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『最弱ダンジョンの配合士 ~誰も知らない配合で最強ダンジョンを目指します~』  作者: もかどら


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222/223

第222話 リリスという存在

王喰が消滅してから三日が経過していた。


忘れられた洞窟は静かだった。


不気味なほどに。


ここ数か月、いや一年近く続いていた激戦の日々が嘘のようだった。


ランキング戦。


昇格戦。


特別戦。


研究施設。


王候補。


そして王喰。


次から次へと問題が押し寄せてきた。


だが今だけは違う。


終号も静かだった。


研究施設も静かだった。


地下都市も静かだった。


まるで三十年間続いていた何かが、本当に終わったことを理解しているようだった。


そんな中。


アルベルト達は研究施設最深部に集まっていた。


終号が呼び出したのである。


中央に浮かぶ青い光。


終号。


そしてその前にはリリスが立っていた。


いつも通りの姿だった。


羽もある。


表情もある。


文句も言う。


だが。


以前とは少し違った。


王喰との融合。


そして分離。


その過程で失われていた記録が戻り始めている。


終号が静かに表示する。



最終記録解放



対象


記録妖精



全員の視線がリリスへ向いた。


リリス本人も少し緊張している。


珍しい。


本当に珍しい。


「私も全部分かっているわけじゃありません」


最初にそう言った。


「でも」


少し息を吐く。


「多分、今日で終わります」


王喰。


フェルナー。


研究施設。


そして。


リリス自身の謎。


全てが。


終号が起動する。


研究施設全体がわずかに震えた。


次の瞬間。


無数の光が空間へ広がる。


映像だった。


三十年以上前。


研究施設。


若いフェルナー・アルトが映っている。


今まで見た映像とは違う。


疲れていない。


絶望していない。


まだ希望しか持っていない頃の姿だった。


フェルナーは机へ向かっている。


その横。


小さな光球が浮いていた。


妖精だった。


まだ形も曖昧な小さな存在。


しかし。


全員が理解する。


リリスだった。


「え……」


リリス自身が固まる。


フェルナーは光球を見ながら笑った。


『第一世代記録妖精』


『起動成功』


その言葉と同時に、映像の中の妖精が嬉しそうに飛び回る。


今のリリスと変わらない。


その光景に思わずミレイが笑った。


「昔からなんですね」


「うるさいです」


反射的に返す。


だが少し安心したようでもあった。


映像は続く。


フェルナーは毎日のように妖精へ話し掛けていた。


研究内容。


配合理論。


失敗談。


成功例。


全て。


妖精はそれを記録する。


忘れない。


失わない。


そして必要な時に思い出す。


それが記録妖精だった。


終号が補足する。



記録妖精


役割


研究補佐


知識保存


記録継承



つまり。


リリスは最初から研究施設の一部だった。


終号が施設なら。


リリスは記録そのものだった。


その時。


映像のフェルナーが真剣な顔になる。


『もし私が失敗した時』


『もし王喰が暴走した時』


『最後に止めるのは君だ』


中央広間が静まり返る。


リリスが息を止める。


フェルナーは続けた。


『終号は施設を守る』


『だが君は違う』


『君は未来を守る』


『だから覚えていてくれ』


その言葉が。


リリスの中へ流れ込む。


忘れていた記憶。


失われていた記録。


全てが戻ってくる。


王喰がなぜ自分を取り込もうとしたのか。


なぜ自分が王喰へ干渉できたのか。


全部繋がった。


王喰は完成した存在だった。


だから記録を必要としていた。


自分を維持するために。


自分を証明するために。


そしてリリスはその記録の管理者だった。


だから最後まで抵抗できた。


だから王喰は完全になれなかった。


映像のフェルナーは少しだけ笑う。


『未来の後継者へ』


『研究施設を残す』


『終号を残す』


『記録妖精を残す』


『だから後は任せた』


その瞬間だった。


映像が切り替わる。


フェルナーが最後に見ていた景色。


それは研究施設ではない。


忘れられた洞窟だった。


まだ弱い。


まだ小さい。


だが。


確かに存在していた。


『忘れられた洞窟は特別なダンジョンじゃない』


フェルナーが言う。


『最強でもない』


『最高でもない』


『ただ』


そこで少し笑った。


『可能性だけは無限だ』


アルベルトが静かに聞いている。


フェルナーはまるで未来を見ているようだった。


『いつか誰かがここへ来る』


『私より優秀な配合士が』


『私より多くの仲間を集める者が』


『私より正しい答えへ辿り着く者が』


そして。


最後の言葉。


『だから』


『忘れられた洞窟を頼む』


映像が消えた。


沈黙。


誰も喋らない。


長い沈黙だった。


最初に涙を流したのはリリスだった。


ぽろりと落ちる。


自分でも驚いている。


三十年以上前の人物だ。


会ったこともない。


それなのに。


胸の奥が苦しかった。


フェルナーは失敗した。


王喰も生み出した。


だが。


全部間違いだったわけじゃない。


終号を残した。


研究施設を残した。


そして。


リリスを残した。


それが今日まで繋がった。


アルベルトが立ち上がる。


そして。


終号へ向かって言った。


「引き継ぐ」


短い言葉だった。


だが十分だった。


終号が反応する。


青い光が広がる。



管理権限更新



研究施設継承完了



忘れられた洞窟


正式継承者


アルベルト



その表示を見て。


リリスはようやく笑った。


長かった。


本当に長かった。


王喰。


研究施設。


フェルナー。


そして自分自身。


全部終わった。


全部繋がった。


そして。


忘れられた洞窟は前へ進む。


もう誰かの遺産ではない。


もう誰かの失敗でもない。


アルベルト達のダンジョンとして。


新しい歴史を作るために。


その第一歩を踏み出したのだった。

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