表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

241/242

第219話 神と人の、ちょうどいい距離



魔族領の朝は、静かだった。

かつて魔王城と呼ばれた建物は、今では行政庁舎という名に変わり、威圧感のない外観になっている。尖った塔も、血の匂いを連想させる装飾もない。代わりにあるのは、実用性を優先した設計と、やけに頑丈な机と椅子だった。

会議室の中央、その机に、分厚い書類が積まれる。

「……多くない?」

書類の山を見下ろして、代表――ヘラクレスはぼやいた。

背は高く、体格もいい。だが、威圧する気配はない。剣は壁に立てかけてあるが、最近はほとんど出番がない。服装も簡素で、動きやすさ重視だ。

「合衆国側からの調停要請です」

「港湾都市の電力配分の再調整案も 」

「魔族領内部の自治規約、最新版です」

部下たちが淡々と報告する。

ヘラクレスは一つため息をついた。

「俺、元は戦う役だったんだけどな」

「今は“まとめる役”ですね」

「……世の中、変わるもんだ」

そう言いながらも、彼は書類を手に取る。読む速度は速い。要点を掴むのも早い。判断に迷いはない。

それを見て、部下の一人が小さく言った。

「ヘラクレスさんが代表で助かってます」

「話が通じますし」

「力があるのに、振り回さないのがいい」

「“振り回さない”は褒め言葉でいいんだよな?」

苦笑しつつ、ヘラクレスは言う。

「力を使えば、確かに早い。でも、それで終わらせるとさ……」

「終わらせると?」

「次が来る。不満とか、依存とか、期待とか。

 力で解決した分だけ、重くなる」

彼は窓の外を見た。

街には、人も魔族も、獣人もドワーフもいる。誰も空を見上げて祈ってはいない。雷が走っても、「電力が安定してるな」くらいの反応だ。

「神様がどうにかしてくれる、って時代じゃない」

「でも、神はいなくなったわけじゃありません」

「分かってる。……だから、ちょうどいいんだ」


その頃、天界。

円卓の間ではなく、資料室。

統括はタンクトップ姿で、報告書をめくっていた。

「魔族領、安定」

「合衆国との摩擦、軽微」

「雷系インフラ、問題なし」

紙をめくる音だけが響く。

統括は鼻を鳴らした。

「……優秀すぎるだろ」

「何か問題でも?」

「いや、問題はない。

 ただな……」

統括は報告書から目を離し、天井を見上げる。

「お爺ちゃんとしては、ちょっと寂しい」

「……寂しい、ですか?」

「完璧すぎてさ。

 たまにはこっちに顔出して、

 “判断間違えました”くらい言いに来てもいいのに」

ウェスタは、思わず微笑んだ。

「でも、それは統括が望んだ姿でもあります」

「分かってる。分かってるけどさ」

統括は肩をすくめる。

「前に出ない。

 頼らせすぎない。

 でも、突き放さない。

 ……距離感、うまいんだよ、あいつ」

「父親譲り、でしょうか」

「どっちのだ?」

「……両方、ですね」

統括は小さく笑った。

「そうか。

 なら、文句言えねえな」


下界では、会議が終わり、人々が席を立つ。

「では、次回は三十日後に」

「代表、お願いします」

ヘラクレスは軽く手を振って見送る。

誰も彼を「魔王の子」と呼ばない。

誰も「神の血」を口にしない。

ただ、話が通じる人として、そこにいる。

ふと、彼は天井を見上げた。

雷が遠くで、小さく鳴った気がした。

「……今日も平和だな」

それだけ呟いて、また机に向かう。

神は降りてこない。

声も聞こえない。

だが――

神が離れたからこそ、人は立っている。

そして、見守る側は、

少しだけ寂しさを抱えながら、

それを誇りに思っている。

神と人の、ちょうどいい距離。

それは誰も言葉にしないが、

確かに、この星を支えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ