第198話 第二防衛線突破
蒼穹の塔の侵攻部隊が第二防衛線へ到達した頃には、戦場の様子は当初の想定とは大きく変わっていた。
忘れられた洞窟側の被害は軽微。
対して蒼穹の塔は飛行部隊の三割近くを失っている。
それでも侵攻は止まらなかった。
五百位台まで上り詰めたダンジョンが、この程度で崩れるはずがない。
むしろここからだった。
蒼天竜将が上空で大きく翼を広げる。その動きに合わせるように残存飛行部隊が再編成された。分断されても崩れない。被害を受けても立て直す。その統率力は今まで戦ったどの相手よりも優秀だった。
「流石ですね」
リリスが感心する。
「強いな」
アルベルトも認めた。
夜狼王と戦いながら全軍を維持している。単純な戦闘能力だけではない。指揮官としても一流だった。
だが、その優秀さこそが蒼穹の塔最大の弱点でもあった。
アダプトキングは終始冷静だった。
敵軍の動き。
飛行ルート。
部隊配置。
全てを観察している。
そして既に結論を出していた。
「指揮官依存率が高い」
ヴァルクが笑う。
「つまりいつも通りか」
「ああ」
答えは単純だった。
落とすべき相手は最初から決まっている。
その頃、影王は既に蒼穹の塔軍の奥深くへ侵入していた。
飛行部隊の影。
崩れた岩壁の影。
味方の影。
戦場そのものが影王の領域だった。
誰も気付かない。
気付けない。
それが影王だった。
蒼穹の塔の指揮官もまた優秀だった。第二防衛線の突破を最優先に判断し、地下都市側へ主力を集中させている。崩落罠を突破し、拘束網を切り裂き、睡眠ガス区域も迂回した。
「罠だけじゃ止まらんな」
アルベルトが呟く。
実際その通りだった。
罠は効いている。
だが決定打ではない。
罠への対応能力も高い。
だからこそ忘れられた洞窟は罠だけに頼らない。
第二防衛線の先には夜狼王がいる。
ヴァルクがいる。
影王がいる。
そしてアダプトキングがいる。
蒼穹の塔の主力飛竜兵が地下都市入口へ到達した瞬間、巨大な影が通路を塞いだ。
ヴァルクだった。
飛竜兵達が一斉に突撃する。
重装甲。
大型槍。
正面突破。
理想的な突撃だった。
だが相手が悪い。
ヴァルクは避けない。
受ける。
止める。
そして殴る。
轟音と共に先頭の飛竜兵が吹き飛び、後続を巻き込んで転がった。
通路が狭い。
それが仇になった。
後ろの部隊は前へ出られない。
前の部隊は退けない。
そこへ崩落罠が発動する。
さらに混乱が広がる。
「嫌な場所ですね」
リリスが苦笑した。
「そう作った」
アルベルトは真顔だった。
その頃、上空では夜狼王と蒼天竜将の戦いが激化していた。
蒼天竜将は強い。
間違いなく今まで戦った飛行系最強クラスだった。
だが夜狼王も成長している。
王候補。
研究施設育成。
共鳴進化。
積み重ねてきた全てが今の力になっていた。
互いに傷付きながらも決定打を与えられない。
そんな均衡状態が続く。
そしてその均衡を崩したのは、戦場のど真ん中で戦う二体ではなかった。
影王だった。
蒼穹の塔指揮官の背後。
数メートル。
そこまで接近していた。
影王は焦らない。
機会を待つ。
王喰の記録。
暗殺者としての本能。
全てがそう告げていた。
一撃で終わらせろ。
蒼穹の塔の指揮官は優秀だった。
だからこそ異変に気付く。
何かがおかしい。
夜狼王もヴァルクも強い。
だが本当に危険なのは別にいる。
そんな直感が背筋を走った。
振り返る。
そして。
赤い瞳と目が合った。
影王。
蒼穹の塔指揮官の表情が凍り付く。
遅かった。
影が揺れる。
爪が閃く。
一撃。
完全な死角からの攻撃だった。
指揮官は咄嗟に防御する。
流石だった。
だが。
防ぎ切れない。
深い傷が刻まれる。
鮮血が舞う。
「敵襲!」
叫び声が響いた。
飛行部隊が反応する。
護衛が動く。
だが影王は既にいない。
再び影へ沈んでいた。
アダプトキングが小さく笑う。
「入ったな」
リリスも頷く。
蒼穹の塔はまだ負けていない。
だが。
戦場は確実に動いた。
指揮官が傷付いた。
蒼天竜将の統率に僅かな乱れが生じる。
飛行部隊の連携も鈍る。
忘れられた洞窟が待っていた瞬間だった。
夜狼王が翼を広げる。
ヴァルクが前へ出る。
影王が再び消える。
そしてアダプトキングが静かに命令を下した。
「総攻撃」
忘れられた洞窟最強戦力が、一斉に牙を剥いた。




