第105話 第三因子の正体
管理者私室。
隠し部屋。
そして。
第三因子研究録。
アルベルト達は机を囲むように座っていた。
目の前には三十年前の研究者が残した本。
今まで発見した資料の中でも明らかに格が違う。
配合理論。
育成理論。
進化理論。
それらとは別次元の扱いを受けている。
「開きますか」
リリスが聞く。
「開く」
即答だった。
むしろ開かない理由がない。
アルベルトは慎重に表紙を開いた。
最初のページ。
そこには大きな文字でこう書かれていた。
『多くの配合士は勘違いしている』
全員が読み進める。
『二体配合は完成形ではない』
『始まりに過ぎない』
リリスが息を呑む。
世界中の配合士が行っているのは二体配合だ。
それが常識だった。
研究者はその常識を否定している。
さらにページをめくる。
『魔物には三つの要素が存在する』
『種族』
『経験』
『可能性』
アルベルトの目が止まる。
可能性。
聞き慣れない言葉だった。
研究録は続く。
『種族は親から受け継がれる』
『経験は成長で蓄積される』
『可能性だけは別だ』
『個体ごとに異なる』
『誰にも見えない』
沈黙。
アルベルトは自然と配合眼を思い出していた。
最近表示されるようになった第三因子。
あれと関係している。
そんな予感がした。
さらに読み進める。
『私はこれを第三因子と名付けた』
リリスが小さく声を漏らす。
やはりそうだった。
第三因子。
研究者自身が付けた名前だったのである。
『第三因子は才能である』
『運命である』
『個性である』
『進化の方向性そのものだ』
研究録には様々な例が載っていた。
同じ種族。
同じ環境。
同じ育成。
それでも結果が違う。
ある個体は戦士になる。
ある個体は指揮官になる。
ある個体は特殊能力を得る。
その差を生み出しているのが第三因子だった。
「なるほど」
アルベルトが呟く。
ようやく理解できた。
森護兵将。
夜宝守。
異常成功個体達。
あれらは偶然ではない。
第三因子が強く作用した結果だったのだ。
その時だった。
リリスがあるページで手を止める。
「これ」
全員が覗き込む。
そこには研究者の手書きメモが残されていた。
『第三因子は希少個体ほど強い』
『特に幸運系は危険』
沈黙。
全員の視線が動く。
ゆっくり。
非常にゆっくり。
一方向へ向かう。
ぷにだった。
「ぷに?」
本人は首を傾げる。
何も分かっていない。
だが全員同じことを考えていた。
壁を壊す。
隠し部屋を見付ける。
進化率が異常に伸びる。
大成功の直前に現れる。
偶然にしては出来過ぎている。
アダプトロードが呟いた。
「幸運」
「幸運ですね」
「幸運だな」
全会一致だった。
ぷには得意げに胸を張る。
何も分かっていないが褒められている気はするらしい。
その時。
アルベルトがさらにページをめくる。
そこで空気が変わった。
今までとは違う。
研究者の文字が荒れている。
急いで書いたような跡があった。
『第三因子研究成功』
『だが問題発生』
『第三因子同士が共鳴した』
『予想以上』
『制御不能』
全員が真剣な顔になる。
共鳴。
聞き慣れない単語だった。
さらに下。
研究者はこう記していた。
『最終研究区画で保管』
『危険』
『絶対に解放するな』
静寂。
誰も喋らない。
第三因子研究。
生命進化研究。
最終研究区画。
全てが一本の線で繋がった気がした。
その時だった。
研究棟全体が揺れた。
ゴゴゴゴゴ……。
低い振動音。
全員が立ち上がる。
「何ですか!?」
リリスが周囲を見る。
危険な気配はない。
戦闘でもない。
だが確実に何かが起きている。
次の瞬間。
通知が現れた。
⸻
第三因子研究録
閲覧完了
⸻
最終研究区画
解放条件達成
⸻
管理権限更新
⸻
沈黙。
リリスが固まる。
アダプトロードも動かない。
幻影狼だけが静かに目を閉じた。
まるで。
やっとここまで来たと言うように。
そして。
研究棟の遥か奥。
今まで閉ざされていた巨大な扉が光り始める。
最終研究区画。
三十年前の研究者が残した最後の場所。
生命進化研究の終着点。
第三因子研究の完成形。
忘れられた洞窟最大の秘密が眠る場所。
アルベルトはその光を見つめていた。
恐怖はない。
警戒はある。
だがそれ以上に。
知りたいという気持ちが強かった。
「行くか」
その一言に。
リリスは大きなため息を吐いた。
「そう言うと思いました」
予想通りだった。
忘れられた洞窟の歴史。
三十年前の研究者。
そして配合眼の秘密。
その全てが、もうすぐ明らかになろうとしていた。




