第34話 実験開始
ランキング戦まで十七日。
忘れられた洞窟は再び平穏を失っていた。
原因はもちろん――
アルベルトである。
「やるか」
朝。
中央広間でアルベルトが立ち上がった。
リリスは嫌そうな顔をする。
「何をですか」
「実験」
「でしょうね」
予想通りだった。
むしろそれ以外なら驚く。
◇
アルベルトの前には、
ビッグスライムが二体。
シャドウが一体。
正確には、昨日召喚したばかりのシャドウだった。
ビッグスライム×シャドウ。
成功率六十一パーセント。
それが昨日発見した配合候補である。
「成功率高いですね」
「思ったよりな」
配合は五割を超えれば十分狙える。
六割を超えるなら挑戦する価値がある。
特にアルベルトはそう考えていた。
「失敗したら?」
「素材が消える」
「軽く言いますね」
「事実だ」
研究者である。
素材への情はある。
だが実験を止めるほどではない。
◇
配合陣が光る。
ビッグスライム。
シャドウ。
二体が光に包まれていく。
リリスは少し緊張していた。
アルベルトはじっと見ている。
そして。
数秒後。
結果が出た。
⸻
配合成功
⸻
光が弾ける。
そこにいたのは――
黒いスライムだった。
◇
沈黙。
「黒いですね」
「黒いな」
本当に黒い。
説明が終わるレベルで黒かった。
サイズはビッグスライムより少し小さい。
しかし。
体の表面が不自然に揺れている。
影のように。
煙のように。
存在感が薄い。
アルベルトの配合眼が起動する。
⸻
シャドウスライム
脅威度:低
適性:奇襲
潜伏適性:高
⸻
「おお」
珍しくアルベルトが声を漏らした。
当たりだった。
◇
シャドウスライムは面白い魔物だった。
岩陰へ移動する。
すると。
見失う。
「え?」
リリスが目を瞬かせる。
本当に消えた。
気配も薄い。
存在感も薄い。
そして。
足元から突然現れる。
「びっくりしました!」
「潜伏能力か」
アルベルトは興味深そうだった。
戦闘能力は低い。
だが隠れる能力は高い。
シャドウリーパーほどではない。
しかし。
十分実用的だった。
◇
その日の午後。
アルベルトは新しい実験を始めていた。
「まだやるんですか」
「候補が増えた」
当然だった。
図鑑登録。
新種誕生。
つまり。
新しい組み合わせが解放される。
アルベルトの目の前には候補一覧。
その中で。
ある表示が目に入った。
⸻
シャドウスライム × ゴブリン
成功率43%
⸻
「やめましょう」
リリスが即答した。
「低いな」
「低いです」
「でも可能性はある」
「だから危ないんですよ」
完全に研究者の顔だった。
◇
しかし。
アルベルトはすぐには実行しなかった。
意外だった。
「やらないんです?」
「DPが惜しい」
リリスは少し安心した。
ちゃんと理性が残っていた。
今はランキング戦前。
遊んでいる場合ではない。
戦力も必要だ。
「まずはホブゴブリンロードだ」
アルベルトは地面へ視線を落とした。
そこには小鬼の巣穴の配置図。
見張り台。
巡回路。
ホブゴブリンロード。
何度も見返した地図だった。
◇
その時だった。
ダンジョンコアが光る。
通知。
アルベルトは視線を向ける。
⸻
月間ランキング変動予告
ランキング戦まで
十五日
⸻
さらに。
その下へ文字が浮かんだ。
⸻
対戦候補情報更新
⸻
アルベルトの目が細くなる。
リリスも気付く。
「更新?」
「ああ」
今までに無かった通知だった。
何かが変わった。
ランキング戦が近づいている。
だからかもしれない。
コアがゆっくりと新しい情報を表示する。
アルベルトは息を呑んだ。
そして。
数秒後。
静かに呟く。
「なるほど」
リリスが覗き込む。
「何です?」
アルベルトは画面から目を離さない。
「小鬼の巣穴」
「はい」
「思ったより厄介だ」
ランキング戦まで十五日。
忘れられた洞窟は、格上の本当の姿を知ろうとしていた。




