第43話 970位
特殊昇格戦が始まった。
転移先は森林地帯。
巨大な木々が生い茂り、視界は悪い。獣系魔物が有利になる特殊効果まで付与されている。完全にフォレストウルフキング側のホームグラウンドだった。
対するアルベルト達の戦力は、シャドウリーパー、シャドウウルフ、ジェルウルフ、フォレストウルフ七体、そしてスライム達。
戦力差だけ見れば圧倒的に不利。
フォレストウルフ三十九体。
ハイフォレストウルフ八体。
フォレストウルフキング一体。
リリスは敵の数を見て顔を引きつらせた。
「改めて見ると多いですね」
「多いな」
「帰りません?」
「もう始まっている」
「知ってます」
戦闘開始の合図と同時に、狼達が一斉に駆け出した。
普通なら正面から迎撃する場面だろう。
しかしアルベルトは違った。
「散開」
命令と同時に味方が動く。
スライム隊は左右へ展開。
フォレストウルフ隊は後退。
シャドウウルフは影へ潜る。
まるで逃げるような動きだった。
「また嫌な作戦ですね」
「効率的と言え」
「敵側からしたら嫌な作戦です」
実際その通りだった。
アルベルトは最初から群れ同士の正面衝突を考えていない。
狼は集団で戦う。
ならば集団を崩せばいい。
先頭のフォレストウルフが追撃に夢中になった瞬間、足元からビッグスライムが飛び出した。
バランスを崩す。
その隙をシャドウリーパーが狩る。
一体撃破。
別の場所ではシャドウウルフが奇襲して即座に離脱。
さらに別の場所ではスライム達が足止めを行う。
戦いは乱戦ではなかった。
解体作業だった。
十分後にはフォレストウルフの半数が脱落していた。
「怖いですね」
「何がだ」
「アルベルトさんです」
「敵じゃなくて?」
「敵よりです」
アルベルトは納得いかない顔をした。
その頃には敵も異常事態に気付いていた。
群れが崩れている。
数が減っている。
そして何より、こちらの主力がほとんど無傷だ。
怒り狂ったハイフォレストウルフ達が突撃してくる。
しかし今度はジェルウルフが前に出た。
ぷるぷるの身体が衝撃を吸収する。
噛まれても再生する。
吹き飛ばされても立ち上がる。
「本当に便利ですね」
「そうだな」
「見た目はおやつみたいなのに」
「失礼だぞ」
ジェルウルフが少し悲しそうに震えた気がした。
戦闘開始から二十分。
残ったのはフォレストウルフキングと数体の護衛だけだった。
そしてついに王が動く。
凄まじい咆哮が森全体を揺らした。
次の瞬間にはフォレストウルフキングがシャドウリーパーの目前まで迫っていた。
速い。
今までの敵とは格が違う。
シャドウリーパーの回避がわずかに遅れる。
腕を掠められる。
さらに追撃。
完全に押されていた。
「まずいですよ!」
リリスが叫ぶ。
だがアルベルトは慌てない。
むしろ少し笑っていた。
「かかったな」
「その台詞好きですね!?」
フォレストウルフキングが踏み込む。
その瞬間だった。
足元の地面が揺れる。
潜んでいたスライム達が一斉に飛び出したのだ。
キングの体勢が崩れる。
そこへジェルウルフが体当たり。
さらに影からシャドウウルフが飛び出し、視界を塞ぐ。
一瞬。
本当に一瞬だけ。
王の動きが止まった。
そしてその隙を、シャドウリーパーは見逃さなかった。
黒い鎌が閃く。
首筋へ一撃。
フォレストウルフキングの巨体がゆっくりと崩れ落ちた。
戦場が静まり返る。
直後。
通知が表示される。
特殊昇格戦勝利
ランキング更新
989位→970位
「勝った……」
リリスが呆然と呟く。
「勝ったな」
「思ったより普通に言いますね」
「疲れた」
「珍しい」
アルベルトは素直に腰を下ろした。
さすがに今回の相手は強かった。
だが報酬はそれ以上だった。
特殊昇格戦報酬獲得
精霊核進化権
二人は顔を見合わせる。
「何ですかこれ」
「知らん」
「便利な時だけ知らんって言いますよね」
説明を開く。
そこには簡潔に記されていた。
対象:リリス
補助精霊を進化可能
「私ですね」
「お前だな」
「嫌な予感がします」
「面白そうだな」
「その感想が一番怖いんです」
しかし選択肢は一つしかなかった。
進化開始。
光がリリスを包む。
数分後、光が消えた。
そして。
「変わってませんね」
「変わってないな」
見た目はほぼ同じだった。
リリス自身も身体を見回して首を傾げる。
ところが次の瞬間、大量の情報が頭へ流れ込んだ。
「あ」
「どうした」
「シャドウウルフを軸にした配合候補が三十六通りあります」
「増えたな」
「戦力強化案が七種類あります」
「便利だな」
「あとアルベルトさんは重度の配合中毒です」
「何だそれ」
「客観的分析結果です」
「そんな機能はいらない」
「あります」
「消せ」
「無理です」
即答だった。
アルベルトは頭を抱えた。
リリスは少しだけ得意そうに笑う。
どうやら進化したらしい。
戦闘能力が上がったわけではない。
代わりに分析能力と情報整理能力が飛躍的に向上した。
そしてなぜかツッコミの切れ味も上がっていた。
こうして忘れられた洞窟は970位へ到達した。
だがアルベルトは既に次のランキングを見ていた。
970位は通過点。
目指すのはもっと上だ。
その視線の先で、リリスが呆れたようにため息を吐く。
「今度は何を配合するつもりですか」
「まだ考えていない」
「絶対嘘ですね」
忘れられた洞窟の快進撃は、まだ始まったばかりだった。




