第101話 後継者認証
第一育成区画。
静かな森の中。
アルベルト達は幻影狼を見つめていた。
三十年以上前の研究施設。
そこに眠っていた研究個体。
そして。
アルベルトへ頭を下げた存在。
普通ではない。
どう考えても普通ではない。
「本当に研究個体なんですか?」
リリスが小声で聞く。
「そう表示されていたな」
「研究個体が三十年以上生きているんですか?」
「そこも気になる」
全員が警戒を解かない。
森護兵将。
岩牙守護将。
アダプトロード。
いつでも動ける状態だった。
だが。
幻影狼は敵意を見せない。
むしろ静かだった。
どこか懐かしむように周囲を見ている。
まるで。
主人の帰還を待っていたかのように。
その時。
再び通知が浮かび上がった。
⸻
後継者認証進行中
⸻
研究管理権限照合
⸻
沈黙。
リリスが固まる。
「また出ました」
「ああ」
アルベルトが画面を確認する。
そして。
次の瞬間。
第一育成区画全体が光った。
森。
小川。
育成槽。
全てが反応する。
管理者認証。
施設そのものがアルベルトを調べている。
そんな感覚だった。
数秒後。
通知が更新される。
⸻
適合率
61%
⸻
「低くないですか?」
リリスが言う。
「高くもないな」
研究者本人なら百%だったのだろう。
つまり。
アルベルトは完全な後継者ではない。
だが。
無関係でもない。
その時だった。
幻影狼が立ち上がる。
「グル」
低い鳴き声。
そして。
ゆっくり歩き始めた。
奥へ。
最終研究区画がある方向へ。
「案内してるのか?」
アルベルトが呟く。
幻影狼が振り返る。
そして再び歩く。
どう見ても案内だった。
「行きましょう」
リリスが言う。
探索隊が動き出す。
森を抜ける。
途中。
様々な施設が見えた。
育成檻。
訓練場。
特殊環境室。
どれも今は停止している。
だが。
昔は使われていた。
忘れられた洞窟が研究施設だった証拠だった。
その頃。
「ぷに」
ぷには寄り道していた。
当然だった。
小川を見つける。
飛び込む。
流される。
「ぷにぃぃぃ!」
夜宝守が慌てて追い掛ける。
いつもの光景だった。
リリスが頭を抱える。
「真面目に探索してください」
誰に言っているのか分からない。
本人達は楽しそうだった。
数分後。
一行は広場へ出た。
そこには石碑が並んでいた。
十本。
二十本。
三十本。
異様な数だった。
アルベルトが近付く。
一番手前。
そこに刻まれていた文字を見た瞬間。
全員が固まった。
⸻
研究個体001
失敗
⸻
次。
⸻
研究個体002
失敗
⸻
さらに。
⸻
研究個体013
失敗
⸻
失敗。
失敗。
失敗。
石碑のほとんどが失敗だった。
研究墓標。
そう呼ぶべき場所だった。
「これ……」
リリスが言葉を失う。
普通の配合士は成功率が低い。
だが。
目の前の研究者は違った。
成功率が低いから失敗したのではない。
成功した後。
さらに上を目指した。
その結果。
数え切れない失敗が積み重なった。
そんな気配を感じる。
そして。
最奥。
一つだけ。
黒い石碑があった。
他と違う。
失敗とも書かれていない。
幻影狼はその前で止まった。
静かに座る。
まるで墓守のように。
アルベルトが近付く。
石碑に触れる。
すると。
文字が浮かび上がった。
⸻
研究個体零番
⸻
成功
⸻
管理者補佐個体
⸻
名称
幻影狼
⸻
沈黙。
リリスが息を呑む。
アダプトロードも固まる。
幻影狼は研究個体だった。
だが。
失敗作ではない。
最初の成功作。
研究者が作り上げた最高傑作の一つだったのである。
その時。
さらに下の文字が現れた。
誰も見たことのない記録。
三十年前の研究者が残した言葉。
⸻
私が戻らなかった場合
零番に託す
⸻
後継者を導け
⸻
そこで映像が終わる。
静寂。
森を風が吹き抜ける。
幻影狼は何も言わない。
ただ。
ずっと待っていたのだ。
三十年以上。
研究者の代わりに。
後継者が来る日を。
そして今。
その役目を果たそうとしていた。




