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『最弱ダンジョンの配合士 ~誰も知らない配合で最強ダンジョンを目指します~』  作者: もかどら


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第100話 第一育成区画

忘れられた洞窟。


管理室。


薄暗い室内に漂う沈黙の中、アルベルト達は銀色の鍵を見つめていた。


第一育成区画管理鍵。


三十年以上前の研究者が残した遺産。


そして。


忘れられた洞窟の秘密へ繋がる鍵。


「ついにですね」


リリスが小さく呟く。


その声には期待だけでなく、拭い切れない緊張も混じっていた。


第二育成区画を発見した時も驚いた。


だが今回は違う。


研究者自身が危険と判断し、わざわざ封印した場所なのだ。


何が眠っているのか分からない。


いや。


眠っていてくれる保証すらなかった。


「準備は?」


アルベルトが聞く。


「完了」


アダプトロードが即答する。


探索隊は前回と同じ。


シャドウリーパー。


森護兵将。


岩牙守護将。


鋼影狼。


忘れられた洞窟の主力達である。


さらに今回は夜宝守も同行していた。


そして。


当然のようにぷにもいる。


「ぷに!」


元気だった。


危機感はない。


いつも通りだった。


その無邪気さだけが、かえって場違いに感じられた。


 


数十分後。


一行は第二育成区画の最奥へ到達した。


そこには新たな扉がある。


今まで発見されなかった巨大な金属扉。


長い年月を経てもなお異様な存在感を放っていた。


中央には鍵穴。


銀色の鍵と完全に一致していた。


「開きますね」


「開くだろうな」


アルベルトは鍵を差し込む。


ゆっくり回す。


重い音が響いた。


 


ガコン。


 


三十年以上閉ざされていた扉が動く。


その瞬間。


管理室だけではない。


洞窟全体が軋み、どこか遠くで巨大な何かが目覚めたような錯覚が走った。


岩肌の奥から低いうなり声のような振動音が伝わり、足元が微かに震える。


冷たい空気が隙間から流れ出る。


それはただ冷たいだけではない。


肌に触れた瞬間、体温を奪うような異質な冷気だった。


長年閉じ込められていた何かが解放されたようだった。


湿った空気に混じって、古い薬品とも土ともつかない匂いが鼻を刺す。


誰もが無意識に息を止めていた。


そして。


扉が開いた。


その先を見た瞬間。


全員が言葉を失った。


広い。


第二育成区画よりさらに広い。


天井も高い。


設備も多い。


だが。


何より異様だったのは、


生態系。


そこには小さな森が存在していた。


洞窟の中に森。


普通ではあり得ない。


木々が生えている。


草原がある。


小川まで流れている。


まるで自然そのものだった。


しかし。


どこか歪だった。


風もないのに葉が揺れ。


さらさらと擦れ合う葉音だけが空間に響く。


水音は聞こえるのに生き物の気配がない。


静かすぎる。


不自然なほどに。


耳を澄ませば、小川のせせらぎだけが妙に鮮明に聞こえる。


その静寂は安らぎではなく、何かが潜んでいると本能に警告する種類のものだった。


場所によって空気の温度まで違っていた。


森の近くは湿り気を帯び、岩石地帯からは乾いた熱気が漂う。


複数の環境が無理やり一つの空間へ押し込められているような違和感。


自然なのに自然ではない。


その矛盾が背筋を薄く冷やした。


「なんですかこれ……」


リリスが呆然とする。


記録妖精の能力が反応した。


第一育成区画。


特殊環境育成施設。


適応進化研究施設。


文字が頭に流れ込む。


「環境そのものを作っていたんです」


「環境?」


「はい」


リリスは周囲を見回した。


夜属性環境。


森林環境。


岩石環境。


湿地環境。


複数の区画に分かれている。


「進化条件を人工的に再現する施設です」


沈黙。


アダプトロードですら驚いていた。


もし本当にそうなら。


ダンジョンの中だけで進化研究が可能になる。


異常な施設だった。


常識から完全に逸脱している。


生物を育てるためではない。


進化そのものを支配しようとした痕跡だった。


その時。


夜宝守が走り出した。


「またですか」


リリスが頭を抱える。


夜宝守は真っ直ぐ森エリアへ突っ込む。


ぷにも追い掛ける。


完全にいつもの流れだった。


だが。


今回は違った。


森の奥。


そこに何かいた。


全員の動きが止まる。


シャドウリーパーが警戒態勢へ入る。


森護兵将も構える。


岩牙守護将が前へ出る。


空気が張り詰める。


周囲の温度が一段低くなったような錯覚。


さっきまで聞こえていた葉擦れの音さえ遠のき、耳鳴りのような静寂が広がる。


生き物だった。


白い毛並み。


狼。


だが。


普通の狼ではない。


身体が半透明だった。


まるで幻影。


存在しているのに存在感が薄い。


輪郭が揺らぎ、今にも消えそうでありながら確かにそこにいる。


その姿を見るだけで、視界の端が微かに歪む。


不気味な魔物だった。


通知が表示される。



幻影狼



研究個体



保存状態:休眠



管理室が静まり返る。


研究個体。


初めて見る表記だった。


しかも。


まだ生きている。


三十年以上前の研究施設に。


あり得ない。


常識では説明できなかった。


「嘘でしょう……」


リリスが呟く。


その時。


幻影狼がゆっくり目を開く。


青い瞳。


冷たく澄んだその視線が、まるで獲物を値踏みするように一行を見渡した。


視線が向けられた瞬間、胸の奥を冷たい指でなぞられたような感覚が走る。


空気が重く沈み込み、誰も声を出せなかった。


そして。


アルベルトを見た。


数秒。


見つめ合う。


重苦しい沈黙。


次の瞬間。


幻影狼が頭を下げた。


まるで。


主人へ挨拶するように。


沈黙。


誰も理解できなかった。


なぜ。


研究個体がアルベルトへ頭を下げたのか。


その直後。


施設全体へ通知が響く。


乾いた電子音が洞窟中へ反響し、静寂を鋭く切り裂いた。


 



管理者認証更新



後継者確認



研究権限一部解放



 


リリスが固まる。


アダプトロードも固まる。


森護兵将も動かない。


アルベルトだけが表示を見ていた。


後継者。


その言葉が妙に重かった。


通知が表示された瞬間、空気そのものが変質したようだった。


どこかで停止していた機構が再起動したのか、遠くから低い駆動音が響いてくる。


三十年間眠っていた施設が、アルベルトを認識した。


そんな実感が背筋を這い上がった。


三十年前の研究者。


忘れられた洞窟。


配合眼。


研究施設。


全てが少しずつ繋がり始めている。


だが同時に。


封印された理由もまた、少しずつ輪郭を現し始めていた。


そして。


幻影狼の背後。


森の奥。


さらに巨大な扉が見えていた。


その表面には文字。



最終研究区画



その文字を見た瞬間。


誰もが本能的な嫌悪感を覚えた。


胸の奥がざわつく。


理由は分からない。


だが近づいてはいけないと、本能だけが警鐘を鳴らしていた。


ここまででさえ異常だった。


ならば、その先には何があるのか。


忘れられた洞窟最大の秘密は。


まだその先に眠っているようだった。

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