第30話 第二の配合
ランキング戦まで二十三日。
「配合だ」
アルベルトがそう言った瞬間、リリスは深いため息を吐いた。
「いつやるんです?」
「今からだ」
「即決でした」
予想はしていた。
だが早い。
非常に早い。
普通なら数日悩む。
資料を集める。
検証する。
しかしアルベルトは違った。
もう決めている。
いや。
恐らく数日前から決めていた。
「候補は?」
リリスが聞く。
アルベルトは迷わず答えた。
「シャドウとアダプトジェルゴブリン」
「やっぱり」
予想通りだった。
何度も表示されていた組み合わせ。
成功率七十四%。
異常な数字。
配合士なら飛び付く。
アルベルトならなおさらだ。
「失敗したら?」
「戦力半減だな」
「笑い事じゃありません」
現在の忘れられた洞窟は少数精鋭。
アダプトジェルゴブリンが主戦力。
シャドウは偵察担当。
その二体を同時に失う可能性がある。
普通なら絶対にやらない。
しかし。
アルベルトは静かに首を振った。
「勝つなら必要だ」
その一言でリリスも黙る。
確かに。
今のままでは苦しい。
ホブゴブリンロード。
ホブゴブリンの群れ。
数の差。
どこかで戦力を引き上げなければならない。
「二人はどう思う?」
アルベルトが魔物たちを見る。
アダプトジェルゴブリン。
シャドウ。
二体は顔を見合わせた。
そして。
アダプトジェルゴブリンが前へ出る。
胸を叩く。
やる。
そう言いたいらしい。
シャドウは少し迷った後。
小さく頷いた。
「……本人たちがやる気ですね」
リリスが呟く。
「そうだな」
「止められませんね」
「止められないな」
こうして。
忘れられた洞窟二度目の大配合が決定した。
◇
中央広間。
ダンジョンコアの前。
全員が集まる。
スライム二匹もいる。
何が起きるか分からないが、とりあえず見学するつもりらしい。
アルベルトは深呼吸した。
配合陣を起動する。
青白い光が広がる。
そして。
視界に文字が浮かぶ。
⸻
アダプトジェルゴブリン
×
シャドウ
成功率 74%
実行しますか?
⸻
「実行」
迷いはなかった。
光が爆発する。
アダプトジェルゴブリンとシャドウが包まれる。
眩しい。
何も見えない。
リリスが目を細める。
スライムたちは岩陰へ避難した。
そして。
数十秒後。
光が消える。
静寂。
誰も動かない。
失敗か。
成功か。
その時。
影が動いた。
黒い影。
しかし。
以前より大きい。
ゆっくりと姿を現す。
全員が息を呑んだ。
そこに立っていたのは。
人型だった。
黒い身体。
鋭い爪。
長い腕。
そして。
赤く光る瞳。
アダプトジェルゴブリンの面影。
シャドウの能力。
両方を残している。
「成功した……」
リリスが呟く。
アルベルトの視界に文字が現れる。
⸻
個体名
シャドウリーパー
新種認定
⸻
沈黙。
次の瞬間。
アルベルトの目が輝いた。
「成功だ」
「見れば分かります」
リリスが突っ込む。
だが気持ちは分かる。
新種。
また新種。
普通の配合士なら一生に一度作れるかどうか。
それを二度。
異常だった。
◇
シャドウリーパーは静かに周囲を見回した。
そして。
すっと姿が消える。
「消えた!?」
リリスが驚く。
気配がない。
完全に消えた。
その直後。
アルベルトの背後に現れる。
さらに。
次の瞬間には天井近くの影へ移動していた。
「速いな」
アルベルトが呟く。
情報解析を発動する。
⸻
シャドウリーパー
戦闘適性:高
潜伏適性:極高
奇襲適性:極高
成長適性:高
⸻
リリスもそれを聞いて息を呑む。
戦闘適性が高い。
つまり。
弱点だった火力不足が解消されている。
「これ」
リリスが言う。
「強くないですか?」
「強いな」
アルベルトは頷いた。
そして。
ふと笑う。
本当に僅かだった。
「勝てるかもしれない」
リリスが驚く。
アルベルトは慎重な性格だ。
その彼が言った。
勝てるかもしれない。
それは大きな意味を持つ。
ホブゴブリンロード。
ホブゴブリンの群れ。
数の不利。
それらを覆せる可能性が見えたのだ。
ダンジョンコアが静かに光る。
⸻
ダンジョン評価更新
特殊配合型
評価上昇
順位変動対象
⸻
忘れられた洞窟はまた一歩進んだ。
そして。
その日の夜。
アルベルトは新たな通知を見ることになる。
⸻
情報解析機能が進化した
⸻
アルベルトの目が輝く。
リリスは頭を抱えた。
「またですか……」
ランキング戦まで残り二十二日。
忘れられた洞窟の戦力は、一気に次の段階へ到達していた。




