第199話 蒼穹陥落
蒼穹の塔との特別戦は、誰の目にも勝敗が見え始めていた。
第二防衛線を突破した侵攻軍は確かに強かった。飛行部隊は高い練度を誇り、蒼天竜将は今まで戦った飛行系魔物の中でも間違いなく最強格だった。普通の六百位台ダンジョンなら、とっくに防衛線を突破されていただろう。
だが、ここは忘れられた洞窟だった。
研究施設。
地下都市。
百を超える罠。
そして王候補達。
積み重ねてきた全てが蒼穹の塔を削り続けていた。
戦場上空では夜狼王と蒼天竜将が激しくぶつかり合っている。蒼天竜将の風刃が空を切り裂き、夜狼王の黒い翼がそれを回避する。互いに傷付きながらも譲らない。だがその戦いを見ながら、アダプトキングは静かに確信していた。
もう終わる。
理由は単純だった。
蒼穹の塔の強さは蒼天竜将と指揮官によって成立している。
その指揮官が今、影王に追い詰められていた。
蒼穹の塔指揮官も優秀だった。五百位台まで上り詰めた実力者である。影王の襲撃を一度ならず二度、三度と凌いできた。しかし影王は焦らない。正面から戦う必要がないからだ。
影へ潜る。
現れる。
傷を与える。
消える。
それを繰り返す。
気付けば指揮官の周囲から護衛が消えていた。飛行部隊は夜狼王への対応に追われ、地上部隊はヴァルクに押し潰されている。
孤立。
それが決定打だった。
指揮官が振り返った時には、既に影王は背後にいた。
赤い瞳。
黒い爪。
そして一閃。
深く刻まれた傷と共に、蒼穹の塔の指揮官が膝をつく。
その瞬間だった。
蒼穹の塔全軍の動きが鈍る。
僅か一瞬。
だが王候補達にとっては十分過ぎる隙だった。
夜狼王が吠える。
黒い翼が広がる。
蒼天竜将へ向けて一直線に加速した。
蒼天竜将も迎え撃つ。風圧が爆発し、空そのものが揺れる。巨大な爪が夜狼王へ迫る。だが夜狼王は止まらない。
噛み付く。
押し込む。
蒼天竜将の体勢が崩れる。
そして。
その死角。
影が揺れた。
影王だった。
完全な連携。
夜狼王が正面から抑え、影王が死角から襲う。
蒼天竜将が反応した時には遅かった。
黒い爪が翼の付け根を切り裂く。
鮮血。
悲鳴。
体勢崩壊。
夜狼王はその瞬間を逃さなかった。
首元へ牙を突き立てる。
蒼天竜将が暴れる。
空中で激しくのたうつ。
それでも離さない。
最後に響いたのは骨の砕ける音だった。
巨大な飛竜が落下する。
地面が揺れる。
土煙が舞う。
そして。
蒼穹の塔最強戦力、蒼天竜将は動かなくなった。
沈黙。
戦場全体が止まった。
飛行部隊が空中で固まる。
地上部隊も武器を下ろす。
指揮官は戦闘不能。
蒼天竜将は討伐。
もう続ける意味がなかった。
数秒後、終号が反応する。
⸻
特別戦勝利
蒼穹の塔降伏確認
⸻
忘れられた洞窟
順位更新対象
⸻
中央広間に歓声が広がった。
ヴァルクが豪快に笑う。
アダプトキングも満足そうに頷く。
夜狼王は蒼天竜将を見下ろしながら静かに息を吐いた。
強敵だった。
だからこそ価値がある。
その時、終号が再び光る。
全員の視線が集まる。
⸻
戦利契約権発生
⸻
取得対象選択
⸻
候補一覧表示
⸻
蒼天竜将
白翼ハーピー
風刃イーグル
飛竜兵
⸻
リリスが即座に言った。
「蒼天竜将ですよね」
「蒼天竜将だな」
全会一致だった。
異論はない。
五百位台ダンジョンの英雄個体。
飛行戦力の頂点。
これを逃す理由がない。
アルベルトが選択する。
光。
契約成立。
終号が表示する。
⸻
蒼天竜将
登録完了
⸻
忘れられた洞窟所属
⸻
中央広間が沸く。
夜狼王も少しだけ笑った。
倒した相手が仲間になる。
ダンジョン戦最大の報酬だった。
だが。
終わりではなかった。
登録完了と同時に終号が異常反応を示す。
青い画面が次々と更新される。
⸻
新規配合候補
更新
⸻
37件追加
⸻
さらに。
もう一つ。
全員が固まる表示が現れる。
⸻
蒼天竜将
×
夜狼王
⸻
成功率89%
⸻
予測結果
???
⸻
中央広間が静まり返る。
夜狼王。
蒼天竜将。
王候補と英雄個体。
終号ですら進化先を読めない。
それなのに成功率だけは異常に高い。
アルベルトの目が輝く。
リリスが即座に察した。
「駄目です」
「まだ何も言ってない」
「顔です」
完全に研究者の顔だった。
その時、終号が最後の通知を表示する。
⸻
順位更新
662位
↓
611位
⸻
忘れられた洞窟
下級リーグ上位到達
⸻
中央広間が静まる。
六百位台前半。
ついにここまで来た。
最下位付近から始まった忘れられた洞窟は、今や中級リーグの入口が見える位置まで到達していた。
だがアルベルトの視線は順位表ではなく、新しく増えた配合候補へ向いていた。
リリスは深いため息を吐く。
蒼穹の塔との戦いは終わった。
しかし忘れられた洞窟に休息はない。
強敵を倒した。
素材を得た。
なら次は強化である。
忘れられた洞窟の快進撃は、まだ止まりそうになかった。




