第201話 第四記録
蒼穹の塔との特別戦から二日後。
忘れられた洞窟は勝利の余韻に浸るどころか、過去最高レベルの忙しさを迎えていた。
理由は単純である。
蒼天竜将。
その存在が大きすぎた。
管理室の中央には終号が投影する大量の資料が並んでいる。蒼天竜将の能力解析、飛行戦術の分析、育成方針、そして新たに解放された配合候補一覧。
その数は百九十三件。
リリスは朝から頭を抱えていた。
「もう感覚がおかしいです」
「そうか?」
「おかしいです」
即答だった。
百九十三件。
普通の配合士なら一生分の研究対象である。
だがアルベルトは平然としていた。
その時、終号が新しい表示を出す。
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第四記録
閲覧可能
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戦闘観測区画
認証完了
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管理室の空気が変わった。
蒼天竜将の話は一旦後回しになる。
王喰。
研究者。
王候補。
三十年前の真実。
全てに繋がる記録が目の前にあった。
「行くぞ」
アルベルトが立ち上がる。
全員が続く。
◇
地下都市西区画。
戦闘観測区画。
研究施設のさらに奥に存在する巨大施設だった。
中へ入った瞬間、リリスは思わず息を呑む。
広い。
異様なほど広い。
壁一面に並ぶ無数の黒い結晶。
天井まで埋め尽くされている。
終号が説明する。
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戦闘観測記録
保存数
124871件
⸻
「頭がおかしいですね」
リリスが呟く。
「研究者らしい」
アダプトキングが答える。
実際その通りだった。
育成記録ではない。
戦闘記録だけで十二万件。
研究者は狂気的なまでに実戦データを集めていた。
◇
奥へ進む。
最深部。
一際巨大な黒い結晶があった。
第四記録。
終号が認証する。
青い光が広がる。
そして映像が始まった。
◇
研究者だった。
今まで見た映像より若い。
疲れていない。
希望に満ちている。
机の上には大量の資料。
王候補育成記録。
進化実験記録。
戦闘観察記録。
その中心にあるのは。
王喰計画。
研究者は静かに言った。
「王候補は完成した」
全員が映像を見る。
夜狼王も。
影王も。
ヴァルクも。
誰も動かない。
研究者は続けた。
「だが王候補では足りない」
映像が切り替わる。
狼。
飛竜。
大型獣。
複数の王候補達。
どれも強い。
どれも軍団を率いている。
どれも単独で英雄個体を超えている。
それでも研究者は首を振った。
「単独では限界がある」
◇
アルベルトの目が細くなる。
リリスも理解した。
これは進化ではない。
配合の話だ。
◇
研究者は資料を取り出した。
そこに書かれていた文字。
王候補融合計画。
中央広間が静まり返る。
研究者は静かに続ける。
「王喰は失敗ではない」
リリスが息を呑む。
「完成形でもない」
さらに空気が重くなる。
そして。
研究者は最後にこう言った。
「王喰は中継点だ」
映像が終わった。
誰も喋らない。
王喰ですら途中。
その先がある。
研究者はそう言い残した。
◇
その時だった。
終号が反応する。
⸻
王候補融合計画
解放
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対象候補
夜狼王
蒼天竜将
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成功率89%
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中央広間が静まり返る。
リリスはゆっくり画面を見る。
「やっぱり出ましたね」
「ああ」
蒼穹の塔から奪った英雄個体。
夜狼王。
研究者の理論。
全てが繋がった。
だが。
終号はさらに表示を続ける。
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個体成熟不足
⸻
夜狼王成熟度
82%
⸻
蒼天竜将成熟度
71%
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推奨
非実施
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全員が納得する。
前回と同じ数字だった。
まだ早い。
今やれば成功する可能性は高い。
だが最適ではない。
◇
その時。
リリスがふと蒼天竜将の資料を見る。
「そういえば」
「ん?」
「蒼天竜将だけ扱いが違いますね」
終号が反応する。
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蒼天竜将
実体契約済
⸻
白翼ハーピー
図鑑登録済
⸻
風刃イーグル
図鑑登録済
⸻
飛竜兵
図鑑登録済
⸻
アダプトキングが理解した。
「ああ」
「そういうことか」
リリスが説明する。
「倒しただけの魔物は図鑑登録です」
「育成はできません」
「配合研究には使えます」
アルベルトが頷く。
「実体はないのか」
「ありません」
そして蒼天竜将を見る。
「戦利契約した個体だけが本物です」
だから育成できる。
進化できる。
配合できる。
つまり。
蒼天竜将だけが特別だった。
◇
その時。
王冠宰相が走ってくる。
全員が見る。
最近は嫌な予感しかしない。
だが今回は違った。
宝箱ではない。
結晶だった。
終号が解析する。
数秒後。
新しい表示が現れる。
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戦闘観測区画報酬
解放
⸻
育成補助機能
使用可能
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個体成熟速度上昇
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中央広間が静まり返る。
そして全員が理解する。
第四記録の報酬は配合ではない。
育成だった。
夜狼王。
蒼天竜将。
影王。
アダプトキング。
全員を完成へ近付けるための施設。
つまり。
今やるべきことは決まっている。
育てる。
戦う。
成熟度を上げる。
そして。
その先で王候補融合計画を実行する。
アルベルトは夜狼王を見る。
夜狼王も静かに頷いた。
六百位台。
まだ上は遠い。
だが忘れられた洞窟は確実に進んでいる。
そして三十年前の研究者が辿り着けなかった場所へ。
あと一歩ずつ近付いていた。




