第49話 初めての複合配合
「絶対に捕獲……じゃなかった、登録する」
「その言い直しは危険です」
アースベア、アイアンリザード、ダーククロウ。
三体の上級召喚獣を見ながらアルベルトが真剣な顔で言う。
リリスはもう慣れていた。
この男は強敵を見ると警戒する前に配合素材として考える。
それだけだ。
冒険者達は慎重だった。
前回の敗北を踏まえている。
まずダーククロウが先行し、上空から索敵を開始した。
続いてアイアンリザード。
最後尾にアースベア。
明らかに格上の構成だった。
「970位付近を攻略するための編成ですね」
リリスが分析する。
「なるほど」
「ちなみに今の私達より少し強いです」
「少しか」
「アルベルトさん基準だと大分です」
それは否定できなかった。
戦闘が始まる。
まずダーククロウが動く。
影のような速度で飛び回りながら魔力弾を放つ。
スライム隊が次々と吹き飛ばされた。
「速いですね」
「速いな」
シャドウウルフでも追いつけない。
今までの相手とは明らかに違う。
続いてアイアンリザード。
鋼鉄の鱗がフォレストウルフの攻撃を弾き返す。
そして最後にアースベア。
圧倒的だった。
一撃。
それだけで岩壁が砕ける。
「壁役じゃないですね」
「攻城兵器だな」
忘れられた洞窟側が押され始める。
ここに来て初めて。
真正面からの劣勢だった。
「どうします?」
リリスが聞く。
アルベルトは即答した。
「シャドウリーパー」
黒い影が動く。
忘れられた洞窟最強戦力。
シャドウリーパーが姿を現す。
まず狙ったのはダーククロウ。
空中戦。
普通なら不可能。
しかし影歩きで上空へ跳ぶ。
一閃。
ダーククロウが真っ二つになる。
【ダーククロウ登録完了】
「よし」
「まだ戦闘中です」
次はアイアンリザード。
硬い。
だがシャドウリーパーはさらに速い。
何度も同じ場所を斬り続ける。
やがて鱗に亀裂が走った。
そこへ鋼影狼三体が同時突撃。
アイアンリザード撃破。
【アイアンリザード登録完了】
残るはアースベア。
だが。
ここで問題が起きた。
強い。
とにかく強い。
シャドウリーパーの攻撃を受けても倒れない。
鋼影狼が吹き飛ばされる。
ジェルウルフも耐えられない。
「これは予想以上ですね」
「だな」
初めてだった。
配下だけで押し切れない相手は。
数分の激戦。
最後はシャドウリーパーと鋼影狼の総攻撃でようやく倒した。
【アースベア登録完了】
戦闘終了。
冒険者達は即座に撤退した。
上級召喚獣を全て失った以上、戦う理由がない。
「勝ちましたね」
「ああ」
「疲れました」
「俺もだ」
珍しくアルベルトも素直だった。
アースベアは本当に強かった。
そして。
新たな通知が表示される。
【新規配合候補 81件追加】
アルベルトの目が輝いた。
リリスが頭を抱える。
「やっぱりですか」
「当然だろう」
一覧を開く。
アースベア関連。
アイアンリザード関連。
ダーククロウ関連。
未知の組み合わせが大量に並ぶ。
その中で。
一つだけ異様な表示があった。
【複合配合候補】
鋼影狼
ダーククロウ
シャドウウルフ
成功率 28%
予測結果
???
「低いですね」
「高いな」
「どこがですか」
「四分の一以上ある」
「三回失敗します」
意見は合わなかった。
しかし。
アルベルトは候補から目を離さない。
影。
飛行。
奇襲。
三つの特徴が重なっている。
何かが生まれる。
そんな予感があった。
「やります?」
リリスが聞く。
アルベルトは珍しく悩んだ。
970位。
昇格挑戦戦。
新人リーグ卒業。
戦力強化。
考えるべきことは多い。
そして。
「やる」
結局こうなった。
「知ってました」
魔法陣が展開される。
鋼影狼。
ダーククロウ。
シャドウウルフ。
三体が光に包まれていく。
初めての複合配合。
今までとは明らかに違う。
魔力消費量も。
DP消費量も。
そして放たれる圧力も。
「大きいですね……」
リリスが思わず呟く。
配合陣が震える。
光が膨れ上がる。
成功か。
失敗か。
数秒が異様に長く感じられた。
そして。
通知が表示される。
【複合配合成功】
アルベルトが立ち上がる。
リリスも息を呑む。
光の中から現れたのは――
巨大な黒い翼。
鋼のような毛並み。
影そのもののような身体。
狼でも鳥でもない。
まったく新しい魔物だった。
【???】
【情報解析中】
「名前が出ませんね」
「初めてだな」
解析ゲージが進む。
10%。
30%。
50%。
そして。
【新種確認】
【ネーム登録権獲得】
沈黙。
アルベルトが固まる。
リリスも固まる。
数秒後。
リリスがゆっくり口を開いた。
「アルベルトさん」
「何だ」
「世界初個体です」
今度はアルベルトが固まる番だった。
忘れられた洞窟。
970位。
新人リーグ。
その片隅で。
誰も見たことのない新種の魔物が誕生していた。




