第40話 初めての来訪者
970位への特殊昇格戦。
その準備を進めていたある日のことだった。
忘れられた洞窟のダンジョンコアが強く光る。
アルベルトが振り返る。
リリスも気付いた。
通知だった。
⸻
特殊配合型認定完了
公開情報更新
⸻
さらに続く。
⸻
ダンジョン注目度上昇
冒険者来訪率上昇
⸻
「来たか」
アルベルトが呟く。
「何がです?」
「本業だ」
◇
リリスは少し考える。
そして苦笑した。
「そういえばダンジョンって冒険者を迎え撃つ施設でしたね」
「そうだな」
「ランキング戦ばかりで忘れてました」
「俺も少し忘れていた」
二人は顔を見合わせた。
最下位時代。
誰も来なかった。
だからランキング戦ばかりだった。
しかし今は違う。
特殊配合型認定。
未知の魔物。
二連続格上撃破。
少しずつ忘れられた洞窟の名前が広まり始めている。
◇
昼過ぎ。
入口付近のスライム達が騒ぎ始めた。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
警戒の合図だった。
「来ましたね」
「ああ」
アルベルトは立ち上がる。
忘れられた洞窟、初の来訪者である。
◇
洞窟入口。
三人の若い冒険者が慎重に進んでいた。
剣士。
槍使い。
魔術師。
典型的な新人パーティだった。
アルベルトはコア越しに確認する。
⸻
冒険者パーティ
総人数:3
脅威度:低
⸻
「新人ですね」
「ああ」
リリスも頷く。
まだ荒削りだ。
装備も安物。
動きも硬い。
おそらく学園都市周辺で依頼を受け始めたばかりなのだろう。
◇
三人は話していた。
「ここで合ってるよな?」
「ああ」
「特殊配合型のダンジョン」
「変な魔物がいるらしいぞ」
アルベルトは少し驚く。
もう噂が広まっている。
特殊配合型認定の影響は想像以上だった。
◇
「どうします?」
リリスが尋ねる。
「迎撃する」
「殺します?」
アルベルトは少し考えた。
そして首を振る。
「必要ない」
「意外ですね」
「新人だ」
それだけだった。
◇
アルベルトは合理主義者だ。
侵入者を排除する。
ダンジョンを守る。
それは当然。
しかし。
無意味な殺害は好まない。
特に新人相手なら尚更だった。
「殺せば脅威は減りますよ?」
リリスが聞く。
「冒険者も減る」
「なるほど」
「死体は一度しか使えない」
「はい」
「生きて帰れば噂になる」
リリスは思わず笑った。
「経営者みたいですね」
「ダンジョン運営だからな」
◇
新人冒険者達は第一広間へ到達する。
そこでスライムを発見した。
「スライムか」
剣士が笑う。
「楽勝だな」
剣を振るう。
一体撃破。
二体撃破。
新人でも倒せる相手だった。
◇
だが。
その瞬間。
影が動いた。
壁際。
岩陰。
黒い液体のような魔物が現れる。
「なっ!?」
冒険者達が固まる。
初めて見る魔物だった。
シャドウスライム。
図鑑にも載っていない。
未知の存在。
◇
魔術師が慌てて魔法を放つ。
しかし当たらない。
影のように動く。
姿が消える。
現れる。
また消える。
新人達は完全に混乱した。
「何だよこれ!」
「聞いてないぞ!」
「特殊配合型って本当だったのか!」
◇
その時。
さらに背後から気配。
シャドウリーパーだった。
黒い鎌が静かに首筋へ添えられる。
剣士の全身が硬直する。
一歩も動けない。
戦えば死ぬ。
本能がそう告げていた。
◇
静寂。
数秒。
誰も動かない。
そして。
魔術師が震えながら言った。
「……負けだ」
槍使いも頷く。
剣士も剣を下ろした。
戦意喪失。
完全敗北だった。
◇
その瞬間。
ダンジョンコアが判定を下す。
⸻
侵入者制圧成功
冒険者撤退
DP獲得
120
⸻
リリスが通知を見る。
「倒してなくても貰えるんですね」
「ああ」
アルベルトも確認していた。
さらに詳細が表示される。
⸻
撃退報酬
120DP
※撃破時は追加報酬あり
⸻
「なるほど」
「ちゃんと差があるんですね」
「らしいな」
◇
新人冒険者達は逃げるように洞窟を出ていった。
その背中をアルベルトは見送る。
「逃がすんですね」
「今回はな」
「今回は?」
「コアを壊しに来るなら話は別だ」
リリスは少しだけ背筋が寒くなった。
アルベルトは優しいわけではない。
必要なら殺す。
ただ無駄を嫌うだけなのだ。
◇
夕方。
再び通知が届く。
⸻
冒険者評価更新
忘れられた洞窟
危険度上昇
注目度上昇
⸻
さらに。
⸻
冒険者生還報告確認
知名度上昇
⸻
「宣伝されましたね」
「ああ」
新人達は間違いなく話す。
特殊配合型。
未知の魔物。
見たことのない戦術。
噂は広がる。
◇
その夜。
ダンジョンコアが再び光った。
⸻
特殊配合型特典
魔物図鑑更新
⸻
説明が表示される。
⸻
特殊配合型
発見済み一般種を召喚可能
※特殊個体は対象外
※特殊配合型限定
⸻
リリスが目を丸くする。
「限定?」
「ああ」
「他のダンジョンマスターは?」
「使えないらしい」
「反則ですね」
アルベルトも同意した。
「俺もそう思う」
◇
学園都市。
数日後。
酒場で三人の新人冒険者が熱弁していた。
「本当にいたんだ!」
「スライムじゃなかった!」
「影の魔物だ!」
周囲の冒険者達が興味を示す。
「特殊配合型?」
「聞いたことないな」
「どこのダンジョンだ?」
少しずつ。
確実に。
忘れられた洞窟の名は広がり始めていた。
そしてその噂は、
やがて新人だけではなく、もっと危険な冒険者達を呼び寄せることになる。
アルベルトはまだ知らない。
次にやって来る来訪者が、忘れられた洞窟にとって最初の試練になることを。




