第202話 育成加速
第四記録の閲覧から三日後。
忘れられた洞窟は、かつてないほど活気に満ちていた。
理由は単純だった。
戦闘観測区画。
そこで解放された育成補助機能である。
終号によれば、この施設は元々「王候補の完成速度を高めるため」に作られていたらしい。研究者は何十年もかけて戦闘記録を蓄積し、その経験を効率よく育成へ反映させる方法を模索していた。
その成果が今、忘れられた洞窟で動き始めている。
中央広間には巨大な光の盤が展開されていた。
以前の進化陣とも配合陣とも違う。
戦闘観測区画から転送された育成補助装置。
その上で夜狼王と蒼天竜将が訓練を続けている。
二体が動くたび、床に浮かぶ紋様が淡く光る。
終号が経験値を解析し、成長効率を補正しているのだ。
「便利ですね」
リリスが呟く。
「便利だな」
アルベルトも認める。
研究者が残した施設の中でもかなり実用的だった。
◇
終号が現在の状態を表示する。
⸻
夜狼王
成熟度82%
↓
85%
⸻
蒼天竜将
成熟度71%
↓
75%
⸻
中央広間が少しざわつく。
三日。
たった三日。
普通ならほとんど変わらない期間だった。
だが。
育成補助機能は異常だった。
夜狼王も蒼天竜将も明らかに成長している。
◇
上空では夜狼王と蒼天竜将が模擬戦を続けていた。
最初は互角だった。
だが。
今は違う。
連携が生まれている。
夜狼王が急降下する。
蒼天竜将が回避する。
その直後。
互いの死角を潰すように位置を変える。
戦っている。
だが同時に学んでいる。
そして。
終号がその経験を育成へ反映している。
◇
「面白いですね」
アダプトキングが珍しく口を開いた。
「何がだ」
「敵だった頃より強い」
アルベルトも頷く。
蒼天竜将は忘れられた洞窟へ来てから急激に成長している。
以前は飛行戦力の指揮官だった。
今は違う。
夜狼王という比較対象がいる。
だから伸びる。
戦うたびに。
学ぶたびに。
強くなる。
◇
その頃。
影王も成長していた。
訓練場の端。
誰もいない場所。
影王は黙々と能力検証を続けている。
影支配。
進化後に得た能力。
最初は黒い手を出す程度だった。
だが今は違う。
地面の影が揺れる。
次の瞬間。
黒い狼が現れた。
影で出来た狼。
完全な実体ではない。
だが確かに存在している。
リリスが固まる。
「増えてません?」
「増えてるな」
影王も少し驚いていた。
無意識だったらしい。
◇
終号が反応する。
⸻
影支配
成長確認
⸻
影獣生成
習得
⸻
「便利ですね」
「便利だな」
また強くなっていた。
最近の忘れられた洞窟はそんなことばかりだった。
◇
その時。
王冠宰相が走ってくる。
全員が見る。
最近はこれだけで警戒される。
本人は不満そうだった。
「キュウ!」
だが今回は宝箱ではなかった。
資料だった。
古い羊皮紙。
終号が解析する。
数秒後。
新しい表示が現れる。
⸻
下級リーグ特別戦
招待状
⸻
中央広間が静まり返る。
アルベルトが立ち上がる。
リリスも見る。
特別戦。
久しぶりだった。
◇
終号が続ける。
⸻
対戦候補
593位
鋼鉄迷宮
⸻
中央広間が少しざわつく。
六百位台ではない。
五百位台。
さらに格上だった。
◇
ヴァルクが笑う。
「面白い」
夜狼王も目を細める。
アダプトキングも反対しない。
忘れられた洞窟は六百十一位。
普通なら断る。
だが。
今は違う。
◇
終号が追加情報を表示する。
⸻
保有英雄個体
二体
⸻
管理室が静まる。
二体。
かなり多い。
蒼穹の塔ですら一体だった。
つまり。
今までで最強の相手。
◇
だが。
アルベルトは笑っていた。
夜狼王も。
ヴァルクも。
影王も。
最近の忘れられた洞窟は強敵を見ると喜ぶようになっている。
リリスだけがため息を吐いた。
「普通は警戒するんですよ」
「している」
「全然そう見えません」
即答だった。
◇
終号が最後の表示を出す。
⸻
特別戦開始まで
五日
⸻
夜狼王成熟度
85%
⸻
蒼天竜将成熟度
75%
⸻
王候補融合計画
待機中
⸻
五日。
育成するには十分な時間だった。
忘れられた洞窟は再び動き出す。
次の相手は五百位台。
下級リーグ上位。
そしてその先には、中級リーグへの入口が見え始めていた。




