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『最弱ダンジョンの配合士 ~誰も知らない配合で最強ダンジョンを目指します~』  作者: もかどら


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220/223

第220話 救い出す理由

王喰領域の崩壊は始まっていた。


だが、それは勝利を意味していなかった。


黒い核には無数の亀裂が走り、空間そのものが軋み続けている。それでも中心部に存在する圧力だけは少しも弱まらない。まるで世界そのものが「まだ終わっていない」と主張しているようだった。


アルベルトは夜狼王とリリスを見る。


二人は王喰の中心に固定されていた。


拘束されているわけではない。


閉じ込められているわけでもない。


もっと厄介だった。


王喰という存在を成立させるための部品として組み込まれている。


だからこそ王喰は完成していた。


夜狼王が持つ王候補としての資質。


リリスが持つ記録妖精としての管理能力。


その二つを核にして、王喰は自分自身を維持している。


フェルナー・アルトの言葉が頭をよぎる。


完成したから失敗した。


あの時は意味が分からなかった。


だが今なら理解できる。


王喰は強過ぎた。


あまりにも完成され過ぎていた。


だから変化しない。


だから成長しない。


だから仲間を必要としない。


王になるために必要なものを全て持ちながら、一番大切なものだけを持っていない。


その矛盾が、この怪物の本質だった。


王喰がゆっくりと脈動する。


それだけで周囲の景色が変わる。


崩れた研究施設が元へ戻る。


砕けた壁が再生する。


消えたはずの敵が再び現れる。


現実ではない。


記録だ。


王喰は自分に都合の良い過去を何度でも再生できる。


だから普通の戦いでは勝てない。


倒しても戻る。


壊しても再生する。


まるで世界そのものが相手をしているようだった。


ヴァルグランが苛立ったように拳を握る。


「だから嫌なんだよ、こういう敵は」


彼は再生した鉄槍将軍を粉砕した。


だが次の瞬間には別の場所で同じ個体が立ち上がる。


力では解決できない。


それが余計に腹立たしかった。


アダプト皇王も状況を分析し続けている。


環境支配を使い、王喰の構造へ干渉する。


だが完全には届かない。


王喰の完成度が高過ぎる。


ならば壊すべき場所は一つしかない。


中心だ。


夜狼王とリリスを取り戻す。


それが結果として王喰の崩壊に繋がる。


アルベルトは黒い結晶を握る。


フェルナーが残した最終権限鍵。


王喰が唯一恐れるもの。


なぜ恐れるのか。


理由は単純だった。


この結晶だけが王喰の外側に存在する。


王喰の記録に登録されていない。


だから干渉できない。


だから壊せない。


完成した構造にとって、理解できないものは最大の脅威だった。


その時だった。


夜狼王が顔を上げる。


苦しそうだった。


身体の半分以上が黒い光に覆われている。


それでも目だけはまだ消えていない。


「アルベルト」


声が届く。


かすれている。


今にも消えそうだった。


「時間がない」


アルベルトは頷く。


そんなことは分かっている。


だが夜狼王は首を振った。


「違う」


その言葉に全員が反応する。


夜狼王は王喰を見る。


そして静かに続けた。


「俺達を助けるな」


空気が凍る。


リリスも顔を上げた。


その目には涙が浮かんでいる。


「夜狼王!」


ミレイが叫ぶ。


だが夜狼王は笑った。


どこか吹っ切れたような顔だった。


「王喰を壊せ」


「それで終わるなら、それでいい」


その言葉は本心だった。


王喰が残れば世界が危険になる。


自分達二人より、そちらの方が重要だと理解している。


だからそう言った。


だが。


アルベルトは即答した。


「却下だ」


夜狼王が止まる。


アルベルトは迷わない。


「王喰も壊す」


「お前達も助ける」


「両方だ」


ヴァルグランが笑う。


アダプト皇王も小さく頷く。


影王は何も言わない。


だが立ち位置が変わる。


夜狼王へ近付く位置へ。


それだけで答えは十分だった。


誰も見捨てる気はない。


忘れられた洞窟はそういうダンジョンだった。


王喰が怒る。


空間が震える。


理解できないからだ。


完成しているなら選択肢は一つになる。


合理的な答えも一つになる。


なのに。


目の前の連中は違う。


無駄な選択をする。


危険な選択をする。


仲間を優先する。


理解できない。


だから怒る。


黒い波動が広がった。


ヴァルグランが吹き飛ぶ。


影王も弾かれる。


ミレイが倒れる。


アダプト皇王ですら後退した。


強い。


圧倒的だった。


これがフェルナー・アルトの最高傑作。


三十年前に生み出された怪物。


完成した王。


だが。


その時だった。


宝冠宰相が前へ出る。


誰も予想していなかった。


本人もたぶん分かっていない。


それでも歩く。


王喰へ向かって。


黒い結晶を抱えたまま。


王喰が止まる。


宝冠宰相も止まる。


そして。


黒い結晶を王喰へ向けて差し出した。


「キュウ!」


その瞬間だった。


王喰が初めて悲鳴を上げる。


世界が止まる。


空間が止まる。


再生も止まる。


王喰を構成していた記録が一瞬だけ固定された。


終号が反応する。


最終権限鍵発動。


強制停止命令。


王喰構造一時凍結。


アルベルトは叫んだ。


「今だ!」


全員が動く。


アダプト皇王が夜狼王へ走る。


影王が黒い鎖を切断する。


ミレイはリリスへ飛び付く。


王喰が抵抗する。


だが遅い。


完成した構造は変化に弱い。


想定外に弱い。


それがフェルナーの残した欠陥だった。


夜狼王の身体が引き剥がされる。


リリスも離れる。


王喰の核が揺らぐ。


統合率九十七%。


九十五%。


九十二%。


急激に下がる。


王喰が絶叫する。


世界が崩れる。


夜狼王が解放される。


リリスもミレイの腕の中へ落ちる。


二人は助かった。


確かに助かった。


だが。


王喰は消えない。


黒い核だけが残る。


小さくなりながらも。


確かに。


終号が静かに表示した。


王喰本体。


未消滅。


その文字を見ながらアルベルトは息を吐く。


夜狼王とリリスは取り戻した。


だが。


本当の決着はまだ終わっていない。


目の前に残る黒い核こそが。


三十年前から続く全ての元凶だった。

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