第52話 失敗の価値
複合配合失敗。
アースベア消失。
アイアンリザード消失。
ストーンゴーレム消失。
昇格挑戦戦まで残り三日。
普通なら頭を抱える状況だった。
実際。
リリスは頭を抱えていた。
「やらかしましたね」
「やらかしたな」
「かなりです」
「かなりだな」
配合室にはまだ失敗の痕跡が残っている。
ひび割れた配合陣。
焦げた床。
暴走した魔力の残滓。
損失は大きい。
特にアースベアは痛かった。
今の忘れられた洞窟に不足していた前衛戦力だったからだ。
「反省してます?」
リリスが聞く。
アルベルトは少し考える。
そして頷いた。
「している」
「珍しいですね」
「次から五十%ではやらない」
リリスが少し感動する。
ついに学んだのかもしれない。
そう思った。
「六十%からだ」
「全然学んでませんでした」
即座に訂正した。
やはりアルベルトだった。
だが実際。
失敗から得たものはある。
二人は解析画面を開いていた。
配合失敗の記録だ。
通常の配合失敗は結果だけ表示される。
しかし複合配合は違った。
詳細ログが残っている。
「ここですね」
リリスが指差す。
アルベルトも覗き込む。
【属性衝突発生】
【地属性過剰】
【魔力循環崩壊】
「なるほど」
「なるほどですか?」
「失敗理由が分かった」
アースベア。
ストーンゴーレム。
どちらも地属性。
さらにアイアンリザードも防御寄り。
結果として魔力が偏った。
そして崩壊した。
「つまり」
「素材の相性問題だな」
「ただ強い魔物を突っ込めば良いわけじゃない、と」
「面白い」
「面白がるところじゃありません」
だがアルベルトにとっては大発見だった。
成功率だけではない。
組み合わせそのものに法則がある。
つまり研究できる。
「次は成功率より相性を重視する」
「それは良いことです」
「成功率三十%でも」
「悪化しました」
リリスは諦めた。
その時だった。
洞窟奥から轟音が響く。
ドゴォン!
「またですか」
二人が向かう。
原因はすぐ分かった。
ナイトレイヴンウルフだ。
壁に突っ込んでいた。
「何してるんだ」
巨大な翼をばたつかせている。
どうやら飛行訓練らしい。
飛ぶ。
失敗する。
壁に刺さる。
最近の日課だった。
「伝説級候補とは」
「分からないものだな」
アルベルトが頭を撫でる。
すると。
ナイトレイヴンウルフが喉を鳴らした。
そして。
突然黒い魔力が溢れ始める。
「ん?」
リリスが情報を開く。
成長率。
25%。
28%。
31%。
数字が上がる。
「また成長してます」
「魔力残滓か」
失敗した複合配合。
そこで発生した余剰魔力。
ナイトレイヴンウルフはそれを吸収しているらしい。
普通なら無駄になるエネルギー。
それが餌になっていた。
「失敗も無駄じゃなかったな」
「少しだけですね」
少しだけ。
本当に少しだけだ。
素材三体の価値には届かない。
だがゼロではない。
その時。
警戒反応が鳴った。
洞窟入口。
アルベルトとリリスが同時に画面を見る。
冒険者ではない。
魔物だ。
巨大な狼。
灰色の毛並み。
鋭い牙。
その後ろには十数体の群れ。
「野生種ですね」
リリスが言う。
詳細が表示される。
【グレイファングウルフ】
【危険度B】
【群れ規模16】
アルベルトが目を細めた。
強い。
今のフォレストウルフより上。
鋼影狼には劣る。
だが数が多い。
そして何より。
「前衛型ですね」
「ああ」
失ったアースベアの代わりにはならない。
だが穴は埋められる。
リリスが嫌な予感を覚えた。
「その顔は何ですか」
「ちょうどいい」
「やっぱり」
「前衛素材が減った」
「素材じゃありません」
「戦力候補だ」
言い直しただけだった。
しかしアルベルトは本気だった。
昇格挑戦戦まで残り二日。
失敗で戦力を失った。
なら補充する。
それだけだ。
そして。
さらに興味深いことが起きる。
グレイファングウルフの群れの中央。
一回り大きな個体が現れた。
他の個体が道を開ける。
明らかに別格。
【グレイファングロード】
【危険度A-】
リリスが息を呑む。
「ボス個体です」
「なるほど」
アルベルトの目が輝く。
リリスは確信した。
この男。
失敗したばかりなのに、もう次の配合素材のことを考えている。
昇格挑戦戦前最後の戦い。
忘れられた洞窟は、新たな獲物と遭遇したのだった。




