第204話 要塞の進化
鋼鉄迷宮との特別戦から翌日。
忘れられた洞窟の管理室には朝から全幹部が集まっていた。
理由はもちろん一つ。
鋼鉄騎士王である。
五百九十三位《鋼鉄迷宮》最強戦力。
英雄個体。
しかも防御特化。
今までの忘れられた洞窟には存在しない系統だった。
「で」
リリスが資料を見る。
「やるんですよね」
「やるな」
即答だった。
聞くまでもなかった。
◇
終号が表示を展開する。
鋼鉄騎士王。
ヴァルク。
成功率八十四%。
予測結果。
???
管理室が静まる。
まただ。
また読めない。
最近そればかりだった。
王候補。
特殊進化。
研究施設。
終号ですら先を読めない配合が増え始めている。
◇
だが。
今回は全員の反応が少し違った。
ヴァルク本人が乗り気だった。
「面白そうだ」
非常に単純だった。
元々森護兵将。
さらに岩牙守護将と融合して生まれた存在。
進化や配合への抵抗が少ない。
むしろ強くなれるなら歓迎だった。
◇
アダプトキングが資料を見る。
数秒。
そして頷いた。
「推奨」
「理由は?」
リリスが聞く。
アダプトキングは即答した。
「役割完成」
全員が納得する。
確かにそうだった。
ヴァルクは既に前衛として完成に近い。
さらに鋼鉄騎士王を加える。
そうなれば。
忘れられた洞窟最強の盾になる。
◇
その時だった。
王冠宰相が走ってくる。
「キュウ!」
嫌な予感しかしない。
最近の日課だった。
だが今回は少し違った。
宝箱。
しかも大きい。
◇
リリスが頭を抱える。
「どこからですか」
「キュウ!」
答えにならない。
いつも通りだった。
◇
宝箱が開く。
中から出てきたのは。
鉱石。
大量の鉱石。
しかも普通ではない。
終号が解析する。
数秒後。
全員が固まった。
⸻
鋼魔結晶
⸻
英雄級素材
⸻
中央広間が静まる。
アルベルトが見る。
ヴァルクが見る。
鋼鉄騎士王も見る。
◇
終号が追加表示を出す。
⸻
鋼鉄騎士王
進化補正素材
確認
⸻
成功率
84%
↓
91%
⸻
沈黙。
リリスが固まる。
「またですか」
王冠宰相が胸を張る。
完全に得意顔だった。
◇
アルベルトが笑う。
「やるか」
「やるな」
リリスも諦めた。
九十一%。
止める理由がない。
◇
数十分後。
中央広間。
配合陣が展開される。
ヴァルク。
鋼鉄騎士王。
二体が並ぶ。
どちらも巨大。
どちらも前衛。
どちらも軍団の壁。
忘れられた洞窟を支えてきた存在だった。
◇
終号が確認する。
⸻
上位特殊配合
実行
⸻
成功率91%
⸻
アルベルトが押す。
光が広がる。
眩しい。
今まで何度も見た。
だが。
毎回違う。
配合は同じ結果にならない。
だから面白い。
◇
光が膨らむ。
管理室全体を包む。
ヴァルクの姿が消える。
鋼鉄騎士王も消える。
そして。
終号が反応した。
⸻
大成功
⸻
中央広間が静まり返る。
リリスが固まる。
アダプトキングも見る。
夜狼王も立ち上がる。
◇
光が爆発した。
数十秒後。
収束。
そこに立っていた存在を見て。
全員が言葉を失った。
◇
巨大だった。
今までのヴァルクよりさらに大きい。
全身を覆う黒銀色の装甲。
四足。
しかし背中には要塞のような構造物。
巨大な角。
重厚な外殻。
まるで動く城だった。
◇
終号が表示する。
⸻
新種認定
⸻
個体名
要塞王ヴァルグラン
⸻
中央広間が静まる。
「長いですね」
リリスが呟く。
「長いな」
アルベルトも認めた。
だが。
強そうだった。
非常に。
◇
終号が能力を表示する。
⸻
戦闘適性:極高
防御適性:極高
統率適性:高
⸻
特殊能力
移動要塞
城壁展開
軍団防護
鋼鉄再生
⸻
全員が黙る。
強い。
説明不要だった。
◇
ヴァルグランが一歩踏み出す。
その瞬間。
周囲へ巨大な防壁が出現した。
リリスが飛び上がる。
「出ました!」
本人も少し驚いている。
無意識だったらしい。
◇
アダプトキングが即座に評価する。
「強い」
珍しく即答だった。
ヴァルグランは軍団戦特化。
防衛戦特化。
そして。
要塞そのものだった。
◇
その時。
終号が新しい通知を表示する。
⸻
順位更新
⸻
↓
542位
⸻
中央広間が静まる。
誰も戦っていない。
なのに順位が上がった。
◇
リリスが資料を見る。
数秒後。
理由を理解した。
「評価更新ですね」
終号が頷く。
新種。
大成功。
英雄融合。
その結果。
ダンジョン評価そのものが上昇した。
◇
アルベルトが順位表を見る。
五百四十二位。
もう六百位台ではない。
五百位前半。
下級リーグ最上位。
そして。
四百位台が見えてきていた。
◇
その時だった。
終号が新しい通知を出す。
⸻
緊急通知
⸻
特別戦招待
⸻
対象
487位
紅蓮火山
⸻
管理室が静まり返る。
五百位台を飛ばして。
四百位台。
中級リーグ目前。
◇
リリスがゆっくり顔を上げる。
「早くないですか」
「早いな」
アルベルトも認めた。
だが。
笑っていた。
要塞王ヴァルグランの誕生で、忘れられた洞窟はまた一段、厄介で頼もしい場所になった。
そして次の通知は、紅蓮火山を名乗っていた。
終号の赤い文字が、やけに熱く見えた。




