第27話 同期からの相談
「よう」
忘れられた洞窟へ現れたレオン・グランツは、交流会の時と同じように軽い調子で手を上げた。
「暇だったから来た」
そして開口一番そう言った。
「嘘だな」
アルベルトは即答した。
「バレたか」
「バレますよね」
リリスも頷く。
交流会からまだ数日。
わざわざダンジョン間転移を使って訪れる理由としては弱すぎた。
レオンは苦笑しながら洞窟内を見回した。
そしてアダプトジェルゴブリンを見つける。
「おお、本当にいた」
少し感動した顔になる。
交流会で話題になった未知の魔物。
当然興味はあった。
アダプトジェルゴブリンは警戒するようにレオンを見る。
レオンも近寄る。
アダプトジェルゴブリンも一歩下がる。
「嫌われてますね」
リリスが言った。
「初対面だからな」
レオンは苦笑する。
すると横からシャドウがひょこっと顔を出した。
レオンが固まる。
「なんだこいつ」
「シャドウだ」
「名前じゃなくて種族」
「分からない」
「分からないのかよ」
当然の反応だった。
新種が二体いる。
普通なら驚く。
「で」
アルベルトが言う。
「本題は?」
レオンは少しだけ真顔になった。
「相変わらず話が早いな」
「無駄が嫌いだからな」
「それは知ってる」
学園時代からそうだった。
雑談より本題。
世間話より魔物図鑑。
そんな男である。
レオンは一度息を吐いた。
そして。
「相談がある」
リリスが目を瞬く。
アルベルトも少しだけ驚いた。
相談。
レオンが。
成績三位。
戦闘系の優等生。
その男が。
「俺にか?」
「お前にだ」
即答だった。
「何の相談です?」
リリスも興味を持つ。
レオンは少し困った顔をした。
「魔物だ」
その瞬間。
アルベルトの表情が変わった。
リリスには分かる。
これは興味を持った顔だ。
「詳しく」
前のめりだった。
「食いつくの早いな」
「魔物だからな」
当然らしい。
レオンは少し笑った。
やはり来て正解だったかもしれない。
「俺のダンジョンにはアイアンウルフがいる」
アルベルトは頷く。
知っている。
金属質の毛皮を持つ狼型魔物。
防御力が高い。
前衛向き。
新人ダンジョンでは人気の魔物だ。
「そのアイアンウルフが変なんだ」
「変?」
「最近急に強くなってる」
リリスが首を傾げた。
強くなるなら良いことではないか。
しかしレオンは首を振る。
「普通じゃない」
「どのくらいだ」
アルベルトが聞く。
「ホブゴブリンを一体で倒した」
空気が止まった。
ホブゴブリン。
下位帯では十分強敵である。
それを一体で?
「成体か?」
「成体」
「武器持ちか?」
「持ってた」
アルベルトが黙る。
少し考える。
「それだけか?」
「まだある」
レオンは続けた。
「夜になると群れから離れる」
「ほう」
「朝になると戻る」
アルベルトの目が細くなる。
完全に考察モードだった。
「怪我は?」
「ない」
「食事量は?」
「増えた」
「毛並みは?」
「少し黒くなった」
質問が止まらない。
レオンも少し引いていた。
「お前、本当に魔物のことになると怖いな」
「重要だからな」
アルベルトは真剣だった。
そして数秒後。
一つの結論に辿り着く。
「多分だが」
「分かったのか?」
「可能性の話だ」
レオンもリリスも身を乗り出した。
アルベルトは言う。
「進化前兆だな」
沈黙。
レオンが目を見開く。
「進化?」
「ああ」
アイアンウルフは進化系統を持つ。
珍しい話ではない。
だが。
「普通はもっと時間が掛かるだろ?」
「個体差がある」
アルベルトは答える。
「夜に単独行動」
「食事量増加」
「身体変化」
「戦闘力向上」
「全部一致する」
レオンが黙る。
確かに。
言われてみれば。
全部当てはまる。
「マジか……」
「恐らくな」
アルベルトは続けた。
「次に見たら牙を確認しろ」
「牙?」
「伸びているはずだ」
「そんなことまで分かるのか」
「図鑑に書いてあった」
リリスが呆れた。
また図鑑だった。
何でも図鑑だ。
だが。
今まで外れたことはほとんどない。
レオンはしばらく考え込む。
そして。
ふっと笑った。
「やっぱり来て正解だったな」
「そうか」
「魔物のことならお前が一番詳しい」
アルベルトは少しだけ困った顔をした。
褒められるのが苦手なのだ。
リリスはそんな様子を見て笑う。
学園では落ちこぼれ扱いだった。
だが。
少なくとも魔物に関してだけは違う。
同期の優等生が相談に来るくらいには。
その知識は本物だった。
「礼を言う」
レオンが立ち上がる。
「確認してみる」
「ああ」
「進化してたら報告する」
その言葉に。
アルベルトの目が少し輝いた。
「本当か?」
「本当だ」
「進化後の情報も頼む」
「そっちかよ」
レオンが笑う。
心配して損した。
やはりアルベルトはアルベルトだった。
ランキング戦まで残り二十五日。
忘れられた洞窟は少しずつだが、確実に他のダンジョンとの繋がりを広げ始めていた。




