第203話 五百位台への門
特別戦当日。
忘れられた洞窟の中央広間には、珍しく緊張感が漂っていた。
相手は五百九十三位《鋼鉄迷宮》。
下級リーグ上位。
ここから先は新人リーグ時代のような相手ではない。
英雄個体を二体保有。
堅牢な防衛設備。
長年順位を維持し続ける実力派ダンジョン。
だが。
忘れられた洞窟側も以前とは別物だった。
夜狼王。
影王。
ヴァルク。
アダプトキング。
蒼天竜将。
王冠宰相。
三十年前の研究施設。
終号。
もはや弱小ダンジョンだった頃の面影はない。
「行くか」
アルベルトが言う。
全員が頷いた。
◇
転送門が開く。
今回の戦場は仮想戦場。
防衛側が選択した標準戦闘領域だった。
視界が切り替わる。
巨大な迷宮。
鋼鉄で出来た壁。
複雑な通路。
無数の監視塔。
そして中央にそびえる巨大要塞。
鋼鉄迷宮。
名前通りだった。
「面倒ですね」
リリスが呟く。
普通の軍団なら苦戦する。
侵入するだけでも時間がかかる。
だが。
忘れられた洞窟は普通ではない。
◇
アダプトキングが周囲を見る。
数秒。
それだけだった。
「右」
短く言う。
夜狼王が動く。
蒼天竜将も飛ぶ。
影王は既に消えている。
ヴァルクは笑った。
「簡単だな」
リリスが固まる。
まだ何もしていない。
だがアダプトキングは理解していた。
迷宮。
防衛設備。
監視塔。
全部囮だった。
本命は中央要塞。
指揮官を落とせば終わる。
◇
数分後。
夜狼王と蒼天竜将は上空を制圧していた。
敵飛行戦力。
飛行型ガーゴイル。
飛竜兵。
全滅。
圧倒的だった。
蒼天竜将が翼を振るう。
風刃が飛ぶ。
敵飛行部隊が吹き飛ぶ。
そこへ夜狼王が突撃する。
牙が閃く。
終わりだった。
上空制圧完了。
戦闘開始から十分も経っていない。
◇
地上ではヴァルクが暴れていた。
鋼鉄製の防衛門。
粉砕。
監視塔。
粉砕。
壁。
粉砕。
もはや攻略ではない。
災害だった。
鋼鉄迷宮側も必死に迎撃する。
大型守護獣。
鋼鉄巨兵。
次々投入される。
だが。
止まらない。
ヴァルクが殴る。
終わる。
それだけだった。
◇
そして。
中央要塞。
影王が到達する。
誰にも見つからない。
誰にも気付かれない。
守護兵。
監視兵。
全部無視。
影の中を進む。
数分後。
最奥部。
指揮室。
そこに英雄個体がいた。
巨大な騎士。
全身鋼鉄。
巨大な大剣。
終号が解析する。
⸻
鋼鉄騎士王
⸻
英雄個体
⸻
脅威度:高
⸻
影王が笑う。
珍しい。
そして。
次の瞬間。
戦闘が始まった。
◇
鋼鉄騎士王は強かった。
五百位台の英雄。
伊達ではない。
普通なら。
だが。
影王も普通ではなかった。
影支配。
影捕食。
暗殺特化。
研究施設が生み出した王属性個体。
正面から戦う必要すらない。
影から現れる。
攻撃。
消える。
また現れる。
鋼鉄騎士王が怒る。
だが当たらない。
そして。
三分後。
首筋に深い傷。
五分後。
膝をつく。
七分後。
首が落ちた。
決着。
◇
その瞬間。
鋼鉄迷宮全体へ通知が響く。
⸻
指揮官撃破
⸻
統率崩壊
⸻
夜狼王が笑う。
ヴァルクも笑う。
アダプトキングが指示を出す。
総攻撃。
残った敵軍が崩れる。
完全に終わった。
◇
戦闘開始から二十六分後。
鋼鉄迷宮ダンジョンコア破壊。
勝利。
終号が反応する。
⸻
特別戦勝利
⸻
順位更新中
⸻
管理室が静まり返る。
リリスが息を吐く。
今回は早かった。
本当に早かった。
強かった。
だが。
忘れられた洞窟の方がさらに強かった。
◇
通知が続く。
⸻
戦利契約発動
⸻
対象選択
⸻
鋼鉄騎士王
⸻
中央広間が静まる。
アルベルトが笑う。
英雄個体。
しかも防御型。
忘れられた洞窟に存在しない系統。
価値は大きい。
「決まりだな」
誰も反対しなかった。
◇
終号が最後の通知を表示する。
⸻
順位更新
611位
↓
563位
⸻
中央広間が静まり返る。
一気だった。
五百位台。
下級リーグ上位。
ついに到達した。
だが。
アルベルトの視線は順位ではない。
新たに契約した鋼鉄騎士王。
そして終号が表示した新しい配合候補だった。
⸻
鋼鉄騎士王
×
ヴァルク
⸻
成功率84%
⸻
予測結果
???
⸻
リリスが頭を抱える。
「やっぱりそうなりますよね」
当然だった。
忘れられた洞窟の快進撃は止まらない。
そして次の強化は、もう始まっていた。




