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『最弱ダンジョンの配合士 ~誰も知らない配合で最強ダンジョンを目指します~』  作者: もかどら


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第15話 崩れ落ちる天井

ミシッ――。


岩柱から響いた不吉な音は、一度では終わらなかった。


ミシッ。


ミシミシッ。


長年の採掘によって削られ続けた支柱が悲鳴を上げる。


アダプトゴブリンの一撃は決定打だった。


巨大な岩柱がゆっくりと傾き始める。


その様子を見た瞬間、敵軍の動きが止まった。


指揮官コボルトも。


ゴブリンたちも。


採掘ゴブリンたちも。


全員が頭上を見上げる。


理解したのだ。


何が起ころうとしているのかを。


「ギャウッ!?」


指揮官コボルトが慌てて叫ぶ。


群れへ指示を飛ばしているらしい。


だが遅い。


あまりにも遅かった。


岩柱はすでに限界を迎えていた。


轟音と共に根元が砕け散る。


そして。


巨大な支柱が敵軍の中心へ向かって倒れ始めた。


「うわぁぁぁぁ!?」


空中から見ていたリリスが悲鳴を上げる。


思った以上だった。


想像以上だった。


アルベルトの作戦はいつも規模がおかしい。


敵を倒すために岩柱を倒す発想がまず普通ではない。


そして実際に成功しそうなのがもっと怖い。


ゴゴゴゴゴゴ――!!


岩柱が倒れる。


敵軍が逃げる。


悲鳴が響く。


しかし採掘場の中央に密集していたせいで逃げ場がない。


指揮官コボルトが必死に部下を誘導する。


それ自体は正しい判断だった。


だが。


アルベルトはそこまで計算していた。


「アダプトゴブリン」


静かな声。


エースは即座に反応する。


倒れ始めた岩柱から離れながら、逃げようとする敵を通路側へ追い込んだ。


狭い。


逃げられない。


押し合う。


転ぶ。


混乱する。


そして。


轟音。


巨大な岩柱が地面へ叩きつけられた。


地面が揺れる。


岩が砕ける。


土煙が舞う。


天井の一部まで崩れ始めた。


落盤。


本格的な落盤だった。


「うわぁぁぁぁ!」


リリスが慌てて高度を上げる。


岩が飛ぶ。


砂が舞う。


視界が真っ白になる。


数秒後。


ようやく揺れが収まった。


静寂。


洞窟に広がるのは崩落音の余韻だけだった。


「終わった……?」


リリスが恐る恐る地上へ降りる。


土煙が少しずつ晴れていく。


そして見えた。


敵軍のいた場所。


そこは完全に瓦礫の山になっていた。


「うわ……」


思わず声が漏れる。


さっきまで二十体以上いた敵がほとんど見当たらない。


岩の下敷きになったのだろう。


凄まじい威力だった。


アルベルトは静かに状況を確認する。


敵の数。


生存者。


逃走経路。


いつものように観察を始めていた。


「どうです?」


リリスが尋ねる。


「かなり減った」


「かなりって?」


「半分以上」


リリスは目を丸くした。


それはもう大戦果だった。


数的不利を一気に覆したことになる。


しかし。


アルベルトはまだ油断していない。


視線を瓦礫の奥へ向ける。


そして。


「いたか」


小さく呟いた。


瓦礫が動く。


その下から一体の影が現れた。


指揮官コボルト。


全身傷だらけだった。


片腕から血を流している。


だが生きている。


しかも。


その周囲には数匹のコボルトとゴブリンが残っていた。


「しぶといですね……」


リリスが顔をしかめる。


アルベルトはむしろ納得していた。


群れの長が簡単に死ぬようならここまで順位を維持できない。


あれもまた生き残る側の魔物だ。


その時だった。


指揮官コボルトがこちらを睨む。


明確な敵意。


憎悪。


怒り。


そして。


腰の短剣を抜いた。


「まずいですね」


リリスが言う。


「ああ」


「怒ってます」


「そうだな」


「すごく怒ってます」


「だろうな」


アルベルトは冷静だった。


原因が分かっているからだ。


自分が岩柱を倒した。


怒らない方がおかしい。


「でも勝てそうですね!」


リリスが少し明るい声を出す。


敵は残り数匹。


こちらにはアダプトゴブリンがいる。


形勢は逆転した。


そう思えた。


だが。


アルベルトは首を横に振る。


「いや」


「え?」


「まだ終わっていない」


リリスは首を傾げる。


何を言っているのだろう。


どう見ても有利だ。


その時だった。


アダプトゴブリンが低く唸る。


警戒。


敵を見つけた時の反応。


しかし前方には指揮官コボルトしかいない。


なら。


どこを見ているのか。


アルベルトも視線を動かす。


そして。


気付いた。


瓦礫の奥。


崩れた採掘場のさらに向こう。


暗闇の中から何かが現れている。


巨大な影。


コボルトではない。


ゴブリンでもない。


二メートルを超える巨体。


岩のような灰色の皮膚。


太い腕。


異常な存在感。


「……なるほど」


アルベルトが静かに呟く。


敵の切り札か。


採掘型ダンジョンだから油断していた。


しかし考えてみれば当然だった。


ランキング九百九十七位。


自分たちより上。


それなりの戦力を持っていておかしくない。


リリスもようやくその影に気付く。


そして。


固まった。


「え?」


影が前へ出る。


その姿が明らかになる。


巨大な岩石のような身体。


鈍重そうな見た目。


しかし圧倒的な重量感。


そして。


頭上には鉄のつるはし。


まるで採掘のためだけに生まれた怪物だった。


「オ、オーガ……?」


震える声でリリスが呟く。


アルベルトは首を横に振った。


違う。


少しだけ違う。


学園で見た資料を思い出す。


そして答えに辿り着いた。


「いや」


静かな声。


「ロックオーガだ」


その名前を聞いた瞬間。


リリスの顔から血の気が引いた。


ゴブリンやコボルトとは格が違う。


下位ダンジョンではエース級。


場合によってはダンジョンの主を務めることすらある魔物だった。


そして。


ロックオーガはゆっくりとつるはしを持ち上げる。


ランキング戦。


最後の戦いが始まろうとしていた。

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