第200話 地下都市の戦闘観測区画
蒼穹の塔との特別戦から二日後。
忘れられた洞窟は勝利の余韻に浸る暇もなく、次の段階へ進んでいた。
順位は六百十一位。
卒業時の順位を知る者が見れば冗談だと思うだろう。
だが現実だった。
新人リーグ。
下級リーグ。
数々の強敵を越えた結果である。
しかし。
終号が表示する順位表を見た瞬間、その達成感は消えた。
「なるほど」
アルベルトが呟く。
「嫌な顔してますね」
リリスが言う。
「強いな」
視線の先には六百位台のダンジョンが並んでいた。
六百八位。
六百三位。
五百九十七位。
そして五百台後半。
どれも保有戦力が異常だった。
英雄個体。
王候補。
特殊進化体。
複数保有が当たり前になっている。
新人リーグの頃ならボス扱いだった個体が、今では幹部として並んでいる。
六百位台。
そこは下級リーグの上澄みだった。
◇
管理室では終号による解析会議が行われていた。
蒼天竜将の情報も追加されている。
巨大な飛行系英雄個体。
戦力として見ても破格だった。
夜狼王と並ぶ空の支配者。
問題は。
当然ながら。
配合だった。
◇
「駄目です」
リリスが先に言った。
アルベルトはまだ何も言っていない。
「まだ何も」
「顔です」
即答だった。
完全に読まれている。
◇
終号が表示する。
⸻
蒼天竜将
×
夜狼王
成功率89%
予測結果
???
⸻
相変わらずだった。
高すぎる成功率。
読めない結果。
危険な匂いしかしない。
だが。
今回だけはアルベルトもすぐには動かなかった。
終号の続きがあったからだ。
⸻
推奨
非実施
⸻
個体成熟不足
⸻
夜狼王成熟度
82%
⸻
蒼天竜将成熟度
71%
⸻
中央広間が静まる。
アダプトキングが頷いた。
「育成優先」
「そうだな」
今までの研究結果と一致する。
焦って配合するより。
育て切ってからの方が強い。
研究者も同じ結論へ辿り着いていた。
◇
その時だった。
王冠宰相が走ってくる。
最近の日課である。
全員が見る。
何を持ってきたのか。
宝箱か。
魔石か。
古代遺物か。
◇
結果。
地図だった。
◇
「キュウ!」
得意そうだった。
終号が解析する。
数秒後。
青い光が広がる。
⸻
地下都市未探索区域
発見
⸻
中央広間が静まる。
アルベルトが立ち上がる。
リリスも立ち上がる。
ミレイも反応した。
地下都市。
まだ終わっていなかった。
◇
表示された地図は地下都市のさらに西側だった。
今まで存在自体が確認されていない区域。
研究施設でもない。
保管庫でもない。
育成区画でもない。
全く別の施設。
◇
終号が表示する。
⸻
施設名
不明
⸻
閲覧権限不足
⸻
リリスが眉をひそめる。
まただった。
研究施設。
最終保管庫。
王喰。
最近は何かを調べる度に権限不足が出る。
そして。
大体ろくでもない物が眠っている。
◇
その時。
ミレイが地図を見る。
珍しく真剣な顔だった。
「見覚えがあります」
全員が止まる。
アルベルトも見る。
「知っているのか」
「学園資料です」
ミレイはゆっくり答える。
「名前は残っていません」
「ですが配置だけ一致しています」
中央広間が静まる。
学園資料。
つまり三十年前の研究者関連だった。
◇
ミレイは続ける。
「確か」
少し考える。
そして。
思い出した。
「戦闘観測区画です」
沈黙。
◇
アダプトキングが反応する。
ヴァルクも止まる。
夜狼王も見る。
戦闘。
その単語に全員が引っ掛かった。
◇
終号が追加表示を出した。
⸻
推定用途
⸻
高位個体戦闘実験
⸻
中央広間が凍り付く。
アルベルトだけが笑った。
嫌な笑顔だった。
◇
三十年前の研究者。
配合士。
王喰の開発者。
その男がわざわざ戦闘実験専用施設を作った。
何を戦わせていたのか。
何を観察していたのか。
想像するだけで危険だった。
◇
その時。
終号がさらに反応する。
新しい通知。
⸻
探索推奨
⸻
到達予想報酬
⸻
第四記録
⸻
全員が止まる。
第四記録。
王喰関連の続きだった。
三十年前の研究者。
最高傑作。
封印。
全てへ繋がる記録。
◇
アルベルトは地図を見る。
六百位台。
強敵。
ランキング戦。
やるべきことは多い。
だが。
研究施設も気になる。
非常に気になる。
◇
リリスが嫌な予感しかしなかった。
「言いたいことは分かります」
「そうか」
「探索しますよね」
「するな」
即答だった。
◇
ヴァルクが笑う。
夜狼王も苦笑する。
アダプトキングも頷く。
誰も止めない。
止まらない。
それが忘れられた洞窟だった。
六百位台へ到達した今でも。
やることは変わらない。
強くなる。
研究する。
未知へ進む。
そして。
地下都市のさらに奥。
三十年前の研究者が残した新たな施設へ向けて。
忘れられた洞窟は再び動き出すのだった。




