嫌な予感と期待を同時に感じていた。
失敗の後。
今度は成功率八割超え。
果たしてアルベルトは挑むのか。
それとも昇格挑戦戦を優先するのか。
新人リーグ970位。
忘れられた洞窟の運命を左右する一日が始まろうとしていた。




