第197話 蒼穹の塔の反撃
蒼穹の塔の侵攻部隊は確かに被害を受けていた。
白翼ハーピー部隊は拘束。
風刃イーグル部隊は分断。
飛竜兵も数を減らしている。
普通のダンジョンなら、この時点で戦線は崩壊していた。
だが。
蒼穹の塔はそこまで甘くない。
上空。
蒼天竜将が大きく翼を広げる。
咆哮。
空気が震える。
次の瞬間だった。
散らばっていた飛行部隊が一斉に高度を上げる。
忘れられた洞窟の罠を避けるように。
いや。
理解したのだ。
このダンジョンは通路を進むほど危険だと。
「対応してきましたね」
リリスが映像を見ながら呟く。
「当然だな」
アルベルトも頷いた。
むしろ安心していた。
五百位台なら、この程度で崩れる方がおかしい。
◇
その時。
終号が警告を出す。
⸻
上空高魔力反応
⸻
広域術式展開中
⸻
中央広間が静まる。
アダプトキングが即座に反応した。
「来る」
次の瞬間だった。
忘れられた洞窟上空。
巨大な魔法陣が出現する。
青白い光。
そして。
無数の風刃。
◇
リリスが目を見開く。
「広域攻撃!」
蒼穹の塔は飛行戦力だけではなかった。
空から地上を制圧するための術式を持っていた。
数百。
いや。
千近い風刃が降り注ぐ。
研究施設。
地下都市入口。
防衛設備。
全てをまとめて破壊するつもりだった。
◇
しかし。
そこで終わらない。
忘れられた洞窟にも研究施設がある。
終号が即座に反応する。
⸻
防衛結界起動
⸻
中央広間全体が震えた。
研究施設の外壁。
地下都市入口。
各所に刻まれた魔法陣が光る。
三十年前の研究施設。
その防衛機能だった。
風刃が降り注ぐ。
結界が受け止める。
轟音。
衝撃。
だが。
耐えた。
◇
「残ってたんですね」
リリスが驚く。
「研究施設だからな」
アルベルトも少し感心していた。
三十年前の設備。
それでもまだ動く。
異常だった。
◇
その頃。
蒼穹の塔側も驚いていた。
風刃が通らない。
研究施設が壊れない。
想定外だった。
「本当に研究施設を持っているのか」
蒼穹の塔の指揮官が眉をひそめる。
情報はあった。
だが半信半疑だった。
六百位台のダンジョンがそんな物を持っているはずがない。
普通なら。
◇
その時。
別働隊が動いていた。
飛竜兵部隊。
正面突破をやめた部隊である。
彼らは研究施設ではなく地下都市へ向かっていた。
そして。
すぐに止まる。
◇
目の前には巨大な扉。
左右には防衛砲台。
さらに天井には監視結晶。
完全に要塞だった。
「ここもか」
飛竜兵達が固まる。
忘れられた洞窟はただの洞窟ではない。
地下都市。
研究施設。
複数の遺産。
もはや一つの都市国家だった。
◇
その瞬間。
ガコン。
嫌な音が響く。
飛竜兵達が上を見る。
遅かった。
天井が開く。
大量の岩。
崩落。
轟音。
◇
中央広間。
リリスが顔を覆う。
「またですか」
「まただな」
アルベルトも否定しない。
だが。
今度は違った。
◇
飛竜兵達は崩落を避けた。
数体が回避。
数体が防御。
対応が早い。
六百位台の相手なら終わっていた。
だが五百位台は違う。
訓練されている。
経験もある。
罠を突破する力があった。
◇
「良いですね」
アルベルトが言う。
リリスが止まる。
「何がですか」
「ちゃんと強い」
完全に研究者の顔だった。
◇
そして。
戦場はさらに激しくなる。
夜狼王と蒼天竜将。
空の王同士の戦い。
ヴァルクと重装飛竜兵。
力と力の衝突。
そして。
影王。
◇
蒼穹の塔指揮官。
その背後。
影が揺れる。
誰も気付かない。
影王だけが笑った。
ここまで来れば十分だった。
罠。
戦闘。
防衛設備。
全ては囮。
本命は最初から変わらない。
指揮官。
それを落とせば戦場は崩れる。
◇
一方。
蒼穹の塔の指揮官も忘れられた洞窟を分析していた。
罠が多い。
防衛設備が多い。
研究施設がある。
だが。
一つだけ。
違和感があった。
「なぜ攻めてこない」
普通なら主力を投入する。
夜狼王。
ヴァルク。
影王。
もっと前へ出してくるはずだ。
それなのに。
何かを待っている。
◇
その直後だった。
終号が新しい通知を出す。
⸻
侵入確認
⸻
第二防衛線到達
⸻
中央広間が静まる。
アルベルトが小さく笑った。
「ようやくだな」
リリスが嫌な予感を覚える。
第二防衛線。
昨日一日かけて作った場所だった。
百三十二の罠。
その本命。
忘れられた洞窟最大の歓迎会が。
これから始まろうとしていた。




