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『最弱ダンジョンの配合士 ~誰も知らない配合で最強ダンジョンを目指します~』  作者: もかどら


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第14話 落盤作戦

アルベルトの視線は、敵軍ではなく天井近くまで伸びる巨大な岩柱へ向けられていた。


採掘場の中央に立つその岩柱は、長い年月をかけて削られてきたのだろう。


表面には無数の傷が刻まれている。


特に根元付近は不自然なほど細くなっていた。


そして。


そこには大きな亀裂が走っている。


普通なら気にも留めない。


しかしアルベルトは違った。


学園時代からずっとそうだった。


戦闘は苦手。


実技も平均以下。


だが観察だけは誰よりもしていた。


魔物の生態。


骨格。


筋肉の付き方。


行動パターン。


そして環境。


目に映る情報を集め、組み立て、答えを導く。


それが彼のやり方だった。


「アルベルトさん」


隣でリリスが不安そうな声を出す。


「何だ」


「確認します」


「うむ」


「岩柱を見てますよね?」


「見ている」


「嫌な予感しかしません」


アルベルトは少しだけ笑った。


図星だった。


その反応だけでリリスの胃が痛くなる。


アダプトゴブリンは今も通路を守っている。


狭い通路のおかげで敵の数は活かされない。


一匹ずつ飛び込んでくるコボルトやゴブリンを次々と叩き返していた。


強い。


間違いなく強い。


しかし。


このままでは消耗戦になる。


敵は二十体以上。


こちらは四体。


いや、実質的な戦力はアダプトゴブリンとリリスだけだ。


長引けば不利になる。


だからこそ。


数を減らす必要があった。


一気に。


「リリス」


「はい」


「飛べるな」


リリスが嫌な顔をした。


嫌な予感がさらに強くなった。


「飛べますけど」


「岩柱の上まで行けるか?」


「行けますけど」


「よし」


「よくありません」


即答だった。


アルベルトは気にしない。


慣れている。


「作戦を説明する」


「聞きたくないです」


「聞け」


「横暴です!」


リリスの抗議を無視し、アルベルトは地面へ簡単な図を描いた。


敵軍。


岩柱。


通路。


そして現在位置。


「敵の指揮官はあのコボルトだ」


「そうですね」


「なら倒す」


「それは分かります」


「正面突破は無理だ」


「それも分かります」


「だから上から潰す」


沈黙。


数秒。


リリスはゆっくり顔を上げた。


「上から潰す?」


「そうだ」


「何を?」


「岩柱で」


やっぱり。


リリスは思った。


やっぱりろくでもない。


「落盤を起こすんですか!?」


「その予定だ」


「予定じゃありません!」


思わず叫ぶ。


だがアルベルトは真面目だった。


本気だった。


敵軍のほとんどは岩柱の近くに集まっている。


指揮官もいる。


もし崩せば。


大打撃を与えられる。


理屈は分かる。


分かるのだが。


「そんな簡単に崩れます?」


アルベルトは岩柱を見上げた。


そして確信を持って答える。


「崩れる」


「何でです?」


「削りすぎだ」


リリスも改めて観察する。


確かに細い。


異様なほど細い。


採掘のために削ったのだろう。


本来なら支えになる部分まで。


「採掘型ダンジョンらしい失敗だな」


アルベルトが呟く。


資源を優先しすぎた結果。


支柱まで弱くなった。


「でも誰が壊すんです?」


「アダプトゴブリン」


リリスは通路を見る。


今も敵を殴り飛ばしている。


確かに可能かもしれない。


あの怪力なら。


「問題は時間だ」


アルベルトが言う。


敵も馬鹿ではない。


途中で気付く可能性がある。


だから一瞬で決める必要があった。


その時だった。


ドゴン!


大きな音が響く。


アダプトゴブリンがまた一匹吹き飛ばしたのだ。


すでに十匹近く倒している。


敵の勢いも少し鈍ってきていた。


だが。


指揮官コボルトは冷静だった。


後方から的確に指示を飛ばしている。


だから群れが崩れない。


「やはりあいつが厄介だな」


アルベルトは目を細める。


すると。


リリスが小さく息を吐いた。


諦めた顔だった。


「分かりました」


「何がだ」


「やればいいんでしょう」


アルベルトが少し驚く。


意外だった。


「協力してくれるのか」


「ここで負けたら閉鎖なんですよね?」


「ああ」


「だったらやるしかないじゃないですか」


そう言って翼を広げる。


黒い翼が洞窟の空気を揺らした。


サキュバスらしい美しい姿だった。


もっとも本人は全く乗り気ではない。


「危なくなったら逃げますからね」


「任せる」


「軽い!」


リリスは文句を言いながら飛び上がった。


ふわりと宙へ浮かぶ。


敵軍の視線が一斉に向く。


当然だ。


突然空からサキュバスが現れたのだから。


「こっちですよー!」


リリスが叫ぶ。


そして魔力を放つ。


淡い紫色の光。


魅了魔法。


完全な支配はできない。


だが注意を引くことはできる。


敵の視線が空へ向いた。


指揮官コボルトも。


今だ。


アルベルトは叫んだ。


「アダプトゴブリン!」


エースが振り返る。


「岩柱だ!」


アダプトゴブリンの目が輝いた。


意味を理解したらしい。


次の瞬間。


地面を蹴る。


敵の包囲を強引に突破し、岩柱へ向かって突進する。


指揮官コボルトが慌てて叫ぶ。


だが遅い。


アダプトゴブリンは巨大な拳を握り締めた。


そして。


岩柱の根元へ全力で叩き込む。


轟音。


岩が砕ける音。


洞窟全体が震える。


亀裂が走る。


一本。


二本。


三本。


そして。


ミシッ――。


不吉な音が響いた。


アルベルトは静かに呟く。


「いける」


リリスは空中で青ざめた。


「私まだ近くにいるんですけど!?」


次の瞬間。


巨大な岩柱がゆっくりと傾き始めた。

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