第223話 忘れられた洞窟
フェルナー・アルトの記録が解放されてから数日後。
忘れられた洞窟はかつてないほど慌ただしかった。
王喰消滅。
研究施設完全継承。
地下都市解放。
終号の正式認証。
そしてフェルナーの名誉回復。
どれか一つでも世界を揺るがす出来事だ。
それが一度に起きた。
学園は連日大騒ぎになっていた。
ベルクは毎日のように報告書を書かされている。
ミレイは研究施設の調査で走り回っている。
学園長ですら何度も終号と通信を行っていた。
そして当の忘れられた洞窟はというと。
「キュウ!」
「そこは違います!」
「キュウ!」
「だから違います!」
相変わらずだった。
王冠宰相が地下都市から発掘した謎の金属塊を運び込み、リリスが必死に止めている。
夜狼王は呆れた顔で眺めていた。
影王は興味がない。
ヴァルグランは笑っている。
アダプト皇王は仕事を続けている。
いつも通りだった。
王喰を倒したからといって、忘れられた洞窟そのものが変わるわけではないらしい。
そんなある日。
終号が静かに通知を表示した。
⸻
学園本部通信
接続開始
⸻
中央広間が静まる。
全員が視線を向ける。
映像が広がる。
現れたのは学園長だった。
以前より少し疲れた顔をしている。
当然だろう。
王喰事件の後始末だけで大変な騒ぎだったはずだ。
学園長はしばらく忘れられた洞窟を見回した。
夜狼王。
影王。
ヴァルグラン。
アダプト皇王。
王冠宰相。
そしてアルベルト。
全員を確認してから、ゆっくり口を開く。
「まず礼を言おう」
静かな声だった。
「王喰事件を解決してくれたこと」
「フェルナー・アルトの真実を明らかにしてくれたこと」
「研究施設を守ってくれたこと」
その言葉にリリスは少しだけ目を伏せた。
三十年。
長かった。
フェルナーはようやく認められた。
失敗した研究者ではない。
世界を守った配合士として。
学園長は続ける。
「フェルナー・アルトの功績は正式に再評価される」
「研究施設は学園最高保護対象に指定する」
「終号も正式な学園遺産として認定する」
終号がわずかに光った。
喜んでいるのかは分からない。
だが反応はあった。
そして学園長は最後の資料を開く。
「さて」
少しだけ笑う。
「君達自身の話だ」
終号がランキングシステムへ接続する。
中央広間が静まる。
全員が画面を見る。
現在順位。
六百十一位。
そこから数字が動き始める。
五百位台。
四百位台。
三百位台。
リリスが息を呑む。
さらに上がる。
二百位台。
百位台。
そして。
数字が止まった。
⸻
忘れられた洞窟
⸻
現在順位
77位
⸻
沈黙。
誰もすぐには反応できなかった。
七十七位。
伝説級ではない。
一位でもない。
だが。
誰も笑わない。
むしろ全員が理解していた。
どれだけ異常な数字なのかを。
新人リーグ最下位付近。
スライム二匹。
魔物三匹。
そこから始まったダンジョンが。
今は世界七十七位。
歴代でも前例のない成長速度だった。
ベルクが苦笑する。
「本当にやりやがった」
ミレイも頷いた。
「十分すぎます」
夜狼王は順位表を見る。
その先にはまだ多くの名前が並んでいた。
五十位。
三十位。
十位。
そして一位。
遠い。
だが。
以前ほど遠くはない。
ヴァルグランが笑う。
「まだ上がいるじゃねぇか」
アダプト皇王も頷く。
「面白い」
影王は静かに言った。
「まだ終わらない」
全員の意見は同じだった。
王喰は終わった。
フェルナーの物語も終わった。
だが。
忘れられた洞窟は終わっていない。
ここは通過点だ。
ゴールではない。
その時だった。
「キュウ!」
全員が振り向く。
嫌な予感しかしない。
王冠宰相が走ってくる。
しかも宝箱を抱えている。
嫌な予感が倍増した。
「どこで見付けたんですか」
「キュウ!」
答えになっていない。
いつも通りだった。
リリスが近付く。
止める。
その前に。
もう一つの影が飛び出した。
ぷにだった。
「ぷにー!」
「あっ」
全員が固まる。
遅かった。
ぷにが宝箱へ突撃する。
勢いよく蓋が開く。
中身が飛び散る。
中央広間へ転がったのは。
見たことのない黒い結晶だった。
終号が反応する。
青い光が広がる。
数秒。
沈黙。
そして。
表示された。
⸻
未知素材確認
⸻
解析不能
⸻
研究価値
極大
⸻
中央広間が静まり返る。
アルベルトの目が輝く。
完全に輝く。
リリスが頭を抱える。
夜狼王がため息を吐く。
ヴァルグランが大笑いする。
アダプト皇王は呆れている。
影王は少しだけ笑った。
そして。
アルベルトが静かに言う。
「面白そうだな」
リリスは天井を見上げた。
「終わりませんね」
夜狼王が苦笑する。
「終わらんな」
誰も否定しなかった。
王喰は終わった。
だが。
忘れられた洞窟はまだ続いていく。
研究も。
配合も。
冒険も。
仲間達との騒がしい日々も。
ずっと。
これからも。
そうして。
最下位から始まった小さなダンジョンの物語は、新たな未来へ向かって歩き続けるのだった。
――完――




