第46話 配合士の夜
冒険者の襲撃から数時間後。
忘れられた洞窟は静けさを取り戻していた。
配下達は休息に入り、見張りの魔物だけが巡回を続けている。
そんな中。
アルベルトだけはまだ起きていた。
「やっぱり寝てませんね」
リリスが呆れた声を出す。
「当然だろう」
「当然じゃありません」
アルベルトの目の前には大量の配合候補一覧が表示されていた。
アイアンウルフ。
ブラッドバット。
ストーンゴーレム。
新たに登録された三種の魔物によって、候補数は一気に増えている。
しかも、その多くが未知種だった。
「五十七件か」
「普通なら喜ぶところですよ」
「喜んでいるが」
「そういう意味じゃありません」
リリスはため息を吐いた。
配合士という適性を持つ人間がどれほど珍しいかは分からない。
だが少なくともアルベルトが特殊なのは確かだった。
普通の人間なら成功率を見る。
コストを見る。
効率を見る。
アルベルトは違う。
未知かどうかを見る。
それが一番危険だった。
「成功率六十二%」
アルベルトが呟く。
表示されているのは、
ハイフォレストウルフ × アイアンウルフ
の配合結果だ。
「高いですね」
「高いな」
「成功率ですよ?」
「だから高い」
「珍しいですね」
リリスは少し驚いた。
アルベルトは成功率三十%でも試す男だ。
むしろ六十%超えなら即決してもおかしくない。
だが今回は違った。
アルベルトは候補を閉じる。
そして別の候補を開いた。
【ブラッドバット × シャドウウルフ】
成功率 41%
予測結果 ???
「こっちも面白いな」
「だからそういう見方をやめてください」
さらに別。
【ストーンゴーレム × ビッグスライム】
成功率 55%
予測結果 ???
「これも気になる」
「全部気になってるじゃないですか」
図星だった。
実際、アルベルトはかなり悩んでいた。
珍しいことだった。
今までは選択肢が少なかった。
だから配合した。
しかし今は違う。
選択肢が多い。
だから迷う。
研究者らしい悩みだった。
「意外ですね」
リリスが言う。
「何がだ」
「悩むんですね」
アルベルトは少し考えた。
そして頷く。
「素材が貴重だからな」
それも事実だった。
アイアンウルフはまだ一体も召喚していない。
ブラッドバットも同じ。
今すぐ配合に使えば、新戦力が手に入るかもしれない。
だが失敗すれば遠回りになる。
「珍しく慎重ですね」
「研究だからな」
「研究だからこそ突っ走る人だと思ってました」
否定できなかった。
実際、以前のアルベルトなら既に実行していただろう。
だが970位に到達した今、状況は変わっている。
次の敵はさらに強い。
未知を追うだけでは勝てなくなってきた。
戦力として有効かどうかも考える必要がある。
「成長しましたね」
リリスが少し感心した。
「そうか?」
「前は成功したら面白い、失敗したら次でしたから」
「今もそうだぞ」
「成長してませんでした」
安心したような、残念なような気持ちだった。
その時。
新しい通知が表示された。
【ダンジョン情報更新】
アルベルトが開く。
そして目を細めた。
「なるほど」
「何です?」
「970位台の情報だ」
リリスも確認する。
公開されたのは近隣順位の情報だった。
970位。
969位。
968位。
967位。
どのダンジョンも、今までより明らかに強い。
魔物の質が違う。
戦力規模も違う。
「急に世界が変わりましたね」
「ああ」
990位台とは別世界だった。
特に969位のダンジョンが気になった。
支配魔物はマンティス系。
高い機動力と鋭い鎌を持つ昆虫型魔物。
しかも群れを形成するらしい。
「面倒そうですね」
「面倒だな」
「戦います?」
「そのうち」
アルベルトは即答した。
リリスは聞くんじゃなかったと思った。
当然のように挑戦するつもりらしい。
そして、そのためには戦力強化が必要になる。
アルベルトは再び配合画面を開く。
今度は迷いがなかった。
「決めた」
「早いですね」
「まずは一つ試す」
表示された組み合わせ。
【ハイフォレストウルフ × アイアンウルフ】
成功率 62%
「王道ですね」
「まずは基礎確認だ」
リリスが少し安心する。
珍しくまともな選択だった。
ブラッドバットとスライムを混ぜるような暴挙ではない。
狼同士。
順当な強化系統だろう。
たぶん。
おそらく。
きっと。
「その顔やめてください」
「何だ」
「結果が楽しみで仕方ない顔です」
アルベルトは否定しなかった。
そして配合ボタンへ手を伸ばす。
970位到達。
新素材獲得。
新たな敵の出現。
忘れられた洞窟はさらに次の段階へ進もうとしていた。
そして配合士にとって。
新たな進化は、いつだって一回の配合から始まるのだった。




