第32話 足りないもの
ランキング戦まで二十一日。
作戦は完成した。
ホブゴブリンロードを直接叩く。
群れとは戦わない。
シャドウリーパーによる奇襲。
アルベルトが考え抜いた結論だった。
だが――
「足りないな」
翌朝。
第一声がそれだった。
リリスは頭を抱えた。
「今度は何ですか」
「戦力だ」
「またですか」
「まただ」
即答だった。
◇
中央広間。
アルベルトは地面へ戦力を書き出していた。
忘れられた洞窟。
現在戦力。
⸻
シャドウリーパー ×1
スライム ×2
⸻
「少ないですね」
「少ないな」
改めて文字にすると酷い。
本当に酷い。
ホブゴブリンロード陣営は二十体以上。
こちらは三体。
数だけなら圧倒的敗北である。
「でも作戦はあるじゃないですか」
リリスが言う。
「暗殺」
「ああ」
「なら良いのでは?」
アルベルトは首を振る。
「失敗した時が終わる」
そこだった。
シャドウリーパーが見つかる。
奇襲に失敗する。
ホブゴブリンロードが生き残る。
その瞬間。
勝率は激減する。
一手しかない作戦は危険だった。
「保険が欲しい」
アルベルトが呟く。
◇
昼。
アルベルトはスライム達を見ていた。
二匹は元気だった。
いつも通りぷるぷるしている。
「お前達も強くなったな」
ぴょんぴょん跳ねる。
褒められているのは分かったらしい。
「可愛いですね」
「働き者だ」
アルベルトは頷く。
実際。
忘れられた洞窟がここまで成長できた理由の一つはスライム達だった。
DP回収。
雑務。
探索。
地味だが貢献は大きい。
そして。
アルベルトの視界に情報が浮かぶ。
⸻
スライム
戦闘適性:低
成長適性:低
繁殖適性:高
⸻
「また繁殖適性か」
以前から気になっていた項目だった。
リリスも覗き込む。
「まだ分からないんです?」
「分からない」
「珍しいですね」
本当に珍しい。
アルベルトは大抵の情報を推測できる。
だがこれは違った。
なぜ今さら表示されたのか。
何を意味するのか。
分からない。
◇
その日の夕方。
ダンジョンコアが光った。
通知だった。
⸻
月間報告
忘れられた洞窟
魔物数:3
ダンジョン評価:特殊配合型
総合評価:低
⸻
アルベルトが止まる。
リリスも見る。
そして。
同時に気付いた。
「魔物数……」
「ああ」
三体。
やはり少ない。
少なすぎる。
特殊配合型として評価は上がった。
だが。
総合評価は低いまま。
理由は簡単だった。
数が足りない。
「シャドウリーパーが強くても」
「一体だからな」
アルベルトが頷く。
そこでようやく理解した。
今の忘れられた洞窟は尖りすぎている。
槍のような戦力。
刺されば強い。
外せば終わる。
◇
夜。
アルベルトはダンジョンコアの前に座っていた。
考える。
ホブゴブリンロード。
群れ。
ランキング戦。
そして。
忘れられた洞窟。
「増やすか」
静かな声だった。
リリスが嫌な顔をする。
「その言い方、嫌な予感しかしません」
「そうか?」
「そうです」
アルベルトは真面目な顔だった。
だから余計に怖い。
「配合ですか?」
「違う」
リリスが少し安心する。
しかし。
次の言葉で安心は吹き飛んだ。
「新しい魔物を召喚する」
沈黙。
数秒。
「……お金あります?」
「DPならある」
「使い切る気ですか?」
「必要経費だ」
配合士らしい答えだった。
いや。
研究者かもしれない。
アルベルトは既に決めていた。
シャドウリーパーだけに頼らない。
第二の戦力。
第三の戦力。
ランキング戦までに揃える。
そのためのDPは惜しまない。
ダンジョンコアが淡く光る。
召喚可能一覧。
そこには新たな候補が表示されていた。
アルベルトの目が細くなる。
リリスは嫌な予感しかしなかった。
ランキング戦まで残り二十日。
忘れられた洞窟は、新たな仲間を迎える準備を始めようとしていた。




