第45話 新素材確保作戦
「新素材確保だな」
アルベルトのその一言で、忘れられた洞窟の方針は決まった。
目の前には中級冒険者四人。
さらに召喚石から呼び出されたアイアンウルフ、ストーンゴーレム、ブラッドバット。
普通のダンジョンマスターなら「どう迎撃するか」を考える場面だ。
しかしアルベルトは違った。
「登録したいな」
「討伐対象を図鑑扱いしないでください」
リリスが即座にツッコむ。
「貴重な新種だぞ」
「向こうもそう思ってますよ」
「そうか」
「そうです」
冒険者達は慎重に進軍していた。
前回の中級冒険者よりさらに練度が高い。
先頭をストーンゴーレムが進み、その後ろをアイアンウルフが守る。上空ではブラッドバットが周囲を索敵していた。
無駄のない陣形だった。
「良い構成ですね」
リリスが感心する。
「召喚石だけで揃えたなら相当金を使っているな」
「アルベルトさんが言うと腹立ちますね」
「なぜだ」
「召喚石を買ったことがないからです」
それは事実だった。
一般のダンジョンマスターは召喚石に大金を使う。
しかしアルベルトは登録召喚がある。
さらに配合までできる。
かなり反則寄りの能力だ。
その頃、ブラッドバットが天井付近を旋回していた。
超音波による索敵。
隠れていたシャドウウルフの位置を正確に捉える。
「優秀ですね」
「欲しいな」
「その感想しか出ないんですか?」
次の瞬間、ブラッドバットが急降下した。
スライム隊へ向かって一直線。
だが影が動く。
シャドウリーパーだった。
黒い鎌が閃く。
一撃。
ブラッドバットは空中で消滅した。
通知が表示される。
【ブラッドバット登録完了】
アルベルトが小さく頷いた。
「よし」
「今の戦闘で見るところそこなんですね」
「重要だからな」
「研究者って怖いです」
冒険者達も動揺していた。
貴重な召喚魔物が一瞬で倒されたのだから当然だ。
だが彼らも熟練者だった。
すぐに次の行動へ移る。
アイアンウルフが前進した。
銀色の毛並みが鈍く光る。
速い。
フォレストウルフ二体を押し返し、さらにジェルウルフへ牙を向ける。
金属強化された身体は明らかに普通の狼より強力だった。
「かっこいいですね」
リリスが素直に言う。
「確かにな」
「だから目を輝かせないでください」
「無理だ」
「開き直りましたね」
戦況を見ながらリリスが分析を進める。
上位管理精霊へ進化した効果だった。
「首の付け根です」
「ん?」
「そこだけ防御力が落ちています」
アルベルトはすぐ理解した。
リリスは答えを出さない。
だがヒントはくれる。
それだけで十分だった。
「シャドウウルフ」
命令が飛ぶ。
影から飛び出す。
一撃。
すぐ離脱。
さらに別方向から再び奇襲。
アイアンウルフが反応した時にはもう遅い。
体勢が崩れた。
そこへシャドウリーパー。
黒い鎌が弱点を正確に斬り裂く。
アイアンウルフが崩れ落ちた。
【アイアンウルフ登録完了】
「二体目ですね」
「順調だな」
「素材集めみたいに言わないでください」
残るはストーンゴーレムだけだった。
だがこいつが厄介だった。
硬い。
とにかく硬い。
フォレストウルフの牙も通らない。
スライムの体当たりも効かない。
ジェルウルフですら押し切れない。
「面倒ですね」
「ああ」
アルベルトはしばらく観察した。
そして結論を出す。
「遅い」
「遅いですね」
意見が一致した。
防御力は高い。
しかし機動力は低い。
ならば対処法は一つだった。
囲む。
スライム達が足元へまとわりつく。
フォレストウルフが周囲を走り回る。
ジェルウルフが押し込む。
ストーンゴーレムは反撃するが追いつかない。
その隙にシャドウリーパーが同じ場所を何度も斬り続ける。
一撃では駄目なら十撃。
十撃で駄目なら二十撃。
やがて岩肌に亀裂が走った。
最後の一撃。
ストーンゴーレムは崩壊した。
【ストーンゴーレム登録完了】
「コンプリートですね」
リリスが呆れたように言った。
「コンプリートだな」
「だから図鑑じゃないんですって」
その頃には冒険者達の顔色が変わっていた。
召喚魔物全滅。
しかも忘れられた洞窟側の被害はほとんどない。
勝負にならない。
リーダーが即座に判断する。
「撤退!」
四人は迷わず引き返した。
中級冒険者らしい判断だった。
無理な戦闘を続けない。
だからこそ生き残れる。
その背中を見送りながらリリスが尋ねる。
「追いますか?」
「いや」
アルベルトは首を振った。
「目的は達成した」
「やっぱり魔物の方が目的だったんですね」
否定できなかった。
戦闘終了後、通知が次々と表示される。
【新規登録魔物】
・アイアンウルフ
・ブラッドバット
・ストーンゴーレム
さらに。
【新規配合候補 57件追加】
アルベルトの目が輝いた。
リリスは頭を抱えた。
嫌な予感しかしない。
「言っておきますけど」
「何だ」
「今日は寝てください」
「無理だな」
「即答しないでください」
アルベルトは既に配合候補一覧を開いていた。
アイアンウルフ。
シャドウウルフ。
ハイフォレストウルフ。
ブラッドバット。
ストーンゴーレム。
今まで存在しなかった組み合わせが大量に並んでいる。
その中で一つの項目が目に留まった。
【ハイフォレストウルフ × アイアンウルフ】
成功率 62%
予測結果
???
アルベルトの口元が上がる。
未知。
それは配合士にとって最高の誘惑だった。
そしてリリスは確信する。
970位になっても。
強くなっても。
このダンジョンマスターは変わらない。
次の騒動は、もう始まっていた。




