第44話 召喚石と配合士
970位への昇格から三日後。
忘れられた洞窟は久しぶりに平和だった。
冒険者の襲撃もない。
ランキング戦もない。
配下達も順調に成長している。
そして。
アルベルトは暇になった。
「嫌な予感しかしません」
リリスが即座に言った。
「なぜだ」
「アルベルトさんが暇だからです」
「失礼だな」
「今まで暇になった時にろくなことしてません」
反論できなかった。
◇
そんな中、リリスが新たな情報を整理していた。
上位管理精霊への進化後、処理できる情報量は大幅に増えている。
「そういえば」
「何だ」
「970位到達で学園側の公開情報も増えました」
「ほう」
アルベルトが興味を示す。
◇
表示されたのはランキング上位者の簡易情報だった。
もちろん詳細までは分からない。
だが戦力傾向くらいは見える。
◇
970位台。
960位台。
950位台。
一覧を眺める。
そして。
アルベルトは気付いた。
「似ているな」
「何がです?」
「戦力構成だ」
◇
リリスも確認する。
確かにそうだった。
ウルフ系中心。
ゴブリン系中心。
アンデッド系中心。
似たような構成が多い。
◇
「配合してないからですね」
「なるほど」
一般的なダンジョンマスターは召喚石で戦力を集める。
育成する。
進化させる。
それが普通だ。
◇
一方でアルベルトは。
スライムと狼を混ぜる。
影を混ぜる。
新種を作る。
常識から外れている。
◇
「他の人は大変ですね」
リリスが言った。
「そうか?」
「召喚石ですよ」
◇
召喚石。
この世界で最も一般的な戦力獲得手段。
魔物が封印された結晶。
砕けば魔物を召喚できる。
◇
ただし。
何が出るかは運も絡む。
◇
「そういえば」
アルベルトが首を傾げる。
「召喚石を買ったことがないな」
「買う必要ありませんからね」
リリスが呆れる。
◇
一般生徒なら。
良い召喚石を買うために資金を貯める。
レア召喚石を手に入れて喜ぶ。
当たりを引いて歓喜する。
◇
しかしアルベルトは。
登録したら召喚できる。
しかも配合までできる。
◇
「ずるいですね」
「便利だな」
「普通の人が聞いたら泣きますよ」
◇
その時だった。
入口付近で警戒反応。
冒険者。
しかも複数。
◇
「来ました」
「早いな」
映像を確認する。
◇
そこにいたのは四人組。
中級冒険者。
さらに。
リーダーらしき男が取り出した物を見て、リリスが声を上げた。
「召喚石です!」
◇
男が結晶を砕く。
光が広がる。
そして。
現れた。
◇
アイアンウルフ。
◇
金属質の毛並みを持つ狼。
明らかに普通のフォレストウルフより強そうだった。
◇
「なるほど」
アルベルトが興味深そうに眺める。
「こういうのが出るのか」
◇
さらに二個目。
三個目。
◇
アイアンウルフ。
ストーンゴーレム。
ブラッドバット。
◇
次々に魔物が現れる。
◇
「豪華ですね」
「高そうだな」
「かなり高いです」
◇
リリスが情報を確認する。
「全部レア召喚石です」
「へぇ」
「へぇじゃありません」
◇
普通なら驚くところだった。
しかし。
アルベルトは別の部分に注目していた。
◇
アイアンウルフ。
ストーンゴーレム。
ブラッドバット。
◇
配合候補。
表示可能。
◇
「駄目です」
リリスが即答する。
◇
「まだ何も言ってない」
「顔です」
◇
「登録したい」
「言いましたね」
◇
リリスは頭を抱えた。
◇
しかし。
アルベルトの言葉は正しかった。
あれらは未知の魔物。
忘れられた洞窟には存在しない。
つまり。
新たな配合素材だ。
◇
「倒すか」
「その言い方はやめてください」
「登録したい」
「もっと駄目です」
◇
二人がそんなやり取りをしている間にも、冒険者達は奥へ進んでくる。
◇
アイアンウルフ。
ストーンゴーレム。
ブラッドバット。
そして中級冒険者四人。
◇
今までで最も強力な侵入者だった。
◇
「どうします?」
リリスが尋ねる。
◇
アルベルトは少し考える。
そして。
笑った。
◇
「新素材確保だな」
◇
「研究者の発想なんですよ、それ」
◇
戦力差は小さくない。
だが。
アルベルトの目には既に新しい配合候補しか映っていなかった。
◇
忘れられた洞窟970位。
次の成長は、ランキング戦ではなく。
新たな魔物との出会いから始まろうとしていた。




