第33話 素材集め
ランキング戦まで二十日。
ホブゴブリンロード攻略作戦は完成した。
シャドウリーパーも順調に成長している。
だが。
忘れられた洞窟には致命的な問題が残っていた。
戦力不足である。
「少ないな」
朝。
中央広間でアルベルトが呟いた。
リリスが周囲を見回す。
シャドウリーパーが一体。
スライムが二体。
以上。
「改めて見ると酷いですね」
「ああ」
「989位に挑む戦力じゃありません」
「ああ」
否定できない。
もしシャドウリーパーが倒されたら終わる。
それが今の忘れられた洞窟だった。
◇
「だから増やす」
アルベルトはダンジョンコアの前に立った。
リリスは嫌な予感しかしなかった。
最近のアルベルトは、
何か思いつくたびにろくでもないことをする。
本人に自覚はない。
「配合ですか?」
「その前だ」
珍しい。
アルベルトは配合を選ばなかった。
コアに手を触れる。
すると新しい一覧が表示された。
⸻
召喚可能魔物
スライム 10DP
ゴブリン 30DP
シャドウ 50DP
スケルトン 40DP
⸻
「増えてますね」
「ああ」
情報解析機能の進化。
図鑑登録。
特殊配合型への変化。
複数の条件が重なった結果らしい。
◇
リリスは一覧を見ながら首を傾げる。
「アダプトゴブリンは?」
アルベルトも少し考える。
確かに表示されていない。
「レア個体だからか」
「召喚できないんです?」
「できないらしい」
リリスは不思議そうだった。
「でも図鑑には登録されてますよね?」
「されている」
「じゃあ何でです?」
アルベルトは少し笑った。
「もし召喚できたらどうなる」
「どうなるって……」
リリスは考える。
そして。
数秒後。
嫌な顔になった。
「あ」
「気付いたか」
「シャドウリーパー量産できますね」
「できるな」
アダプトゴブリン召喚。
シャドウ召喚。
配合。
終わり。
それだけである。
苦労も研究も必要ない。
「それ駄目ですね」
「ああ」
アルベルトも頷く。
もしそんなことができたら、
特殊配合の価値が消える。
レア個体の価値も消える。
「つまり」
「一般種だけ召喚できる」
「レア種は自力で探せと」
「その方が面白い」
アルベルトらしい結論だった。
リリスも少し納得する。
確かに。
その方が研究のしがいがある。
◇
問題は何を召喚するかだ。
リリスは当然のようにゴブリンを見る。
「素材ならゴブリンですか?」
「違う」
即答。
「シャドウ?」
「違う」
「スケルトン?」
「違う」
全部違う。
嫌な予感がする。
非常に嫌な予感だ。
アルベルトの指が止まった先。
⸻
スライム
⸻
「またですか」
「まただ」
真顔だった。
◇
数時間後。
忘れられた洞窟は賑やかになっていた。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
スライムが増えた。
五体。
元の二体と合わせて七体。
「増えましたね」
「ああ」
「弱そうです」
「ああ」
評価は辛辣だった。
だがアルベルトは満足している。
理由は簡単。
安いからだ。
十DP。
大量生産できる。
失敗しても痛くない。
そして。
何より。
素材になる。
◇
案の定。
アルベルトは配合眼を発動した。
⸻
スライム × スライム
成功率95%
⸻
「来ましたね」
「ああ」
「来ちゃいましたね」
リリスは遠い目をした。
研究者の目だった。
危険なやつである。
◇
配合開始。
結果。
光が収まる。
現れたのは――
一回り大きなスライムだった。
⸻
ビッグスライム
⸻
沈黙。
「地味ですね」
「地味だな」
二人とも同意見だった。
強そうでもない。
格好良くもない。
大きいだけ。
だが。
アルベルトは気にしていなかった。
図鑑が更新される。
新しい種が増える。
そして。
配合候補も増える。
それが重要だった。
◇
さらに三日が経過した。
ランキング戦まで十七日。
忘れられた洞窟の戦力は少し変わっていた。
⸻
シャドウリーパー ×1
スライム ×3
ビッグスライム ×2
⸻
まだ弱い。
だが確実に増えている。
そして。
アルベルトは新しい表示を見つけていた。
⸻
ビッグスライム × シャドウ
成功率61%
⸻
リリスは見た瞬間に顔を覆った。
「やめましょう」
「まだ何も言ってない」
「言うつもりですよね?」
「少し興味がある」
「その言葉が一番危険なんですよ」
即答だった。
アルベルトは無視した。
配合眼は可能性を示している。
成功率六十一パーセント。
低くはない。
そして。
未知の魔物。
ランキング戦まで残り十七日。
忘れられた洞窟の研究は、まだ終わりそうになかった。




